『夕立ち』-征司- ① 

2010, 06. 11 (Fri) 21:12

すみません、ぜんっぜん進みませんでした…。

うわああん、オオカミが来る~。

とりあえず・・・。
これは、多分三分の一になると思います。

続きは絶対近いうちにしますので!!
ほんとにごめんなさい。



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  飲んだくれ猟師と化け猫の話。
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『夕立ち』-征司-


 雲が空を走り抜けていく。

 窓辺に立ち、征司は空を見上げた。

 うっそりと重たげな色をしているにもかかわらず、強い風に流されて次から次へと走っていくその様に胸騒ぎを覚えた。
 つい先ほどまでの澄み渡った晴天がかき消されるのも時間の問題だ。

 ・・・雨が来る。

 背広のポケットが振動し、携帯電話の着信を伝える。
「・・・はい」
「・・・ごめん、今いいかな」
 開いて耳に当てると、顧問弁護士の一人の毛利智成の声が聞こえた。
「どうかした?」
 長年の友人でもある彼の言葉遣いに、内容は私事だと知る。
「うん・・・」
 一瞬、逡巡するような間をおいた後、ぽそりと答えた。
「蒼が近くで待っていると思う」
 ある程度予測していた言葉に息を吐く。
「・・・そうか」
「脅されたからというより、このままにしている方が悪い方に行きそうな気がするから・・・。今日は本宅で打ち合わせの後、六時頃西門を出て食事会へ行くと答えた。僕は会うべきだと思ったけど、そこを通るかどうかは征司が決めてくれ」
 この敷地にはいくつか門があり、規模はそれぞれ違うがどこからも出入りが出来るようになっていた。
 ただし西門から出る場合は、隣りの別邸との間の私道をしばらく進まないと公道へ出られないし、遠回りになるために関係者すらあまり利用しない。おそらく、それを考えてわざと智成は西門を使うと伝えたのだろう。
「・・・わかった。知らせてくれてありがとう」
 柔らかな友人の声の奥にひそむ気遣いに感謝の言葉を述べて、通話を切る。

 蒼が待ってる。
 どこか心の中で先延ばしにしていた事に、決着をつけるべき時が来てしまった。
 ・・・もう、戻れない。

 深く息を吸った後、踵を返して隣室に控えていた秘書の一人に言う。
「高遠に、準備が出来次第、西口へ車を回すように伝えてくれるかな」
 はい、と答えて内線電話を取るのを見届けて戸を閉める。
 扉に背を預け、ネクタイの結び目に手をかける。
 指先が震えて、力がなかなか入らない。

 行かなければ。
 行って、蒼の目を見て、言わなければ。
 永遠に、
 さよならだと。
 ・・・言わなければいけない、蒼のために。

 別れの言葉を言うために、ネクタイを解いた。


 紺色の車の前に立つ秘書の高遠はネクタイと背広を腕にかけて出てきた主の姿をちらりと見たものの、黙って後部座席の扉を開けて中へ促した。
「西門から出てくれ。速度をかなり落して」
 蒼はいないかもしれない。
 そんな微かな期待が征司の口を閉ざした。
「はい」
 十歳ほど年上のこの専属秘書は、いつも多くを聞かない。
 それでもこの五年間、智成とともに一族の者たちの目から蒼の存在を隠し通してくれた。
 そんな彼に、なぜかこれから起きるであろう事を言う勇気がなかった。

 夏の初めの夕方で、まだ日も沈んでいない筈なのにうっそうとした木に挟まれた私道は薄暗かった。しかし、門を出てさほども行かない先に黒いシャツ姿の男が立っているのが見えた。
「あれは・・・」

 やはりいた・・・。
 蒼だった。

 高遠はさらに減速し、蒼の手前で車を停めた。
 彼はゆっくり歩み寄り、だん、と威嚇するかのようにボンネットに両手をついた。
「征司、降りろよ。話がある」
 鋭い、刃のような瞳が征司の胸を突き刺す。
 思わず息をのむと、「・・・行きましょうか?」と高遠がシートベルトを外してドアに手をかけようとする。するとそれが蒼の気に触ったのか、更に大きな音でボンネットを叩いた。
「あんたには用がない!」

 今、目の前にいる男は誰だろう。
 こんな目でこんな事をする人ではなかったのに。
 …そうさせたのは、自分なのだ。

「いいよ、僕が行く」
 フロントガラス越しに睨む蒼から目を離せないままシートから身を起こす。
「…別の場所を設けましょうか?」
「いや、その必要はない。・・・ごめん。来るのはわかっていたんだ」
「いえ、それは。・・・私も解っていましたから」
「・・・そう。そうだよね。ごめん」
 これから財界のパーティーへ向かうにもかかわらず、ネクタイを外して襟元を緩めている段階でそれを予告しているようなものだった。
「雨が降ります。私が車から降りますから、どうぞお二人は中に・・・」
「そしたら、きっと、蒼が車を乗っ取るよ?」
「――――――!」
 ふいに笑いがこみあげてきた。
 このところの蒼の行状は常軌を逸したものだったから、全く洒落にならない。
 今の蒼ならやりかねないだろう。
「悪いけど、このままここで待っていてくれないかな」
 高遠がここにいることで、自分と蒼に少しは抑止力がかかるような気がした。
 ・・・彼を立会人にするつもりは、なかったのだけど。
「雨が降っても、風が吹いても、・・・蒼が僕に何をしても、ここにいて」
 ぽつん、とフロントガラスに水滴が一つ落ちた。
「すべてが終わったら、必ず戻るから」
「・・・わかりました」
 ドアに手をかけ、外へ出る。
 背筋を伸ばすと、湿度を帯びた生温かな風が乱暴に髪をかき混ぜた。


「・・・どうしてここに?」
 何を言えばいいのかわからなくて、適当な言葉が口を出る。
「毛利から聞きだした。今日は本宅で法的な手続きをした後、夕方に会食のために移動するって」
 違う。聞きたいことはそんなことではなくて。
 しかし遮る勇気もなく、浅く頷いた。
「そうか・・・」
「わかってはいると思うけど、あいつのせいじゃないからな。俺がさんざん脅して聞きだしただけだ」
「うん、そうだね・・・」
 こんな時に、蒼本来の心優しい部分が顔を出す。
 蒼はいつだって優しかった。
 優しく、大切に、抱きしめてくれた。
 申し訳なさに目を合わせることが出来ない。
「来いよ、場所を変えよう」
 腕を取られて、正気に戻った。
 自分は何のためにここにいる?
 懐かしい指先を慌てて振り払う。
「こ・・・、ここでいい。知っての通り、次の約束があるから」
 声が震えそうになるのを必死に堪える。運の良いことに風に押された木々のざわめきがあたりをかき乱してくれた。
「何かあったら秘書が飛び出すという算段か?」
 蒼が運転席を顎で指して鼻で笑う。その歪んだ唇に目の前が塗り潰されるような思いになりながら、精いっぱいの力で睨みつけた。
「高遠には何があっても出てくるなと言ってある。それにどうせここにはだれも来ない」
 智成が用意してくれた舞台だ。上手く演じ切らねば。
 おそらくこれを逃したらますます事態がこじれていくだけだろう。そうなる前に幕を引かねばならない。
誰のでもなく、自分の手で。



 ―『夕立-征司-②』へつづく―



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