『秘密の花園』-佳客の宴 5- 

2014, 06. 14 (Sat) 17:30

 お待たせしました。
 『佳客の宴』の続きです。
 ・・・終わらなかった。
 展開は私の計画内なのに、どうして長くなるのか。

 今度こそ、来週で終わります。
 あと一話。

 もう、今日の分で切っても良い気がしましたが、やはり未消化なので、あと少し書かせて下さい。


 『秘密の花園』を初めて読まれる方は『まとめサイト』でどうぞ。


 ではでは、続きは月曜日に。


  ↓小説は折りたたんであります。読む方は下をクリックして下さいね。



  記事の一番下の『拍手』ボタンをクリックして頂くと小話をご覧になれます。
  現在は、『睦み月』で『シゲルとミケ』シリーズです。
  飲んだくれ猟師と化け猫の話。
  楽しんで頂けたら幸いです。

 アクセスして下さったり、拍手やバナークリックで励まして下さる皆さんに感謝しています。
 もしもよろしければ感想や要望など頂けると、本当に嬉しいです。


ブログランキング・にほんブログ村へ


   拍手小話はこちら →

『秘密の花園』-佳客の宴 5-


「・・・そろそろ、ごはんの支度をしましょうか」
 救急箱の蓋を閉めた可南子は卓上の整理を始める。
「とは言っても、私に出来るのはお皿を出すことくらいなんだけどね」
 くくくと喉の奥で笑われて、憲二はぽかんと口を開けた。
「え・・・?」
「私、家事がからきしなの。母もそうなんだけど、何一つしたことなかったから」
 かなり裕福な家に育った両親を持つ可南子は、些細な家事も経験がない。
 今の住まいにも両親が手配した家政婦が定期的に通ってきている。
「勝己も最初はそうだったみたいなのに、今はポトフもあり合わせの材料で適当に作れちゃうなんて、やっぱり才能の違いかしら」
 無邪気に首をかしげられて憲二は困惑した。
 よくよく考えたら真神の家も似たようなもので、実際、自分も何一つ出来ないし、家政婦を雇っている。
 しかし、今の勝己は小さなマンションに独り暮らしで可能な限り自炊を頻繁にし、しかも弁当持参で通っているようだ。
「最初は、おにぎりしか作れなかったらしいのに、ずいぶんの進歩よね」
「確かに・・・。才能なのか、これは」
「それか、私のおかげかも」
 少し自慢げな口ぶりに、ざわりと耳元が泡立つ。
「私達の始まりってね。おにぎりなのよ」
 馴れ初めなんぞ聞きたくないと思いつつも、ついつい可南子のアルカイックに上がった唇を注視してしまう。
「彼がうちの研修医だった頃にね。私、助教の仕事にもう限界だったの。ドロッドロで」
「ああ・・・。なるほど」
 助教の仕事は多忙だ。
 自分の仕事をこなしつつ、学生の面倒も見なければならない上に、上司から丸投げされる雑事が多い。
 有名大学でポストを得るのは生半可なことではないし、その後も安泰なわけではない。
 むしろ、女性である故の困難がつきまとう。
「活躍すれば『女のくせに』で、少しでも隙を見せれば『これだから女は』で、いったいどうしたいのよ、あなたたちはって叫びたくなったわ。いえ、実際叫んだこともあるけれど」
「叫んだんだ・・・」
「ええ。でも、ぶち切れて見せたところで何も好転しないのよね。逆に喜ばせるばかりで。だからためにためて、休憩室で一人になったところで空き缶を壁に思いっきり投げつけたらね、跳ね返ったそれがいないと思った勝己に当たっちゃったの」

 幸い、大事に至らなかった。
 ただ、逆に「大丈夫ですか?」と気遣われて、感情の全部が吹き出した。
「もう、何を言ったか覚えていないのだけど、床に座ってわんわん泣いたら、一緒に床に正座して黙ってそばにいてくれて、落ち着いた頃に一言聞かれたの。『おにぎり、食べますか?』って」
 そういって、ごそごそと紙袋から取りだしたのはラップに包まれた大きなおにぎりだった。
「その当時、勝己も自炊を始めたばかりだったから、一合炊いたのを半分に割って梅干しのせて寿司用の海苔に包んだだけの、ものすごく不器用なおにぎりだったけど、物凄く美味しそうで、そのまま食べちゃった」
 無言で、彼からもらったおにぎりを猛烈な勢いで二個とも食べ終えた時、何もかもどうでも良くなった。
「ごちそうさま。ありがとう」
 礼を言うと、
「どういたしまして」
 と、丁寧に頭を下げられた。
 夜勤のために作っていたであろうそれを取り上げられたのに、新米医師は楽しそうに笑う。
「お腹が、空いていたんですね」
「どうもそうみたい・・・」
「唇に、海苔がちょっと、ついてますよ」
「ええっ!ちょっと待って!!」
 すぐさま立ち上がって、部屋の隅の洗面台目指して走った。
「もう、大丈夫そうですね」
 力が、いつの間にかみなぎっていた。

「それから時々、おにぎりを差し入れしてくれて・・・。そのうち形が小さく整った三角になって、卵焼きがつくようになって、きんぴらとかひじきとか、だんだんおかずが増えていって・・・。私、シリアルバーとかカップ麺ばかりだったから」
「・・・医者の不養生?」
「そう。それでイライラしていたのね」
 のどかな笑いをぼんやり見つめ返しているうちに、あることに気付く。
 勝己は、可南子を放っておけなかったのだ。
 この、綺麗で才能に溢れているけれど、実生活はてんで駄目な年上の女性を気に掛けているうちに、愛着がわいたのだろう。
 それは、かつて自分たちに対してそうであったように。
 そして、無意識のうちにそれを察しているからこそ、彼女は・・・。
「まあ、憲二さんも一緒に育てたようなものね」
 指摘されて、指先に目を落とす。
 自分も、こうやって常に頼っている。
「育てた・・・か」

 弟は、生まれた時からそうだった。
 育てたんじゃない。
 みんな、彼に支えられて生きながらえいる。
 なら、勝己のほんとうの望みは?

「ごめん、遅くなった」
 落ち着いた声が降りてきて、我に返った。
「やだ、勝己、まだびしょ濡れじゃない」
「暑いんだよ、浴室に熱気が籠もって」
 会話に振り向くと、腰にバスタオルを巻いただけの姿の男が、頭をハンドタオルで拭きながら歩いている。
「な、なんだよ、お前その格好」
 むき出しの、男の身体に思わず目をみはる。
 広い肩から腹まで続く、引き締まりきった上半身。
 完璧に張り巡らされて盛り上がる筋肉の上をぬめった光が覆い、もともと色が白めであることもあってまるで磨かれた大理石の彫像のようだった。
 いや、彫像なんてものじゃない。
 生きた、男だ。
「なに・・って、俺は風呂に入る予定じゃなかったから」
「あ・・・そっか」
「あら、ごめんなさいね」
 着替えを置いてやることを、二人とも思いつかなかった。
「いいよ。すぐ戻る」
 大股で通り過ぎ、引き戸の向こうの寝室へ入ってしまう。
 引き出しを開けて着替える気配を感じながら、ゆるゆると息を吐いた。
「・・・驚いた」
「何が?」
「あいつ、大人になったんだな」
「あら。お兄ちゃんの中ではいくつになっても可愛い弟のままなのね」
「可愛いも何も・・・」
 勝己は勝己で、それ以外何者でもなかったのだ。
 身体なんて、見た記憶も、ない。
「お待たせ。晩飯にしよう」
 せかせかと、足早に自分たちの横を通った男はハーフパンツにTシャツの緩い格好で。
 いつもの、弟だった。
「・・・憲?」
 まだ濡れて光る頭を傾けて振り返るその瞳も、いつもの、静かな色で。
「ん・・・。なんでもない」
 だから、いつもの答えを返す。
「腹減った。早く食べさせろよ」
「はいはい」

 弟が、笑う。




                   -つづく-




      < ↓ポチリとしてくださるとうれしいです↓ >

  br_decobanner_20100412095827.gif  にほんブログ村 小説ブログ BL小説へにほんブログ村
スポンサーサイト

タグ:続きを読む

コメント

コメントの投稿

非公開コメント