過去・拍手御礼SS 『silent love -ルカ-』  

2013, 04. 30 (Tue) 23:41


 2013年3月の拍手御礼用小話です。
 ルカ視線の『silentlove』。

 いい加減、拍手御礼のほうのエントリーだと、ごっちゃになるなあと思うこの頃。
 サイトを作りましたら、改変しますね。

 それまでしばらくは、こちらの方でお楽しみ下さい。



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  現在は、『睦み月』で『シゲルとミケ』シリーズです。
  飲んだくれ猟師と化け猫の話。
  楽しんで頂けたら幸いです。

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 Silent love-ルカ-

 すべての景色が白く霞んでいる。
 花曇り、と言うらしい。

 ぼんやりと見える太陽はまだ昇りきっておらず、もやのかかった空間で光が乱反射している。
 どことなく花の甘い香りと、土の香ばしい匂い、季節の狭間のひんやりとした空気、そして春を謳う鳥たちの声が入り交じった。

 桜並木が、川沿いに続いている。
 冬の間はただの木立のある歩道だったのに、突然そこは魔法がかけられたかのように色で埋め尽くされていった。
 川面に向かって腕を差し出すように伸びた枝の先まで薄紅色の花びらで埋め尽くされ、時折風になぶられたそれがふわりと宙に舞う。
 音もなく舞う花びらは、冬の初めに見る淡雪に似ていた。
 ・・・しかし、触れてもけっして消えない。
 消えずに、そこにある。
 手の平へ舞い降りた一枚の花弁に、かすかな重みと、現実を感じた。


 肩が触れそうで触れない距離を保ったまま、ゆっくりと足を進める。
 傍らでぼんやりと桜を眺めつつ、どこか機械的に歩く彼は、とても疲れた顔をしていた。

 触れそうで、触れない距離。
 触れたいけれど、触れられない。

「・・・ちょっと、休んで良いか」

 本当に疲れているのだろう。
 少し乾き気味の唇からかすかにため息をついて彼が言う。

「・・・ええ」

 桜の木がまるで傘のように覆って日差しを緩めてくれているベンチに、静かに腰を下ろした。
 背もたれに身体を預け、やや仰向けになって彼は桜の木を見上げる。

「・・・こんな風に桜を見るのは初めてだな」

 彼はそう言うと、ふっと笑って目を閉じた。
 花の残像を、川のせせらぎを、鳥たちの鳴き声を、彼は楽しんでいる。
 深く息を吸い込んだのか、ゆっくりと胸板が上がっていくのが見えた。

 彼が、今、ここにいる。
 確かな存在。

 触れたい。
 
 桜の花びらを、掴んだように。

 触れたい。

 気が付いたら、唇を寄せていた。

 ここが人の行き交う遊歩道であることも、もはや昼に近い時間であることも、彼も自分も大人の、男性であることも忘れた。

 ただ。
 ただ、彼の唇に触れたかった。
 彼が、彼であることを確かめるために。

だから、その唇を、自らの唇と合わせた。

風がなでるより軽く、桜の花びらに触るより確かに、ゆっくと触れて、息がかかるくらいには近くにとどまった。
彼が、目を開いた。

「・・・何をした」

 咎めるわけではなく、ただ、不思議そうに彼が問う。

「・・・キス」

 彼はぼんやりと目を見開いたまま動かない。
 だから、もう一度顔を寄せた。
 今度は、もう少し近くに。
 もう少し、強く。
 彼を、彼の唇を味わい、確かめた。
 温かな、彼の、唇。
 甘い、吐息。
 少し、くぐもった声が、かすかに聞こえた。

 離れたくない。
 でも、彼の近くにあるために、離れよう。

 ゆっくりと唇を解くと、ふう・・・と、彼がため息をついた。
 鼻が触れ合うような近さで、彼は呟く。
「・・・なんで・・・」
 互いの息が、混じる。
「・・・したかったから」

 触れたい。
 混じり合いたい。

 初めて彼の瞳を見た時にそう思った。
 初めて笑いかけてきた時に。
 初めて、欲しいと思った。

「・・・」

 彼は、ゆらりと目を伏せた。
 まつげに僅かに隠された黒い瞳が、僅かにきらめいて見える。

「怒らないの?」

 彼は、優しい。
 優しくて、綺麗だ。
 人を陥れる事なんて考えたこともない、まっすぐな瞳。
 怒るより、自分の非を悔いる人。
 ・・・そして、元妻の弟をけっして突き放せない。
 たとえ、彼女からどれほどひどい仕打ちを受けたとしても。

 つけ込んでいるのを承知で、瑠佳は笑った。
「義兄さん?」
 彼をもっと感じるために。
 
 また、指を伸ばす。
 彼の唇に指先が届いた瞬間、風がさあっと吹き上げた。

 花びらが舞い散る。
 まるで、降り続く雪のように。
 決して消えない、雪。







 
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