『恋の呪文』-16-(『楽園』シリーズ) 

2010, 05. 08 (Sat) 15:25

ここのところ、本当に頭痛が続いて…。
電解質飲料を飲んでちょっと持ち直して…が続いています。

あんまりお世話になっているので宣伝しちゃうぞ。


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さて、今日も続きです。
頑張れ、保坂…。



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  現在は、『睦み月』で『シゲルとミケ』シリーズです。
  飲んだくれ猟師と化け猫の話。
  楽しんで頂けたら幸いです。

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 『恋の呪文-16-』


 朝がくる。
 どんなに哀しい夜を過ごしても
 どんなに楽しい夜を過ごしても
 待ったなしに
 朝は、堂々と朗らかにやってくる。

「よし。行くか」



「立石ぃ。この受注書なんだけどさぁ」
 足取りも軽く金融一課へ足を踏み込んだ途端、言いようもない重い空気に続きの言葉を飲み込む。
 先週まで開発のために顧客先のSE室に缶詰だった立石たちは、次なる開発の準備に向けてTENの自社ビル内の自席に戻って作業している。
 なにかと気を使う顧客先に比べ、好き放題できる社内ならば、羽をのばしてのんびりしているのが普通であるのだが、どうも様子がおかしい。
 腕を組んでたたずむ立石と黙ってファイルをめくる江口、そして珍しく不機嫌に電話の応対をする岡本が、眼鏡を外して目頭をもむ課長の周りを囲んでいた。
「どーしたんだ?あれ」
 コーヒーの缶を握り締め、おろおろ歩き回る飯田の背中を突っ突いて尋ねると、
「いえ・・・。あのう・・・」
と、口のなかでもごもご言うだけで要領を得ない。
「すみません。俺が安請け合いしたから」
「いや。モノは確かに存在するんだから、お前のせいじゃないさ」
 ため息をつく江口に、立石は首を振る。
「でも元々の入荷予定は明日だって、顧客側は知っているからかなりまずいっすよね」
 岡本が受話器を置いた。
「立石!受注の承認印くれないか?」
 呆然と立ち尽くす飯田と事務処理をしながら横目で見守る保坂の横をするりと通り抜け、池山は割って入った。
「・・・何かあったのか?」
「Rー2000の試作機が、確認漏れで来週にならないと届かないことが解ったんだよ」
 立石はにっこり笑って書類を受け取り、課長の机の上に並べる。
「届かないって、顧客との合同テスト、あさってだろ?」
「だから、こうやって皆で頭を抱えているんだよ」
 頭抱えていても今更どうにもなんないんだけどもな、と課長は唸って書類に判をついた。
「モノはあるんだよな。工場に」
「そ。所定の手続き踏んで、物流に乗せるのに、最低五日間を要すると工場の担当者が言うんでよぉ」
 お手上げだぜーと言いながら岡本が伸びをする。
「担当って、長塚だろ?長年一緒に組んで仕事してるくせに、何言ってんだよ」
「だーかーらぁ。ソコが坊っちゃん育ちの融通きかんとこじゃないの?」
 自分の首が危なくならない限り、彼が重い腰を上げないであろうことは、容易に想像がつく。
「あいつ・・・。仕事に波のない総務課か、いっその事、公務員にでもなりゃよかったのに・・・」
 総務課や公務員で頑張っている人々に失礼なコメントである。
 しかし、その場にいる全員の頭は、ほにゃほにゃに色白で分厚い黒ぶち眼鏡を掛けている、くだんの男の顔を憎しみを込めて思い浮べることに集中していた。
「ま、こうしていても仕方ないな。あちらが動かん以上、頭下げて予定を延ばそう」
「でも、そろそろマズイっすね。あんだけどえらいバグ出して大騒ぎしたし、最近何かとモメてるから・・・」
 岡本の言葉に、一瞬江口が眉を寄せるのを視界の端にとらえた途端、池山は更に一歩前へ足を進める。
「ちょっと電話を貸せ。俺が交渉する」
 そして、気が付いたら岡本の方へ手を差し出していた。
「池山?」
「こうなったら、意地でも、長塚にフルマラソンしてもらうさ」



「ちょっと待ったぁ!なによ、それっ!」
 尋常でない保坂の大声に、フロアの住人たちが何だ何だと席を立って様子を伺った。
「どーして私が、あの、超オタクなとっちゃん坊やと、二人っきりで晩ご飯なんか食べなきゃいけないのッ?」
「いや、なにも、ホテルまでご一緒しろとは言わないから・・・うっ」
 ぼすっと、保坂のパンチが見事に池山の腹に納まり、おおーっと野次馬たちの感嘆の声とともに拍手が上がる。
「まあまあ、冗談はさて置き、今回の件、丸く収めるにこした事ないんだ。会社の皆のためにも、我慢してくれないか?」
「かーちょーお」
 握りこぶしを握ったまま恨めしげに振り返る保坂に、課長は素早く机に手をついてすっかり禿げあがった頭を下げた。
「すまんっ!保坂くんっ!この通りだっ!今回は君が泣いてくれっ!でないと、今度こそこの金融一課に血の雨が降るかもしれないんだ・・・」
 顧客との衝突などいつものことではあるのだが、開発が予定より大幅にずれ込んでいるだけに、事態はかなり深刻のようだ。
 保坂がゆっくり辺りを見回すと岡本は机で頭を抱え込んだまま微動だにしないし、飯田と江口はなぜか二人寄り添いあい、固唾を飲んで保坂を見つめるばかりだ。頼みの綱の立石にいたっては、ただ腕を組んでにっこり笑い返してきた。
 ・・・孤立無援とはこのことだろう。
「池山~。あんた、この私にこんな目に合わせようなんざ、何か恨みでもあるの?」
 やり場のない怒りに、保坂は肩をひくひくと震わせる。
「ある」
 池山は即答した。
「なっ・・・」
「王様の耳はロバの耳」
 にた~りと笑う池山に不気味なものを感じた保坂は後ずさる。
「はあ?」
「ちくっただろう。俺のとーっても大切な秘密を」
「あ、あれは・・・!」
「俺たち二人だけの秘密だよって、若葉の美しいけやきの木の下で、俺の奢ってやったスタバのアイスコーヒー飲みながら固く誓いあったのに・・・」
「誓ったって、あんたね・・・」
 両手を胸に当てて、はああ、とわざとらしく池山はため息をつく姿に、保坂は握りこぶしを握る。
「・・・なんか、しみったれた話になってきたな」
「どんなに固く誓い合っても、その内容が絶対色気のない話とばればれなのが、この二人の凄いところだよな」
 野次馬たちはうんうんと頷きあう。
 TENで一番女子社員の熱い視線を浴びまくっている池山と、同じく男子社員の憧れの的である保坂は、他人の入る隙間のないほど親密(?)であるにもかかわらず、カップルと見られたことがないのにはわけがあった。
「オムツ仲間だからなあ・・・」
 倦怠期の日本の男が妻を女として見ない心情に、少し似ているかもしれない。
「とにかく、今は池山が優勢みたいだな」
 しばらく今時の小学生もしないような低次元な小競り合いが続いたが、立石の下馬評通りに話は進んだ。
「わかりましたッ!ぜんっぜん、気が乗らないけどッ!金融一課の皆様の為に、清水の舞台から飛び降りるつもりで、仕方ないからやってあげますっ!」
 課長以下全員が割れんばかりの感謝の拍手を送る。
「保坂くん、ありがとう。助かるよ。場所は当ビル最上階のフレンチレストランで、交際費カード払いでいいから」
「当たり前です」
 怒れる保坂の返事はにべもない。
 社内レストランだったら、いくら二人っきりでも長塚もさすがに不埒な行動は起こしようがないだろう。
 しかし、タダ飯だろうが、身の安全が完璧に保障されていようが、嫌なものは、嫌なのである。
 誰の目にも明らかに、保坂をとりまく空気はぴりぴりしている。
 ・・・目を凝らしてよく見たら、放電しているのが見えそうだ。
「・・・後で、口直しに俺が奢ってやるから、機嫌直してくれよ・・・」
 池山がおそるおそる声をかけると、
「あったりまえでしょ。横浜のビストロでドンペリのロゼくらいは飲ませてもらうから、覚悟しといてよっ」
 べしっと男の額を叩いて、保坂はその場を憤懣やる方ない様子で立ち去った。
 繊細な容姿の持ち主なのに言動がいささか暴力的なのが、男たちが高嶺の花と遠巻きに眺めだけである理由なのかもしれない。
「敬愛する女にあそこまで言われる長塚に、同情せんでもないな・・・」
 席に戻ってパソコンのマウスを手にとった立石は呟く。
「でも、こういうことがなかったら保坂さんと二人きりで食事をするチャンスってなかなか巡ってこないでしょうし・・・」
 上手いことやりましたよね、と飯田はコーヒーをすする。
「・・・許せん、長塚。こっちの弱みを盾にして保坂を・・・」
 岡本は仏頂面でどかっと乱暴に椅子に座り、腕を組む。
「は・・・?」
 飯田は岡本を振り返るが、彼は宙を睨んだまま微動だにしない。
「まあ、一生に一度のチャンスに食らいついて、見事男を下げたんだから、気にすることないだろう」
 隣で立石はくっくっくっと笑う。
「そうだろうがよ。さっきまで俺たちには出せないの一点張りだったくせに、この手のひらを返す言動は許せんものがあるぜ」
 交渉の結果、機材は予定どおり明日入荷することにあっさり決まった。
「素早かったですねぇ」
 しみじみと飯田は頷く。
「しかし、『保坂嬢とお食事の権利』は俺もちらっとは考えたんだが、まさか池山が実行するとはな・・・」
「やっぱり、血の雨、降るんでしょうか・・・。別のところで」
 クワバラ、クワバラ、と飯田が手を合わせると、
「いや、大丈夫だろう。保坂嬢は、弱き者にいつでも寛大だからな」
 立石は肩をすくめた。



「来た来た。あのうすらばか・・・」
 燃え上る怒り静めるためにリフレッシュルームの窓辺に立って外を眺めていると、池山がこちらに向かってやってくるのがガラスに映って見えた。
「何か?」
 保坂が腕を組みつんと顎をそらして横を向くと、池山は顔の前で手を合わせる。
「悪い。本当に、ごめんな」
「本当に、そう思ってるんだか。恋に目の眩んだ男は嫌ね。とんだとばっちりだわ」
「恋って、お前ね・・・」
 池山はがっくり肩を落とし、疲れたようにため息をついた。
「千鶴さんから聞いたけど、江口くんとの関係、断固として否定したんですってね。その舌の根も乾かないうちに、その男をかばうために、この私をオタク男に簡単に売り飛ばすんだから、たまらないな」
「・・・」
 池山は黙って唇を噛み締める。
 保坂はバレッタを外し、長い髪を背中に流して頭をゆるく振る。
「・・・まあ、今回の件はもういいけどね。皆も、本当に困っていたみたいだし」
 ふう、と深呼吸して保坂は伸びをした。
 その姿には、先程までの激しい怒りのあとはみじんもない。
 どんなことがあっても、素早く気持ちを切り替えて前向きに対処する保坂の柔軟さを見込み、それに付込んだ自分を、池山は嫌悪する。
「・・・サンキュ」
「ん」
 せいいっぱいの一言に池山の複雑な想いを読み取り、ゆっくり目を細めて笑った。
「でもねえ、そろそろよく考えてみない?」
「・・・江口のこと?」
「そう。江口くんのこと。これ以上、犠牲者がでないうちにね。あんまりぐずぐずしてたら、あたりいちめん血の池地獄になることを予言するわ」
 とんでもない御神託である。
「・・・やっぱり、まだ怒ってるんじゃないか・・・」
 頭を抱える池山に、くふふふと口元を押さえて保坂は笑う。
「さて、どっちでしょう」





 『恋の呪文-17-』へ続く。







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