『恋の呪文』-14-(『楽園』シリーズ) 

2010, 05. 06 (Thu) 20:28

色々アクシデントがありまして…。
ようやく復旧しました。

花火が終わった後、人が去っていく姿を眺めるのも好きです。
どこにいくのかな~、うまく帰れるかな~と。
たくさんの人がひとところに集まって、それぞれ散っていくのが不思議で不思議で。
…ただ単に、人の流れが一段落するのを待っているだけですが。
カップルあり、家族あり、友達の集団もあり。
けっこうドラマがあって楽しいです。




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  現在は、『睦み月』で『シゲルとミケ』シリーズです。
  飲んだくれ猟師と化け猫の話。
  楽しんで頂けたら幸いです。

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 『恋の呪文-14-』


 気が付くと、いつのまにか花火は終わり、人々は三々五々に別れはじめていた。
「なんてこった・・・」
 ラストの目玉の花火を見逃しちまったのか?と池山は茫然と呟く。
「すみません。俺の身の上話なんかしてしまったばっかりに」
 照れ臭そうな面持ちで、江口は立ち上がろうとする池山に手を貸した。
「お詫びに、責任もって家まで送ります」
「・・・なにいってんだ。俺の家が通り道なんだろーが」
「そうともいいます」
 目と目が合うと、どちらからともなく笑いだす。
 二人の間に長いこと横たわり続けたぎこちない空気は、いつのまにか消えてなくなっていた。



「なんてこった・・・」

 火にかけたヤカンの前で池山は腕を組む。
 浅草から池山のマンションまでの道中、野球談義から仕事の話まで果てしなく話が弾み、気が付いたら江口を家へ連れこんでいたのだ。
 どうしてこうなったのか池山にはとんと見当がつかないので、とりあえずコーヒーを入れることにした。
 連れてこられた江口に至ってはまるで十年来の付き合いかのように平然として、冷房のきいている部屋の真ん中で座布団の上に胡坐をかいてテレビのスポーツニュースを見ている。
 いや、どちらかというと、仕事から帰ってきた旦那に茶を煎れる共働きの妻の図だ。
「なにかが違うぞ。なにかが」
 この光景を有希子が見たら、何と言うか。
 ・・・腹を抱えて笑うに違いない。
「とりあえずこれを飲ませたら、早いとこ社宅へ叩き帰すぞ」
 ぐっと両手を握りこぶしにして、沸騰してぐつぐついいだしたヤカンに宣言した。



「いただきます」
 きちんと姿勢を正して池山に頭を下げてから、江口はテーブルの上のマグカップに手をのばす。
 旦那さま、というより、マスオさん、という言葉がぴったりだ。
「あ、それから、これ、返すぞ」
 隣の部屋から包みを出してきてぽんとテーブルに置いた。
「これは・・・」
 中に入っているのは、江口が突っ返したネクタイとシャツだった。
「そのシャツ、某有名代議士の若妻から貢がれたはいいが、ありえないくらいでかすぎるんだよ。誰かと取り違えたのかもしれんが今更だしな。サイズが合う奴が着る方がいいだろう」
「ちなみに、いつ貰ったんですか?」
「ああ?んーと、高校ん時だったかなぁ、いや、大学に入っていたかな?」
「何と言って良いのやら・・・」
 池山の物持ちの良さには感心こそすれ、未成年のうちから爛れた女性関係には頭が痛い。
「じゃあ、ネクタイは?」
「ああ。それはミラノで自分で買ったやつで、気に入ってたからここぞという時に使おうと思ってたんだけどな。でも、お前がそれを着けてるのを大勢が見たはずだから、もういいよ」
「でも、半日しか着けてなかったですよ?」
「女たちは妙にそういうとこ、チェック厳しいんだよ。今度俺がそれを着けてみろ、『まあ、お・そ・ろ・い』と言うか、『デキテルのよ、あいつら』というに違いない。だいたい。お前が着けていった翌日、そりゃあ、もお、いろんな噂があの三十階建てのビル内を走り回ってたらしいぞ」
 どうやら江口は、噂が走り回るほど女性からの注目度が高いらしい。
「俺の噂、ですかぁ?ガセですよ。それ。」
 江口は間髪置かずに否定した。
「製品パンフレットのモデルに起用されて、得意先にまで騒がれている池山さん達ならわかりますが、俺じゃあ話にもならない」
 ふうーっとため息をつきながら、正座していた脚を解いて胡坐をかく。
「嘘じゃない。本当の話だってば」
「またまた・・・」
 まったく相手にしない江口にむっとした池山はテーブルに両手をつき、身を乗り出して力説した。
「だって、だって、お前、よく見たら、それなりに男前じゃないかっ!」
 一瞬、水を打ったように部屋の中が静まり返り、テーブルをはさんで二人は向かい合った状態のまま、見つめ合う。
「・・・よく見たら、それなりに、男前・・・?」
 江口はぷぷーっと吹き出した。
「あっはっはっ。そりゃあいいや。ナイスフォローだ。ははははは」
 げらげらと腹を抱えて笑いだす。
「ちょっと待て、笑うなよてめーっ、おいっ、人の話、真面目に聞けよっ!」
 なおも笑い続ける江口に業を煮やした池山は、真っ赤になってテーブルを飛び越え掴み掛かる。
「人がせっかく誉めてやってんのに、その態度は何だよっ」
 反動で仰向けに倒れた江口の腹に馬乗りになり、襟首を掴んでぎゅうぎゃう締めあげているのに江口は笑うのをやめない。
「だって、その表現・・・。あはははっ」
「こんのやろう・・・」
 目尻から涙を流してまだ笑う姿に、心底頭にきていた。
「笑うなって言ってるだろうっ」
 たくましい首を両手で掴んで叫んだ。

 その時、池山の頭には『江口の口をふさぐこと』しかなかったと言っていい。
 ここで指先に満身の力を込めてしまえば立派な犯罪者だったのだが、彼のやった行動は意に反して別のことだった。
「は・・・?」
 池山の頭がいきなり降ってきた。
 とっさに江口は『頭突きか?』と身構えたのだが、接近したのは別のものだった。
「・・・・・・・!」
 生暖かいものが江口の口を覆った。
 言わずもがな、またもや池山の唇である。
 前回と同じように奇襲を食らった形になったが、もはや、やられっぱなしの江口ではない。
 どうしてこうなったのかいまいち理解に苦しむところだが、せっかくの据え膳だ。有り難くいただくことにしよう。
 両腕で池山の体をしっかり抱え込んで反転させる。
「・・・・・はぁっ・・・」
 のしかかる体の重さに思わず息をついて僅かに開いた池山の唇に、今度は江口が噛み付くように唇をあわせた。
「んっ・・・」
 体中にじわじわと押し寄せてくる快感に、何が何だかわからなくなった池山は眉根を寄せる。
 ただ、唇を甘噛みされ、時折歯列をゆっくりなぞる舌の感触と、絡み合う吐息が気持ち良すぎて、背筋がぞくぞくする。
 深く入りこんできて自分の舌に絡んだかと思うと、軽く唇を吸う。
 まるでじらすような動きに、池山はいつしか自分から江口の頭に腕を回して追い掛けていた。
 やがて江口の指先が池山の体をゆっくりと動きだし、唇は頬から首筋へとたどる。
「はっ・・・あっ・・・」
 首筋の一点を強く吸われて、思わず甘やかな声を上げてしまったその時、

 ぴぽぴぽ、ぴんぽんぴんぽーん

 ボタンが壊れないかと心配したくなるほどの勢いでドアチャイムが鳴り続ける。

「・・・借金取りですか?」
 池山の首から唇を放しはしたが、息のかかるほどの近さで江口はまじまじと仰向いた顔を見つめた。
 潤みきった目の縁をうっすらと赤らめ、上気した頬と意外に白い首筋の対比が、なおのことそそられる。
「こんの・・・。かばやろうっ」
 自分を裸にするような視線と間の抜けた言葉に、池山は今度は首から耳まで真っ赤に染めて腹を立てた。
 びたんと江口の顔を片手で押し退けて池山は起き上がり、受話器を取る。
「はいっ。もしもしっ」
 胸に渦巻く怒りを深夜の訪問客にぶつけようとしたところ、受話器の向こうから借金取りも裸足で逃げたくなるような罵声が飛んできた。
「なにちんたらしてんのよ、馬鹿者っ!いるならさっさと開けなさいっ!」
 離れて様子をうかがう江口の耳にも、女の罵声がきんきん伝わってくる。
「げっ・・・。千鶴!」
「千鶴・・・?」
「姉貴だよっ!俺の!」
 思わずフックに戻そうとする受話器から、さらに怒りの雄叫びが聞こえてくる。
「開けないと、このドア、蹴り開けるわよっ!」
 すでに、ドアの方からがしんがしんと渾身の力で蹴とばす、すばらしくも近所迷惑な音がする。
「・・・窓から逃げよっかな・・・」
 ふっと遠い目をする池山に、
「無理ですよ。ここ、七階じゃないですか」と、江口は現実へ呼び戻す。
「どっちみち、ドアを開けないと後が恐いんじゃないんですか?」
 ドアを蹴飛ばす勢いは、こうしている間にもパワーを増している。
「そうだよなー」
 やれやれと肩をすくめて玄関へと足を向けた。   



「なむあみだぶつ・・・」
 経を唱えて、ゆっくり鍵に手を掛ける。

 呪文唱えて、目の前の悪魔がどこかへ消えて行ってくれるなら、怪しげな坊さんをいくらでも呼ぶのになぁ。

 くだらないことをつらつら考えながらも鍵を解除した途端、素早くドアから離れる。
 かちり、という音が聞こえた瞬間、がん、と鉄の扉が開いた。
 そこには、嫌いではないが保坂を抜いて世界で一番恐くて、出来る事ならしばらく会いたくない女が立っていた。
 するりと優雅な足取り(もちろん、さっきまでドアを蹴りまくっていたのと同じ足であるが)でたたきに踏み入れると、素早く後ろ手に戸を閉める。
「こんばんは、久しぶり。元気にしてた?」
 先程の剣幕もどこへやら、上品に赤く塗られた唇がきゅっと笑みの形を作った。
「まあな」
 つられて、にひゃっと笑った池山の顎をいきなりがしっと掴んで顔を寄せ、わずかに目を細めた。
「・・・唇が、サクランボのよーに赤い」
 げ。
「和基、あんたホモになったんですって?」
「うぎゃ・・・・・・・っ!」
 ジーザス!




 『恋の呪文-15-』へ続く。





私の書く女はなんでこんなのばっかり・・・。




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