『恋の呪文』-12-(『楽園』シリーズ) 

2010, 05. 04 (Tue) 01:46

己の文章に時代の流れを感じてしまいました…。

 なんとフロッピーディスクが出てくる…!!
 製造中止になっているメーカーが続々と出ているこの頃。
 いや、ほんの少し前(私としては)まで、データの保存はFDで、容量の大きいものは分割して何枚もつなげて…が普通だったのになあ。
 今使っているパソコンの一台前のノートはFDが使えた(ソフトはXP)のだから、それほど古い話ではないはずなのに。

いやいや、最近の機械の発達が速すぎるんだわ…。

あ、ここをいじったんだなと解った人は、くすりと笑ってやってくださいね。




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  現在は、『睦み月』で『シゲルとミケ』シリーズです。
  飲んだくれ猟師と化け猫の話。
  楽しんで頂けたら幸いです。

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 『恋の呪文-12-』


 池山の出ていった後のプロジェクトルームは、身動きするのもはばかられるような重苦しい沈黙におおわれた。
 岡本は大きなファイルの一つを掴んで肩に乗せ、歩き出す。
「さて・・・と。俺はSEさんのフォローに行ってくっか。飯田、お前も来い」
「は、はいいっ」
 ぎくしゃくと足をもつれさせながら飯田はあわてて岡本の跡を追う。
「い、いいんですか、江口さんと立石さんを二人っきりにして・・・」
 事情は全く知らない飯田にも、三人の間に流れる只ならぬ空気は、はっきりと感じ取れた。
「大丈夫。あんなでかい野郎どもが殴り合いも何もないさ。それに、立石は江口のことを買ってるんだよ。すっごくな」
「え?そうなんですか?」
 飯田は自分よりいくぶん小柄な先輩をみつめる。
「TENの新人の配属ってな。ぶっちゃけて言うと、実は私情はいりまくりの国取り合戦なんだよ」
「はぁ?」
「年が明ける頃には、公募もコネもどんな奴が入るかはっきりしたデータが出るだろ?どの部署も、自分のところだけはできるだけ使いものになる奴が欲しいわけだ。そこで、人事課を囲んで熾烈な戦いが始まるんだわ」
「戦いというと・・・?」
「俺と主任は、立石をうちの課に入れるために徹マンした」
 ありゃあ、もう二度とやりたくねぇと思ったなぁ、と岡本は笑う。
「それもこれも、人事部長たちが多趣味で豪快な男だから為せる技なんだが、要するに、仕事以外の何かで人事課を負かしたら、新人獲得の優先権が一つもらえるんだ」
 水面下でそんなことがあってるとはつゆ知らず、入社したら自分の希望外のセクションに飛ばされて泣く新人も少なくない。もっとも、一年我慢奉公した後に転属願いをだせば道は開かれると、たいてい言い含められるのだが。
「そして、立石はゴルフで並み居る強豪を打ち負かし、江口を取った」
「岡本さんは麻雀、立石さんはゴルフ・・」
 なかなか性格を表している。
 飯田の考えを読んだ岡本は彼の頭を軽く叩く。
「あいつのは、肩が強い分遠くへ飛ぶんだよ。・・・それよりな、ここだけの話だが、江口の競争倍率はそう高くはなかったんだ」
「え・・・?」
「お前も同期だから知ってると思うが、今年はどういうわけか東大や海外工学大学留学経験者とかの華々しい高学歴者がわんさと入社してな。そんな中、高校、大学をスポーツ入学したうえにコネで入社した江口は、どちらかというと池山たち営業畑向きだろうって事でSE連中は全然注目してなかったんだがな、立石がこいつが一番使えると言い張ったんだよ」
 岡本は、くきっと首を鳴らす。
「最初、工専出のお前と違っていちから叩き上げなきゃいけない上に、使いものになるかどうかわからない分、リスクが高すぎるって課長ともども言っていたんだけどな」
 しかし蓋を開けてみたら、入社してすぐの教育実習期間中に高学歴のお歴々は社風が会わないと駄々をこねたり、変にプライドが高くて扱いにくいばかりか、精神的に追い詰められて病院送りになった者まで出て、値段ばかり高い役たたずばかりだということが判明した。
「立石さんの眼が、誰よりも確かだったということですね・・・」
 ほおお~と感嘆のため息をつく飯田に、岡本は苦笑する。
「いや、俺たちも最初はそう思って感心したんだけどな」
 マシン室のドアのセキュリティシステムにIDカードを通しながら呟いた。
「あいつ、六大学野球の大ファンだったらしい」
 一瞬、飯田はきょとんとした顔をした後、天井に視線をめぐらせうーんと唸った。
「・・・なるほど」



「・・・どうして、俺を怒らないんですか」
 江口はズボンのポケットに両手をつっこんで、自分の机に軽く腰掛けた。
「怒らせたかったのか?」
 立石は眼鏡を外してゆっくり目頭をもむ。
 例の爆弾宣言以来、池山はともかく江口も妙に立石を避け始め、双方かなり煮詰まって何かと仕事に支障もでてきたことだし、そろそろ何かあるだろうと覚悟していたから怒らなかっただけなのだが、どうやらそれが余計江口の気に触るらしい。
 驚きは、したのだが。
 しらふで、ここまで派手な行動に出られる若者の情熱に。
「なぜ止めなかったかなんて聞くなよな。どうせ、あの時誰が止めても言っていただろ。お前は」
「・・・・・」
 黙って前方を睨む江口を横目で見ながら、煙草に火を点ける。
 立石と岡本の立てた予想が外れていなければ、江口は池山逢いたさに、天の岩戸よろしく営業部に立てこもって出てこない彼を引っ張りだすために、わざわざ普段なら黙っているような些細なネタで顧客に喧嘩を売り、どうしてもこのSE室にやってこなければならないようにしむけたというあたりだろう。
「まあ、たまには爺さま連中の脳細胞の活性化を図るのもいいんじゃないかと、俺達は思ってるよ」
 本心で言っているのだが、江口には下手な慰めにしか聞こえない。
 実際、重役達は熟れたトマトのように真っ赤になって怒りだし、顧客側のSEもこちら側の営業部総動員で右往左往して宥めすかし、江口の予想以上の、上へ下への大騒ぎになったのだ。
 そうなると、現場監督の岡本と立石が全ての矢面に立たされたのは間違いない。申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
 それでも、この事態に平然と煙草をふかして通常どおりに仕事をこなしている立石を見るにつけ、何事にも動じない彼を羨ましく思う反面、憎らしくもあった。
 同僚たちや上司から絶対の信頼を一身に集めている立石を、誰よりも頼りにして甘えまくっているのは他ならぬ池山だし、彼自身それをいつもいつも許している。強引な見解かもしれないが、目の前のこの男は強大な恋敵だと江口は確信していた。
「・・・寛大なんですね」
 大きな背中を丸めてすねたように呟く江口の言葉に立石は吹き出す。
「お前、池山にあれだけ怒鳴られて、俺らにも叱られたいのか?」
 まあ、とにかく江口が餌をまいて、池山が食らいついたのだ。一か月かけて、やっと。
 あとは二人でどうとなりやってくれ、というのが現場監督の感想である。
「じゃあ、ひとつだけ言っておこうか。俺と池山の仲を疑っても、全く、どうしようもない無駄だから、やめておけ」
「・・・は?」
 初めて自分の方へ振り返った江口に向かって、立石はにこりと笑う。
「俺には池山なんかに血迷うほど悪趣味でないし、暇もない」
「なんか・・・。随分なこと言いますね」
 そういいながらも江口はゆるゆると肩の力を抜いて椅子に座った。
「・・・俺は、たった一人の女を追い掛けるだけで精一杯だよ」
「・・・追い掛けてるんですか?」
「なりふりかまわず、執念深く、な」
「立石さんが・・・?」
 この、雨風吹いても雪が降っても座したまま動かない大仏のような、妙に年寄りじみた喰えない男が?
 世の中、わからないものだ。
 まじまじと見つめられて、立石は照れたように鼻の頭を掻く。
「・・・言いたかないが、かれこれ十年近くになるな。途中で何度も諦めて他の子とつきあったりはしたんだが、これが、なかなかなぁ・・・」
 ゆっくり長く吐き出した煙をぼんやり目で追った後、短くなった煙草の先を灰皿に潰すように押し当てる。
「最初は色々好きな理由なんかがあった気もするが、最近はもう理屈もへったくれもないな。とにかく、欲しいのは一人だけだ」
 その人が、この世にいるというだけで、求める気持ちは止まらない。
「俺も・・・。人に迷惑かけてでも欲しいと思ったのは池山さんが初めてですね」
 人はそれを錯覚だとか、妄執だとか言うだろう。
「まぁ俺の場合、最初の頃につかまえるタイミングを外したばっかりに今に至っている感が強いせいかな。その分、お前には今のうちに思いっきり頑張ってほしいって思ってしまうんだよな。これが」
「え?」
 江口は首を傾げた。
「きっと、岡本も似たような理由だろう。あいつも高嶺の花を諦めきれなくってうろうろしているから」
 つまりは、岡本も立石も自分を本心から応援しているということか?
「・・・心置きなく池山さんを追掛けていいって事ですか?もしかして」
 相手は男で、自分の大事な友人であることは、この人たちには何の関係もないのだろうかとかえって江口のほうで頭を抱える。
「さて・・・な。とにかく、お前らのごたごたに巻き込まれてやるのは、今回限りだからな。次はないから肝に命じとけよ」
 何がどうであれ、他人の恋路なのだ。馬に蹴られるのはごめんである。
 ・・・・例え、それが、自分の理解をはるかに越えた、男と男のものであっても。
「そういえば」
 立石はダウンロード済みのメモリをパソコンから引き抜いて立ち上がる。
「去年の秋の六大学野球の準決勝な。俺と池山は見にいったよ」
「え・・・?」
 いきなり話を方向転換されて、江口は思わず姿勢を正す。
「試合が終わる頃に池山が、江口という選手はきっと野球をやめるだろうって言ったんだが、まさか俺達の会社へ来るとはなぁ」
 立石は目を伏せて笑った。
「試合の終わる頃、ですか?」
 江口の問い掛けに立石は肩をすくめて背を向ける。
「まず、その辺から話をしてみるのも、いいかもな」
 そう言い置いて、部屋をすたすたと出ていった。

「去年の準決勝・・・」

 空が高くて、吸い込まれそうに広いと思ったことを思い出した。
 あの空を、池山も見たのだろうか。
 あの時に。





 『恋の呪文-13-』へ続く。






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