『恋の呪文』-11-(『楽園』シリーズ) 

2010, 05. 03 (Mon) 19:44

 つ、疲れました…。
 とりあえず、本当にとりあえずなんだけど、GWにおける嫁の務め完了。
 内容の濃い二日間だった…。

 残り三日を抜け殻状態ですごしそうで怖いです。

 では、お待たせしました。
 続きをどうぞ。

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  現在は、『睦み月』で『シゲルとミケ』シリーズです。
  飲んだくれ猟師と化け猫の話。
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 『恋の呪文-11-』



 金曜日の午後二時の会議室。

 あと数時間もすればとりあえず顧客も休日体制に入り、仕事も一段落するだろうという、心もち幸せな気分に電気メーカー側出席者一同は浸っていた。
 それは、一緒に打ち合せをしている顧客側であるT銀重役一同も同じ事。対面のためにしゃしゃりでた会議だけれど、SEの間で飛びかう専門用語は年月を経て岩のように硬くなった彼らの脳にはとうてい受け入れられる代物ではなく、ただただ退屈で、提出資料に芸術的な絵を書き込んだり、俳句を何首かひねり出したり、腕を組んだまま居眠りをしている強者がちらほらと見える。自社の重役連中の雄姿に内心ため息をつきながら、T銀行側の司会進行を務めるSEは引きつる笑みを顔に張りつけたまま、締め括りになる筈の言葉をひっぱりだした。
「では、最後に恒例の、『言いたいことは何でも言おう会』の時間です。どなたか、何か、言うことはありませんか?」
 お定まりの沈黙が流れ、これで終了するのが、この会議の慣習であった。
 しかし、間髪入れずに大きな手が下座のほうから挙がった。

「はい」

 引き上げるべく机の上を既に整理しはじめていた出席者たちの手が止まり、何事かと、その声の主を一斉に見つめる。
 退屈な会議に半分寝呆けていた岡本は、振り返った先に自分の後輩がいることを認め、叫びだしそうになった顎をあわてて両手で押さえた。
「・・・それではTENの江口さん、発表願います」
 江口は、電気メーカー『TEN』側のSE代表の席の方をちらりと視線を送る。
 「やめろ」とあわててジェスチャーを送り続ける岡本とは対照的に、隣の男は資料を眺めながら、平然と煙草をふかしていた。
「では」
 ノートを開きながら、江口は立ち上がる。 平凡な金曜日の午後が、終わろうとしていた。



 ずだだだだだだ・・・・・っ。

 T銀行電算センター内システム開発本部のフロアの廊下の奥の方から、不気味な地響きが聞こえてくる。
「あの音は・・・」
 岡本はマニュアルの一点を見据えたまま呟く。
「うひゃー・・・」
 飯田がファイルを頭に被って机に突っ伏した。
「やっと、お出ましか・・・」
 立石は煙草に火を点ける。
 ばーんという大音響とともに鉄の扉が観音開きに開いて、怒りのためにまっかっかになった池山が登場した。
「江口ぃ~っ!くぉ~の、馬鹿ったれがーッ!」
 ざかざかと部屋のまん中に踏み込むと、飯田の被っていたファイルを取り上げ、力一杯江口の胸めがけて投げ付けた。
「こんの、あんぽんたん!建て前って言葉を知らんのか、お前はっ!営業は上へ下への大騒ぎだ。お前のいらん言葉のおかげでなっ!」
 更に江口の襟首をつかんでぐいぐいとひっぱる。
「・・・すみません」
 眉をわずかに寄せて一言謝ったっきり、江口は貝のように口を閉ざす。
「おーまーえなぁー」
 やり場のない怒りにめまいを感じつつ隣の机に目をやると、立石が黙々と設計書の下書きをやっていた。
「・・・立石」
「ん?」
 立石はゆっくり手元のマニュアルのページをめくる。
「ああ、池山。営業課長と部長は?」
「先に頭下げにいってる」
「そうか」
「そうかって、お前っ」
 池山は地団駄を踏んだ。
「なんで止めなかったんだよ。若者の暴走を止めるのが年長者の務めだろうがっ!」
「・・・・・止める義理がなかったからだろうな」
「なっ・・・」
 立石はふいに顔を上げて腕を組み、池山をじっと見据える。
「ある程度の契約も済んで慣習化しているとはいえ、顧客との大切な会議だ。いきなり話が引っ繰り返る可能性があることは重々承知だろうに、ここ一月、入社一年経ったばかりの松田にまかせっきりで課長ともども顔も出しゃしない。舐めてんのかと言いたくなるのは、何もT銀側だけじゃないんだぞ」
「・・・・・・」
 返す言葉がなかった。
 ここのところ、上司たちは別のプロジェクトチームが抱える障害にてんやわんやだし、池山は江口を避けるために、自然とこのT銀内にあるTEN関係者専用SE室への出入りはご無沙汰していた。電話対応はしていたとはいえ、顧客との会議に高卒一年目の未成年であるゆえに立場上何の責任をもたない松田だけを送り込むとは、誰が見てもTEN側はT銀との契約を軽んじていると思うだろう。
 唇を噛み締め立ち尽くす池山に、みかねた岡本がたちあがる。
「まあまあ。もう済んだことだしさぁ」
 飲むか?と差し出されたコーラの紙コップを池山は受け取り一口含んだ。
「ま、ここんところT銀さんのお偉いたちは退屈してたんだよ。ちょっと相手してやればじじいどもの機嫌も治るだろうから、頼んだわ」
 ひょこっと岡本は肩をすくめてみせる。
「・・・悪い」
 髪をかきあげて深く息を吐き出した。
 皆にこんな迷惑をかけてまで、俺はいったい何をやっているんだろう?
「これからは、気をつける」
 池山はひと呼吸置いて姿勢を正し、プロジェクトルームを後にした。




 『恋の呪文-12-』へ続く。



 


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