『恋の呪文』-8-(『楽園』シリーズ) 

2010, 04. 30 (Fri) 17:18

昨日は夕方ぐらいから偏頭痛がひどくなり、どうなる事かと思いました。
徐々に重くなるタイプの時は見極めが難しく、鎮痛剤を飲む機会を逃して悪化させることが多く、今回もそのパターンで・・・。
それで夜、眠る前に電解質のスポーツ飲料を飲みました。
私の場合はこれがたまに効きます。
水分と鉄分がおそらく欠乏しているのが頭痛の原因でもあるようなので。
即効性ではないけれど、それこそ緩やかに。
ただし、明け方に目覚めて鏡を見たら、眉間にしわがくっきりと刻まれていて、恐ろしゅうございましたが・・・。
どんな寝顔だったのだろう…。
同居人に聞くのが恐ろしいです。

連休前になりました。
おそらく明日日中の更新は無理と思われます。
なので、日付が変わるころにもう一回更新できたらいいな。

では、つづきをどうぞ。




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  現在は、『睦み月』で『シゲルとミケ』シリーズです。
  飲んだくれ猟師と化け猫の話。
  楽しんで頂けたら幸いです。

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 『恋の呪文-8-』


「え、江口ぃっ!て、てめーっ、ななな、なんで、いきなり、そんなとんでもないウソ、言いだすんだよっ」
 椅子を蹴倒して、池山は叫ぶ。
「いきなりでも、とんでもないウソでもないでしょう?冗談で男を抱くほど、俺はモノ好きじゃないですよ」
「お、俺だって、じょーだんで男に抱かれるほどのモノ好きじゃねえし、だいたい、抱かれた覚えなんか、ぜんっぜん、まぁーったくねぇんだよっ」
「でも、池山さん・・・」
「でも、じゃねーっ!」
 きーっ、と池山は頭をかきむしる。
 だ、誰か、この状況を、なんとかしてくれ~っ!
 救いを求めてあさってのほうを向いた池山の目に、自宅のキーを片手に部屋を出ていこうとする立石の後ろ姿が映った。
「ま、待てよ立石っ!」 
 慌てて追いすがると、立石がゆっくり振り返る。
「・・・・ああ。池山。焙じ茶の葉は、壜につめて右の戸棚に入れたからな」
 じゃあな、と立石は片手を挙げると、
「どうも、お疲れ様です」
と、江口は頭を下げる。
「ちょっと待ったっ」
 玄関口で靴を履こうと屈んだ立石の腕を池山が追い掛けてきて掴む。
「あのな、立石」
「ああ、そういえば」
 床でかかとをとんとんと踏み鳴らして、立石はすらりとした上半身を起こす。
「なに?」
 池山は、必死の形相で江口の顔を下から覗き込む。

 たのむ。
 立石、たのむから、帰らんでくれ~。
 池山の瞳はそう訴えていた。

 恥も外聞もなく取りすがる池山をちらりと一瞥したあと、立石は廊下にたたずむもう一人の男に向かって声をかけた。
「二人とも、少なくとも、明日の二時からの工程会議には絶対出ろよ」
「・・・は?」
 一瞬、何を言われているのかわからず、池山は手を放す。
「七階の第一会議室だ。じゃあ、伝えたぞ」
 するり、と戸をくぐって出ていく立石を、尚も池山は追い掛けた。
「待てよ、徹!」
 がしゃん、と音をたてて、鉄製の重い扉は閉じてしまった。



「徹、待てってば!」
 革靴を素足につっかけて、池山は追い掛けてきた。
 エレベーターホールまで来て、立石はやっと振り返る。
「俺の話を聞いてくれよっ・・・」
 ジーンズのポケットに両手をつっこんで立ち止まる立石の袖口を握り締め、池山は肩で息をする。
「今日は日が悪くてな」
「おまえっ・・・、俺をあいつと二人っきりにする気かよっ」
「ああ。そのつもりだが?」
「・・・・・」
 さらりと切り返されて、池山は言葉を失った。
「・・・和基。お前も、もうすぐ二十七歳で、世間一般では十分大人だろう?」
 まるで、子供を諭すかのようにゆっくりと立石は言葉をつなぐ。
「お前と、江口の間で何があったかなんて、俺には、どうでもいいことだ。だがな」
 つい、と頭を低めて池山の瞳を覗き込む。
「お前も男なら、自分のやったことの後始末くらい、自分でつけろ」
 いつもより、一段と低くて重い立石の声音に、池山は息をのむ。
 まずい。
 徹を怒らせたか。
 呆然と立石を見つめ返す。
 彼の深い焦げ茶の瞳は、深く怒っているようでもあり、この上なく冷めているようでもあり、池山はどう言葉を発すればいいのかわからない。
 ちん、と軽快なベルが鳴り、エレベーターが到着したことをしらせる。
 立石は目を伏せた。
 池山はそろりと手を下ろす。
「話は、そのあとな」
「・・・・」
 ぽん、と池山の肩を軽くたたくと、ゆっくりエレベーターに乗り込む。
 エレベーターが立石を飲み込み、さらに彼の住む三階に止まるまで、池山は身動きひとつしなかった。
 遠くの教会から午後九時をしらせる鐘のメロディーが流れ始めて、やっと、ゆるゆると息を吐き出しながらその場にへたり込む。
「こ、こわかった・・・」
 池山はこの四年近くの付き合いのなかで一度だけ、立石を怒らせたことがあった。
 常日頃は温厚なだけに、あの時の怖さといったら、言葉では表しようがないのだ。
 豹変、という言葉は似合いそうだが。
「さすがは、九州男児、あなどれん・・・」
 一応、一浪の俺の方が年上のはずなんだけどなあ。
 徹の奴も、その事、忘れてんだろなぁ。
 しばらく宙をにらんでつらつらと考え込んだあと、よいしょ、と池山は腰を上げる。
「しょーがねーかぁ」
 まさか、ここで一夜を明かすわけにもいかない。敵は、自分の家の中なのだ。
 ならば、徹の言うとおり、自分でなんとかするしかあるまい。
「明日の会議は、外せねぇもんなぁ」
 サラリーマンって、ほんっと哀しいよな。
 池山は、図体だけやたらとばかでかい年下のオオカミが待っている我が家へ、足取りも重く、とぼとぼと向かった。


「・・・またせたな」
 むすっと不機嫌な面持ちのまま、池山はつぶやいた。
 江口はカウンターテーブルの側にある椅子に腰掛けたまま、じっと池山を見つめる。
「・・・いいえ。よかった。戻ってきてくれて」
「そっりゃー、ここの家主は俺だからなぁ」
 そうでなけりゃ、だれがこんなとこに、のこのこ戻ってくるかよ。
 しぶしぶ池山の向かいの椅子に腰をおろし深々とため息をつく池山に、江口はかすかにほほえむ。
「池山さん。・・・本当に、何も、覚えていないんですか?」
「おぼえてないね。これっぽっちも」
「ほんとうに?」
 自信を持って断言する池山を心底不思議そうに、まじまじと見つめ返す。
「なっ・・。なんだよっ」
「だって、池山さん、あの時、俺の名前、何度も呼んでたじゃないですか」
「えっ・・・」

 ふっと、池山の頭の中でなにかがフラッシュバックする。
 途端に、カッと、唇のあたりが熱くなる。
 喉がひりひりと焼けるような感覚とともに、口腔に自分のものでない何かがするりと潜り込み、忙しなくうごめいて刺激する。
 背骨がきしきしと悲鳴をあげているというのに、自分はしがみついている何かに向かって吐息とともに何度も、何度もつぶやく。
 まるで、呪文のように。
 この感覚を、さらに昇りつめるために。
 祈るかのように。
 ひたすら懇願する。
 この上なく、幸せそうな、甘い声で。
 ・・・・コウ。

 ・・・なんだ、これは。この声は?
 ・・・・俺の声だ。

 ふいに、池山は口元を手で覆う。
 い、いかん。やめろ、和基。
 いま頭に浮かんだのは、夢、幻だ!
 ふるふると頭を振り、降っては沸き、降っては沸く、そしてさらに鮮明になりつつある記憶と池山は戦う。
 認めるわけには、いかないのだ。
 認めたその瞬間から、晴れて自分はホモの仲間入りになってしまうじゃないか!
 ホモは社会の敵、倫理の敵。
 後ろ指差されて生きるのは、ごめんだね。
 心の中で呪文のように唱え、キッと、自分の敵を睨み付ける。

「いいやっ。なーんにも覚えてないねっ」
「ほーう。なーんにも、ですか」
「ああ、そうだ。なーんにも、だ」
 顔いっぱいに、でかでかと『大ウソ』と書いてあるのだが、池山はなにがなんでも引かない。
 ・・・この人は、これで若手一番の凄腕営業なのだろうか?
 素朴な疑問が浮かぶのと同時に、池山の頑なまでの子供っぽさに江口は苦笑する。
「・・・まあ、池山さんが覚えていようがいまいが、俺には、どうでもいいことなんですけどね」
「そうか、そーか。そうだろうなぁ」
 なんとか話が逸れたことだけに安心した池山は、やれやれと肩の力を抜きかけたが、ふと、眉を寄せる。
「・・・おい、ちょっとまてっ」
「はい?」
「じゃあ、さっきのこっぱずかしい言い合いはなんだったんだよっ。なにも、立石の前であんなこと、言うことないだろーがっ」
「ああ、あれですか?」
 物憂げに江口は頬杖をつく。
「そうだよっ。他人の前であーいうこと言うか?フツー」
「言いませんね。ふつう」
「そうだろが。だったら・・・」
「予防線です」
「は・・・?」
 勢いを削がれて、池山は何とも間の抜けた顔をした。
「立石さんには、この際はっきり知っていて欲しかったんです。俺」
「なんだそりゃあ?」
 眉間に思いっきりしわを寄せて聞き返す。
「じゃあ、聞きます。池山さんは立石さんと付き合ってるんですか?」
「はあ?」
「言い方を変えます。立石さんとは、まだ、セックスしたことはないと、見たんですが」
 江口のあまりに露骨な発言に、池山は真っ赤になった。
「あいつとセックスだとぉ?気持ち悪いこと言うんじゃねーよッ。そんな仲じゃないのは一目瞭然だろーがっ」
「でも、キスしたことはありますね?」
「お、おう。酔っ払って、一回だけな。・・・でもな、俺は誰とでもやってるぜ?ちなみに、お前の課内で俺様の洗礼を受けていないのは、保坂だけだっ。どーだっ。まいったかっ」
 やけくそになって、わはははっと胸を反らして高笑いする。
「自慢するようなことですか・・・」
 つまり、池山の愛の洗礼は課長にまで及んだということになる。
「いいじゃん、たかだかキスぐらい!でもなあ、立石とは、それっきりだからな」
「・・・どうだか」
 江口はこめかみを押さえてつぶやく。
「な、なんだよ!俺ばっか責めやがって!酔っ払って正体のない俺をホテルに引きずり込んだ挙げ句、散々カマ掘ったくせに、被害者面すんなよっ!」
 俺の年休返せよ、どあほっ、と池山はテーブルを叩いて立ち上がる。
 ・・・年休さえ返してもらえばいいのだろうか。
「別に、俺は池山さんのこと責めてないでしょう?俺が言いたいのは、俺が池山さんを好きで、誰にも盗られたくないってことだけです!どうして分からないんですか!」
 いらいらと、江口は髪をかきあげた。
「分かりたくもねーよっ!だいたい、キスぐらいで欲情するほうが、よっぽど変だろ?要するに、お前が真性のホモだっていう証拠じゃねーのか!」
「そんな事を言っているわけではないでしょう?どうしてそういう方向に話が行くんですかっ!」
「それじゃあ、おまえ、なんで男の俺をいきなり抱いたんだよっ。女の方がよっぽど抱き心地がいいだろうがっ」
「女よりなにより、俺は池山さん、あなたがいいんですっ」
「ほーお。それじゃ、お前、何を根拠に真性じゃないといいきれるのかよ」
「それは・・・」
 口を開きかけて、江口は黙り込む。
 池山はじっと腕を組んで見下ろす。
 部屋の中に、いきなり重苦しい沈黙が落ちた。
 かちこちと時計の秒針を刻む音だけが、二人の間を流れる。
 池山はテーブルの上の煙草を取り、ライターで火を点ける。静かに息を吐き出すと、紫煙がふわりと舞い上がった。
「・・・ほら、みろよ。何も言えないじゃないか」
「・・・・池山さん。俺は・・・」
 江口は渇いた唇を噛みしめ一生懸命に言葉を探すが、何を言っても堂々巡りになりそうで池山を納得させるだけの言葉がどうしても見つからない。
 そんな彼を見つめていた池山は、煙草の先をぎゅっと灰皿に押しつける。
「・・・もういい」
「池山さん・・・?」
「いいから、とにかく、帰れよ」
「・・・好きです」
 がしゃん。
 陶器の灰皿が江口の肩先を過ぎ、壁に当って砕け散る。
「出てけって言ってんのがわかんねーのか、この変態ヤローッ!」



 男を叩きだした後、電気を消した部屋には月明かりがうっすらと差し込んでいた。
 池山は冷たくなった床に胡坐をかいて、煙草に火を点けた。
 ほの暗い部屋のなかで、ぼんやりと灰皿の残骸が浮かびあがっている。
「・・・言い訳の一つくらいしてみろよ。ばかやろう」




 『恋の呪文-9-』へ続く。






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