『ずっと、ずっと甘い口唇』-63-(『楽園』シリーズ) 

2012, 10. 15 (Mon) 20:25

 痛い部分は今日で終幕です。

 いつまで続くかと思った・・・。

 後でまた修正しますが、取り急ぎ更新。


 どの日付のものでも構いませんので、それぞれの記事の下の『拍手』ボタンをクリックすると、おそらく『拍手御礼』というページが展開されるかと思います。
  そこに、小話を添付しています。
  小話は、『拍手御礼』に1話のみ。
  今回は、「ずっとずっと甘い口唇」の保坂VS.第三秘書の篠原です。
  お題は「アタシ、猫」。

 一応、これからも拍手用小話を月に一度書き換える予定です。
 随時オーダー受付中。
 毎月16日の正午締めで、20日頃に新作アップという形を取りたいと考えています。

 
 これからも何かご希望がありましたら、是非リクエストを拍手コメントかメールフォームでお願いします。


 そういや、締め切り明日なんですが、なんでもいいですか~?
 このままだと、今日昼間に見てきたタイバニ映画で書いてしまいそう・・・。




  記事の一番下の『拍手』ボタンをクリックして頂くと小話をご覧になれます。
  現在は、『睦み月』で『シゲルとミケ』シリーズです。
  飲んだくれ猟師と化け猫の話。
  楽しんで頂けたら幸いです。

 アクセスして下さったり、拍手やバナークリックで励まして下さる皆さんに感謝しています。
 もしもよろしければ感想や要望など頂けると、本当に嬉しいです。


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 『ずっと、ずっと甘い口唇-63-』


 飢えと渇きは狂気を呼ぶ。
 ぎりぎりで保っていたはずの均衡が崩れていくのを、春彦は黙って見つめるしかなかった。

 真神家本邸は次男が一括管理し、別邸は勇仁が相続した。
 勇仁は別邸の周辺の土地を買い上げて本邸をしのぐ広さに作り替えた。
 そして、今まで暮らした家屋を取り壊し、豪奢な邸宅を建てる。
 もちろんその家の女主人は新妻の晴美で、庭も家具も塀や門の作り至るまで一新された。
 長年仕えてくれた使用人たちは全て解雇という徹底ぶりで、清乃の気配を消し去った。
 それは、勇仁が指示したことであり、誰も逆らう者はおらず全て彼の思うままである。
 人々は嵐に怯えても、それに不満を唱えたりしない。
 しかし、そのことがかえって勇仁を狂気に駆り立てていく。

 矛先は、一人、長男の春彦に向かった。
 高校生になった彼は人並みに身長も伸び、幼子の頃のように母の写し絵のような容姿ではないが、そこかしこに清乃のかけらが残っている。
 地元に帰る度に春彦に冷たく当たることで、最初は溜飲を下げていた。
 清乃にしたように、わざと晴美親子を厚遇して見せたりもしたが、息子は黙って見返すだけで、表情一つ変えなかった。
 俯かず、怯えず、ただ黙って受け入れる子供が憎くもあり、恐ろしくもあった。
 早く、母親に泣きつけばいい。
 泣いて、戻ってきてくれと頼めばいい。
 そう思っているうちにある日、つい手が出てしまった。
 酒を過ごして深夜に家へ帰り着くと、もう通いの家政婦は帰宅し、扉を開けたのは春彦だった。
 何を話したかも覚えていない。
 ただ、無性に腹が立って彼の襟首を掴んで突き飛ばして頬を張った。
 驚いた顔を一瞬したが、抵抗はせず、抗議の声も上げなかった。
 そして底のない闇のような瞳がじっと自分を見据える。
 涙一つ見せない、かわいげのなさが気にくわない。
 それから、だんだんエスカレートしていった。
 最初は服に隠れる場所を狙って蹴ったり殴ったりしていた。
 しかし春彦は全く抵抗しない上に、なぜか傷を隠し続ける。
 使用人たちも気づいていながら見て見ぬふりをしている節があった。
 一度、彼の若い担任が正義感に燃えて尋ねてきたことがあったが、大金と女を握らせたらあっさり籠絡され、以後、救いの手をさしのべる者もいない。
 やがてまったく取り繕うことなく、機会があれば気が治まるまで存分に暴力を振るった。
 殴るのが楽しいわけではない。
 むしろ、苦痛だった。
 しかし自分でも自分が止められない。

 いつまでも清乃の最後の言葉と姿が頭から離れなかった。

 きっぱりと白い顔を上げた彼女は言った。
「私は、貴方をずっと待っていたけれど、貴方は、ずっとこなかったの」
 こんなにまっすぐで揺るぎない瞳は、初めてだった。
「もう、私は、貴方を待たない」

 それは、
 初めての夜のとき、
 妊娠中の療養生活のとき、
 出産の時、
 育児の時、
 子供の成長を見守る時、
 節目節目の祝いの時、
 事件が起きた時、
 父が出頭している間、
 父が病床に倒れた時、
 両親を見送った時。
 そして、最初に間違えた時の、謝罪の言葉。

 貴方は自分の必要な時に私を連れ出し、そうでない時は押し込めるだけだった。
 いつか変ると信じていたけれど、もうくたびれたわ。

 そう言うと、穏やかに笑った。

 一度でも良い、ほんの少しでも良いからそばにいてくれたら何かが違ったかもしれない。
 しかし、もうそれも今更のことで。

 清乃が意見するのは初めてのことで、驚きのあまり返す言葉がなかったが、去られた後にじわじわとわいてくる想いがある。

 ならば、どうすれば良かったと。
 亡くなった義兄の代わりになれと迎えられた自分に、他に何が出来たと。
 存在意義のない男を冷酷に切り捨てる真神の家で清乃の夫であり続けるには、政治家で活躍し続けるしかなかった。
 義父の出頭も入院も、ごくごく普通の常套手段で、それが死に直結するなんていったい誰が想像する。
 声をかける度、
 触れようとする度に怯えて逃げ出そうとする女に、
 いったい何が出来たというのだろう。 
 いつでも自分は余所者で、真神の家は息子を含めた血族で輪を閉じていた。
 入ることの出来ない家の外で、待ち続けたのは自分の方だ。

 何度、彼女の元へ押しかけて全てをはき出したい衝動に駆られたか解らない。
 しかし、どうしてもできなかった。
 全てをさらけ出さないのが最後の矜持だった。

 はき出せない想いは勇仁の中で渦巻いて燃えさかり、はけ口を求めた先に春彦がいた。
 子供のくせに、凪のように静かな春彦。
 その静けさが許し難く、めちゃくちゃにかき回したい欲望が止められない。
 泣いて、泣き叫んで、清乃をここへ呼べと殴りながら、誰か止めてくれと心の中で自分自身が泣いていた。
 
 底なし沼に、ずぶずぶと沈んでいくような心地の日々が続く。

 清乃が出て行って一年経った日の夜、気が付いたらゴルフクラブを手にしていた。
 これを使うとさすがに殺してしまうかもしれないと頭の片隅で思いながらも、床に転がる息子に振り下ろした。
 ぼろぼろの身体に何度も振り下ろしながら、これで俺もおしまいだと笑っていたら、背後からふいに突き飛ばされ転がった。
 仰向けになったところを何者かが馬乗りになってきた。平手で何度も殴られ、怒鳴り声に目を開けると、そこには怒りで顔を真っ赤に染めた清乃がいた。
 一年ぶりにようやく会えた清乃は、もはや別人だった。
 長く美しかった絹糸の髪を少年のように短く刈り込み、細く折れそうだった手足はしなやかに伸び、消えてなくなりそうな儚さはどこにもなく、月明かりの中、目をきらきらと火花をとばしているかのように輝かせ、生気で満ちている。
 勇仁の思い描いてきた妻とは全くの別人だったが、それもまた、目を奪う美しさで彼の胸を締め付けた。
 清乃が、初めて自分に触れてきた。
 しかし、そこにはもはや昔のような恐れもなく、甘やかな情もない。
 勇仁は、ただの敵でしかなかった。
 春彦を助けるためだけにそこにいる。
 腑抜けたままの勇仁を早々に解放した清乃は、すぐさま一緒に部屋へ乗り込んでいた中村や数人の人間たちで春彦を毛布にくるんで連れ去った。

 誰もいなくなった居間で、勇仁は、初めて涙を流した。
 このような結末を望んだわけではない。
 自分は、どこを間違えて、ここにたどり付いたのだろう。
 力も財産も、何もいらない。
 ただ、清乃だけが、欲しかった。
 それなのに、彼女だけが手に入らない。
 しかし今は、彼女の身体も心も、月よりも遠く届かないことを思い知らされ、声を上げて泣き続けた。








 『ずっと、ずっと甘い口唇-64-』へつづく。







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