『ずっと、ずっと甘い口唇』-59-(『楽園』シリーズ) 

2012, 10. 04 (Thu) 18:57

 なんだか風邪のフルコースを微弱ながら、舐めるように経験しているような気がする今日この頃です。
 ・・・やはり、全治二週間コースなのね、私の風邪。

 今日の話は、このシリーズで一番のどん底なので、暗いです。
 ごめんなさい。
 リアルでおつきあいのある方々はおそらく、「あのうすらぼんやりした顔で、こんなド暗いことをこねくり回していたんかい・・・」と引いてしまわれるのではないかと・・・。
 戦々恐々です。
 リアルのお友達も、ネットのお友達も、そしてここに遊びに来て下さる方々もどうか逃げないで下さいね。
 ええと、次回もどこかの昼ドラ並みにねちっこく暗いです・・・。
 それを越えさえすれば、だんだんと元の甘い世界へ戻れるのではないかと、希望的観測。
 ここさえ乗り切れば、私の風邪も治るんじゃないかと、さらなる希望的観測ですよ・・・。

 ともかく、こんな話でも読んで頂けると嬉しいです。


   どの日付のものでも構いませんので、それぞれの記事の下の『拍手』ボタンをクリックすると、おそらく『拍手御礼』というページが展開されるかと思います。
  そこに、小話を添付しています。
  小話は、『拍手御礼』に1話のみ。
  今回は、「ずっとずっと甘い口唇」の保坂VS.第三秘書の篠原です。
  お題は「アタシ、猫」。

 一応、これからも拍手用小話を月に一度書き換える予定です。
 随時オーダー受付中。
 毎月16日の正午締めで、20日頃に新作アップという形を取りたいと考えています。

 
 これからも何かご希望がありましたら、是非リクエストを拍手コメントかメールフォームでお願いします。





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  現在は、『睦み月』で『シゲルとミケ』シリーズです。
  飲んだくれ猟師と化け猫の話。
  楽しんで頂けたら幸いです。

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 『ずっと、ずっと甘い口唇-59-』



 真神家は北陸地方の豪族に端を発する一族で、明治時代からは政財界に才能ある人物を輩出し、昭和からは本家宗主が代々国会議員の家系として有名になり、中央政界、地元ともにほどよく利潤を循環させ、北陸の王と呼ばれていた。

 しかしそれが次第に崩れていったのは、襲名したての真神惣一郎の若き妻が長男一雄出産と同時に亡くなった時からだった。惣一郎は遺された息子を盲愛し、彼の未来を作ることを自らの使命とした。
 まずは、従順な妻を後添えに迎え、一雄の養育をさせ、十年間子供をもうけなかった。
 次に、議員としてこれまで以上の支持層と足場固めと国内外の活躍を精力的に行い、日本に真神ありと言わせるまでになった。
 その忙しい最中も、一雄を片時も離さず、最高の教育と経験、そして帝王学を教え込み、真神惣一郎の最高傑作と褒めそやされる、立派な政治家へと育て上げた。
 しかしここで悲劇の幕が上がる。
 真神一雄は高速道路の事故に巻き込まれ、34歳にしてあっけなく世を去ってしまった。
 親子二人で連携して国会を操り始めた矢先のことだった。
 理想の帝国は完成が間近というのに、まるで目の前で橋が落とされたようなものだ。
 惣一郎は、息子との努力の結晶をむざむざ壊してしまう事は出来なかった。
 しかし、後妻との間に設けた子供は、23歳の長女と、19歳の次男、16歳の三男で、いずれも若すぎるだけではなく、決定的な欠点があった。
 三人は、長男の未来のために作った子供で、彼らには生まれた時から長男を支えるために生きよ、そして長男をゆめゆめ越えようなどと思うなと教え込み、押さえつけていた。
 着るものから食べるもの、教育に至るまで、長男に与えたものより数段格下のものと徹底し、周囲の扱いもそのように命じていたため、彼らはただの影として成長した。
 影は、けっして光になり得ることはない。
 つまり、一雄の意志を継ぎ、代わりに活躍することは不可能に見えた。
 その時、長女の清乃には政略結婚で決めた許嫁がいたが、先方の事情で婚儀は先延ばしになっていたことに目をつけた。
 そもそも、その婚姻は経済的な支援が目的で、許嫁は出自が良いだけの平凡な男だった。一雄が存命であってこそ意味があり、今となっては利用価値はない。
 ならば、一雄の代わりの男を婿に迎えればいいと考えた結果、坂田勇仁が思い浮かんだ。
 坂田家は、戦後のどさくさにこの地に流れ着いた一族で余所者だったが、時勢を見る目に長け、あっという間に財をなした。なかでも、現当主の次男で三十を超えたばかりの勇仁はおっとりとした跡取りよりも、常に行動的で何事にも才気に溢れていた。
 そして、欧米人を前にしても見劣りしない立派な体躯と野性味を帯びた美丈夫であることは、おそらくメディアにも受けが良く、女性を中心とした支持層が見込めそうだ。まずはそれだけでも当面はしのげると算段した惣一郎は、清乃の最初の婚約を破棄させ、坂田家と交渉し、勇仁をまず私設秘書に据え婿と迎える段取りをつけた。
 勇仁は、予想以上に有能だった。
 一雄が生まれながらの王というならば、勇仁は覇王の器で、むしろこれからの時代に必要な男になるだろうと、行く末を楽しみにしていた。
 しかしここからが新たな悲劇の始まりだった。
 婚約破棄の煮え湯を飲まされた元婚約者側が腹いせに清乃あることないことをまことしやかに流し、それを耳にした勇仁は鵜呑みにしてしまった。
 見た目は清楚だがそれは仮の姿で、実はかなり性質が悪く我が儘を通すことになれた令嬢。
 東京の女子大在学中も、そして欧州へ留学中も次から次へと男を乗り換える、かなり本奔放な性の趣向の持ち主だとも。
 更に、地元では坂田家との婚儀に反発が起きていた。
 余所者の成金息子に任せられるかと、長老たちは憤った。
 互いの不安と不満が交錯し、爆発してしまったのが婚礼の夜だった。
 祝いの席で不満を持つ出席者たちは聞こえが良しに坂田家をあしざまに言い、浴びるほど新郎に酒を飲ませた。
 勇仁は、堪えた。
 ここで乱れたら、坂田家に恥をかかせることになるからだ。
 しかしそれは、宴が終了し、初夜の為に設けられた真神家の離れに着くまでのことだった。
 巡り合わせが悪かったとか言えない。
 悪酔いし、かなり凶暴的な気持ちになっていた勇仁の目の前にいたのは、酔った男に怯えて震える、清乃だった。

「それって・・・」
 春彦を抱きしめる背後の腕が固くなる。
「・・・翌朝、離れの内線電話が通じなくて、家政婦さんと叔父たちが様子を見に行ったら、戸を固く閉じたまま反応がなく、初夜明けとはいえ不安を感じた思い切って叔父が庭に回って中を覗くと鍵のかかった窓のそばに倒れている母を見つけたそうです」

 それは、見た者の誰もが絶句するほどの悲惨な光景だった。
 ひどく暴行された状態もあらわな清乃は後ろ手に縛られたまま意識を失っていた。
 最初は暴漢が侵入したのかと思ったが、彼女を縛っていたのは新郎のベルトで、その彼は情事の跡を色濃く残した姿のまま、ベッドで眠り込んでいた。
 何が起こったか、未成年の叔父たちにすら理解できた。

「本当は、母はそれまで男の人と手を握ったことすらなかったのだと、聞いています」

 もともと、彼女の持つ清廉な空気が、男性を近づけなかった。
 小さい頃から女子校で育ち、女だけに囲まれていることにむしろ安心感を持っていた清乃自身、好んで生身の男と接しようとは思わなかった。
 恋愛は、小説や映画の中の世界で、いずれ親の決めた結婚をせねばならない自分には関わりのないことと考えないようにもしていたし、あえて言うならば彼女の理想像は年の離れた兄で、それ以外の男性に興味をもたないまま温室育ちが続いた。
 そして前の婚約者と会う時ですら必ず介添人が付き添い指一本触れさせなかった不満が、嫌がらせを呼んだとも言える。
 もちろん、勇仁との関わりも、家族同伴で食事をする程度で二人きりで話をする機会は一度も設けられないまま婚儀の日を迎えてしまった。
 そして、少年の頃から男としての魅力が顕著だった勇仁に近寄る女たちは性的な付き合いを目的としていて、処女は皆無だった。
 男を知らない清乃と、処女を知らない勇仁。
 もしも二人が冷静であったならば、このようなことにはならなかっただろう。
 現実として、清乃はすぐさま真神家の息のかかった病院へ極秘搬送され手当を受けた。
 十代の少女のように小柄な清乃を大柄な勇仁が力任せに働いた暴行は、医師たちの予想以上に損傷が激しく、心的ショックも大きかったため、応急処置の後、さらに遠くへ転送せねばならなかった。
 騒ぎに目を覚まし、正気に戻った勇仁の衝撃も大きかった。
 胸の悪くなるような悪夢を見たと思い起き上がると、初夜のためにと姑が整えた部屋の優雅なしつらえは荒らされ、何故か部屋に上がり込み慌てて右往左往する家人たちの中に、ぼろぼろになって横たわっている小さな人影を見た。
 それは、昨日、隣で金の刺繍も豪華な打ち掛けを着て静かに座っていたはずの清乃だった。
 花嫁姿の彼女は、勇仁が言葉もかけられないほど、清楚で美しかった。
 それが今や見る影もなく無残な姿になって、死んだように横たわっている。
 義弟の一人が自分につかみかかって何か言っていたが、全く耳に入らない。
 自分の身体には、自分のものではない血痕と、長い髪が絡まっていた。
 勇仁は、ベッドの上に座り込んだまま、いつまでも動けなかった。

「そんな、まさかそんなことが・・・」
 呆然とした片桐の呟きに、春彦は自嘲気味に答えた。
「でも、既に入籍済みの男と女の間に起きたことは、例えそれが度を越えていたとしても、当時は暴力ととらえられなかったし、今更、誰も引き返せなかったんです」
 
 まず惣一郎が、勇仁を手放すことが出来なかった。
 それに、離縁したとしても、清乃に新たな結婚が出来るとは到底思えない。
 義弟たちも、勇仁の行いと父の執着を非難したものの、かといって自分が代わりに真神を背負う自信はまったくなかった。
 しかし、清乃の傷の深さは計り知れず、面会謝絶の状態が続いた。
 当事者の誰もが悩んでいる時に、新たな事実が発覚した。
 清乃の妊娠だった。
 自失状態で食事も喉を通らず、療養先でやせ細る一方だった清乃に悪阻の症状が始まったとの報告が来た。
 その瞬間、全員の答えが一致した。
 全ては、なかったことに。
 新たな命を軸に、再構築しようと。

 しかし、それは砂の城を作るようなものだった。





 『ずっと、ずっと甘い口唇-60-』へつづく。







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