『ずっと、ずっと甘い口唇』-53-(『楽園』シリーズ) 

2012, 09. 20 (Thu) 18:52

 お待たせしました。
 53話をお届けします。
 話の持って行き方としてどうかなと思わなくもないのですが・・・。
 おつきあい頂けると嬉しいです。

 あと、頑張っていますが、拍手御礼は今夜中に上がらないかもです。
 昨日の体調不良が響きました・・・。

 すみません、どうかお待ち下さいね・・・。



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  現在は、『睦み月』で『シゲルとミケ』シリーズです。
  飲んだくれ猟師と化け猫の話。
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 『ずっと、ずっと甘い口唇-53-』



 ゆっくりと指を開くと、小さく、ありがとうと言われた。
「また、急ぎすぎてしまったな」
 そして彼は両腕を春彦の背中に回して身体を起こして抱え上げ、膝の上にのせる。
 両膝もソファの上に上げられ、横抱きにされた状態で、ぎゅっと腕に力を入れられた。
「どうしても、早く、早くって思ってしまうのはなんでかな」
 肩に頬を寄せると、優しく髪を梳かれた。
「・・・さっき、美咲に逃げたって言ったろ?」
「・・・はい」
「あいつの誘いはかなりあからさまだった。何がしたいかなんて物凄く分かり易くて・・・。本間から婚活に来てるから気をつけろと最初から聞かされていたけど、俺にはその方が都合が良かったんだと思う。あいつは何から何までお前と違ったから」
 女らしい容姿と声色、しぐさ、そして欲望も。
「・・・」
 聞かされる話に少し肩がこわばる。
 彼女は、完璧な女性だった。
 それにすぐ気が付いた片桐がゆっくり手のひらであやしてくる。
「結婚すれば、お前に対する妙なもやもやは治まるだろうと思った。あいつのことだけを考えて、毎日過ごせば薄れていくだろうと。だから、俺は俺に暗示をかけた」
「・・・え?」
「美咲は、壊れ物のような女だとか、俺がいないと駄目だとか、守ってやらないととか、自分は男で、あいつは女で、一緒になるのが自然なことなんだとか、他にも色々・・・」
 誰でも良い、人のうらやむような結婚がしたいと思う美咲と、誰でも良い、邪念を払って欲しい自分。
奇しくもお互いの願望が一致しての結合だった。
「あいつと寝るたびに、ああ大丈夫、まだ大丈夫だってどこか安心してた。でもそのために抱くのに罪悪感を感じて、あいつの望むことなら叶えようと思って、なんでもやった。そうしたら、不思議なことにそれが過酷であればあるほど乗り越えてしまえば本当の愛情のように見えきて、何をしても何をされても可愛いと思ったよ」
 たとえ、その振る舞いに違和感を感じても、すぐに理由をつくってそれを打ち消した。
「でもきっと、俺はいつも同じ顔を作っていたんだろうな。美咲も馬鹿じゃない。だんだんとあいつも同じように取り繕った」
 情熱のかけらもないのに、周りに祝福されるカップルであろうと演じ続けた。
「そんな・・・。とてもそんな風には・・・」
 とても、幸せそうに見えた。
 そして、それを見る度に息苦しかった。
 なのに。
「あいつの容姿は諸刃の剣なんだ。長所でもあり、弱点でもある」
 どこか遠くを見ながら、片桐はぽつりと言う。
 これは自分に話すために思い出しているのだと頭では解っているが、彼女の記憶をたどっていると見ただけでも妬けてしまい、唇をこっそり噛む。
「男にはとてももてたようだけれど、多分、欲しいと思った相手にはいつも適当なところで捨てられていたんだろうな。寝るのは良いけど、本命じゃない扱いばかり受けたのだと思う」
 髪を撫でられながら、社内の男たちが休憩中や飲み会の酒の肴に、瀬川美咲の身体への賞賛ともに一度は寝てみたいと冗談交じりによく話題にしたのを思い出す。
 いつも、性的な目で見られ続けているのは本人も十分承知していたのだろう。
「なら、女に免疫のなさそうな技術系の会社ならと、ここに来たに違いないって本間たちが言っていたのは、あながちハズレでないかもな」
 多忙さから圧倒的に独身者の多いTENで、常に注目の的だった。
 ただし世の常で、一見して有望な男たちはたいてい既に伴侶がいて守りが堅かった。
「だから、顔も頭も普通で生理的嫌悪のない程度の俺に照準を合わせたんだろう。時間もなかったしな」
 瀬川美咲の望みは、過去の男たちや自分を陰で笑っていた女たちを見返せるような男と結婚。
 それも、二十代であるうちに。
 三十を過ぎて独身であることはぜったいにあってはならなかった。
 まだ二十代半ばであった彼女にとって、たった数年上であるにもかかわらず三十歳の女はただの年寄りでしかない。
 その、数年後に対する焦りが募った。
 そんな中、どこか隙のある片桐は絶好の獲物だったと言って良い。
 仕事に疲れているところで食事に誘い、その数時間後にはホテルのベッドの中にいた。
 そして、十日もしないうちに結婚という言葉を引き出した。
 しかし、九州の片隅にある婚約者の実家の様相は衝撃が大きすぎた。もともと愛情がないだけに越えられない壁であり、共生は不可能だった。
「今思うと、取りやめなって本当に良かった。このままだとあいつをとんでもない事に巻き込む所だった」
 婚約指輪なんて、自分の犯した罪に比べたら安い慰謝料だ。
「我ながら本当にひどい男だと思うけど・・・。あいつの中に俺に対する愛情がひとかけらもなかったのが、せめてもの救いだ」
 結婚して、と男の上に乗っているその時も、彼女の身体から一切の熱を感じなかった。
 髪の毛の一筋たりとも、欲しがっていないことは明白だった。
「結婚なんて、そんなものかもしれない。少しの情とお互いの条件さえ合えば出来るのかもしれないけれど、俺はやがてきっと絶望する」
 肩に手をかけ、胸と胸をあわせで抱きしめられて、春彦は息を止めた。
「お前がそばにいないと、お前をこうして抱きしめられないこと、生きていけない」
 互いの胸が、呼吸する度に互いの存在を刻みつける。
 今、こうしている。
 それはなんて幸せなことだろう。
 じんわりと胸の奥が暖かくなり、やがてだんだんと熱い塊に変化していく。
「俺は、美咲さんに感謝しています」
 こみ上げてきた熱い塊を深い呼吸で吐きだした。
「手を離してくれたから、今、片桐さんがここにいる・・・」
 それを聞いて、片桐は少し身体を離して上からまじまじとのぞき込む。
「今の話、ちゃんと聞いてたか?俺がいかに最低かってオチなんだぞ」
「最低でも何でも良いです。俺は片桐さんが好きだから」
 伸び上がって自分から唇を寄せた。
 この、いつもどこか笑っている形をした唇がずっと好きだった。
 厚みのある下唇を軽く吸って、両唇に自らのを押し当てる。
「好き・・・。好きです、片桐さん。ずっと、ずっと、好き・・・」 
 両腕を彼の首に回して、何度も何度も押し当てた。





 『ずっと、ずっと甘い口唇-54-』へつづく。







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