『ずっと、ずっと甘い口唇』-43-(『楽園』シリーズ) 

2012, 08. 23 (Thu) 18:50

 今日は前にちょこっと書いておいた部分だったので楽なはずなのに・・・。
 いつもと代わらない時間に更新って、つくづく仕事がはかどらない女です。
 アップする段階になって、大使館主催の夜のパーティーのドレスコードが気になって1時間くらい検索しまくりました・・・。
 レセブション系はけっこうカジュアルなのかなとか、色々考えあぐねた結果、かなり正式な場ならイブニングドレスだろうと言う結論に至ったのですが、もうもう、庶民なので見逃して下さいとしか言えません。
 銀座のど真ん中でイブニングドレス姿・・・。
 目立つだろうよ・・・。
 なんつう設定したんだ、私。
 でも、変更できなかったのでそのまま進みます・・・。

 明日は外で仕事なので、おそらく更新はお休みします。
 そのあと、ちょこっと旅に出たりするので、続きは来週半ばくらいでしょうか・・・。
 毎日更新が目標と宣言したその口でお休みしますって、大風呂敷でごめんなさい。

 ではでは、43話。
 楽しんで頂けると幸いです。


 一応、もうしばらく拍手の小話の宣伝を。

  どの日付のものでも構いませんので、それぞれの記事の下の『拍手』ボタンをクリックすると、おそらく『拍手御礼』というページが展開されるかと思います。
  そこに、小話を添付しています。
  小話は、『拍手御礼』に1話のみ。
  今回は、「恋の呪文」の江口×池山の 『はやく、はやく』 です。


 
 一応、これからも拍手用小話を月に一度書き換える予定です。
 随時オーダー受付中。
 毎月16日の正午締めで、20日頃に新作アップという形を取りたいと考えています。
 さあ、次は何にしようかな。




 

  記事の一番下の『拍手』ボタンをクリックして頂くと小話をご覧になれます。
  現在は、『睦み月』で『シゲルとミケ』シリーズです。
  飲んだくれ猟師と化け猫の話。
  楽しんで頂けたら幸いです。

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 『ずっと、ずっと甘い口唇-43-』



 豪奢な女が立っていた。
 上質かつ上品な濃紺のイブニングドレス、そしてその上にさりげなく見せるために計算されつくした角度にかけたショール、一筋の乱れもなくやわらかに結い上げた髪、遠目に見ても爪先まで手入れの行き届いたなめらかな肌。それらの全てがこの女の現在の暮らしの豊かさを表しており、数歩下がって付き従うスーツ姿の男たちと合わせて、社会的地位も低からぬことをあからさまに見せ付けていた。
「あなたとこんな時間にこんな所で会うなんてね。親切な叔父様あたりに泣き付いて、本社にでも栄転したわけ?」
 丁寧に塗り上げられた唇から紡ぎ出される言葉は刺々しさと悪意に満ちていて、片桐はかすかに眉をひそめた。
 しかしそんな女の態度に馴れきっているのか、気圧されることなく春彦は唇を微笑みの形に変える。
「まさか。そんなことが通じるような会社ではありませんよ。たまたま打ち合わせの場所がこちらだっただけで、滅多に銀座になんか足を踏み入れません。それよりも、ご無沙汰しておりましたが、お元気そうで何よりです」
 あからさまに馬鹿にされても目上に対する礼儀を忘れない春彦の姿勢に、女は僅かに顔をゆがめた。
「本当に、あなたは・・・」
 言いかけた言葉を飲み込み、一呼吸置く。
「・・・今から、イタリア大使館のパーティに行く所なの。あちらで夫と合流するから、あなたもいらしたら?それこそ久しぶりでしょう、親子の対面は」
 大使館のパーティ、夫、そして親子。それらのキーワードをわざとそばにいる片桐に聞かせているのは明白だった。
 先妻の子と後妻か…。
 二人の関係はたいして考える間もなく理解できた。
 それにしても、この女の方はどこかで見たことがある。財界と言うより、政治家の妻か?
 だとしたら・・・。
 片桐が眺める前で会話は進んでいく。
「・・・いいえ。遠慮します。皆さんのお仕事の邪魔をするわけにはまいりませんから」
「あら、そう?それなら、夫に何か伝言でも預かりましょうか?」
「いえ、何も」
「あら!遠慮なさらないで?こうしてせっかく春彦さんに会ったのに、空手で帰ってしまったら私が意地悪したと叱られるわ!だから・・・」
「晴美さん」
 なおも言い募ろうとした赤い唇を静かな声で制した。
「何があろうと、誰もあなたを責めたりしません。今、父の家族はあなた達なのだから」
「・・・家族・・・。家族・・・、ね」
 寸分の狂いもなく左右対称に描かれた眉が微かに歪む。
「あなた、そんなこと本気で思っているの?」
 胸元のショールにさりげなく置かれた指先が、一瞬、猛禽類の爪の様に鋭くとがっているかのような錯覚を見せるほどの殺気を感じる。憎しみを隠そうともしないその顔は、どす黒い情念を孕んで醜くもあり、強烈な光を放って美しくも見えた。
 傍目には年上の女に絡まれて困惑し、宥めようとしているように見えるが、その実、春彦は彼女の何もかもを堂々と受け止めている。女が上段の構えを取っているとしたら、春彦は静かに端座しつつも、相手の剣先を見据えている・・・。そんなイメージが頭の中で浮かんだ。
「・・・すげえなあ。こんなん、初めて見たわ」
「は?」
「え?」
 つい、口からこぼれてしまった呟きに二人が振り返る。まさか聞きとがめられるとは思わなかった片桐は、頭をかきながら仕方なしに言葉を続ける。
「ええと・・・。リアル真剣白刃取り?目の当たりにすると凄い迫力だなあ・・・と」
 しどろもどろに言いながらも、自分の間抜けさに恥ずかしくなり、一呼吸おいてから勢いよく頭を下げた。
「すみません。大切なお話し中にいきなり割り込んで。どうぞ俺のことは忘れて続けてください!」
 身体を直角に曲げたままの姿勢で動かない片桐に、春彦は困惑の声を上げる。
「片桐さん・・・、あの、そんな・・・」
 慌てて駆け寄り片桐の身を起こさせた春彦の背後で、女はぽかんと口を開けているのが見えた。
「真剣白刃取り・・・」
 ふっと、唇のが上がる。そして、くくくっと喉の奥を鳴らして笑った。
「そう・・・。そうね。こんな所で若い男をねちねちと苛めて・・・。私ったら何をやっているのかしら」
 遠目でも、黒々と丁寧に塗り上げられていると解る長い睫毛に縁取られた大きな瞳がネオンの光にきらめいて、潤んでいるようにも見えた。わずかに唇を開いて言葉を繋ごうとした瞬間、少し高めの柔らかな子供の声が片桐達の横から更に割って入ってくる。
「お待たせ、お母さん・・・!」
 その場に居合わせた全員の視線の先には、品の良い装いの少年が立っていた。大きな瞳、意志の強そうなくっきりした眉と全体的におおらかで華やかな顔立ちは、健康的に焼けた浅黒い肌を除くとこの女性にそっくりだった。
「・・・ひろたか・・・?」
 無意識のまま、春彦は名前を呟く。その声に引かれて少年は目を向け、晴彦を認めると驚きの表情とともに口元をほころばせた。
「・・・あ、兄さん?・・・春彦兄さんだ!」
 今まさに成長期なのだろう、アンバランスに長い手足を持て余すようにひょこひょこと飛び跳ねながら駆け寄ってくる。
「こんばんは、久しぶり。春彦兄さんに会えるなんて思わなかった!」
 目を輝かせて春彦の腕を取る少年は、まるで大型犬の子犬のように人懐っこい。
「こんばんは。裕貴。随分と大きくなったんだね。これじゃあ、もう、僕とあまり変わらないじゃないか」
「うん、久しぶりに会ったらなんだか兄さんに近くなってて、とても嬉しいな。・・・あ、そうだ。ねえねえ、これからイタリア大使館でお父さんと会うんだ。兄さんも一緒に行こうよ」
 無邪気な裕貴の発言に大人たちは三人は一瞬視線を交わす。先ほど、別の口から同じような台詞が出てきたが、随分と響きが違って聞こえるのは、春彦に向ける心の温度の差のせいなのだろうか。
「・・・ごめんね、裕貴。今日はたまたま偶然にここにいただけで、実はまだ仕事中なんだ。先輩を待たせたままだからすぐに行かなきゃならない」
 目の高さにあるつむじに優しく手を置いて、ゆっくりと硬い髪をなでる。一瞬、少年の瞳が揺らいだが、すぐに、にこりと笑った。
「そう。残念だな。・・・だけど、ここで会えただけでも儲けもんだもんね」
 自分に言い聞かせるような言葉に、傍らでやりとりを見ていた片桐は眉根を寄せた。
「・・・さあ、裕貴。そろそろ行かないと遅れてしまうわ。行きましょう」
 少し毒気の抜かれたような表情の母親が、この場を納める。
「はい、おかあさん」
 パーティのための正装なのだろう。上質なスーツを無理なく着こなし、大人に従順に従うその肩が、頼りなく寂しげに見えた。
「じゃあ、春彦兄さん、また」
「うん、身体に気をつけて、裕貴」
 視線をめぐらせてようやく片桐に気付いたらしく、春彦の背後に向かってぺこりと礼儀正しく頭を下げた後、踵を返した。ゆっくりとした足取りで去っていく親子と部下たちを眺めながら、片桐は問うた。
「・・・いくつだ、あの子」
「たぶん、まだ十二くらいだと思います」
 たぶん・・・。その一言が、彼らの関係と過ごした時間を明確に表していた。
「ききわけが良すぎだな。それに、あまりにもまわりに気を遣いすぎる」
 まだ、子供でいて良いはずなのに。
「そうですね・・・。」
「行ってこいよ」
「・・・え?」
「名刺ぐらい渡してやれ。それが『お兄ちゃん』の務めだろう?」
 とん、と、春彦の肩を前に押し出した。
「『お兄ちゃん』なんて慕ってくれるのは今のうちだぜ?可愛い時間を堪能しなくてどうするよ」
 とまどって振り返る春彦ににやりと笑う。
「大の大人が子供に我慢をさせっぱなしにするんじゃねえよ」





 『ずっと、ずっと甘い口唇-44-』へつづく。







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