『ずっと、ずっと甘い口唇』-42-(『楽園』シリーズ) 

2012, 08. 22 (Wed) 19:44

 お待たせしました、42話です。
 前半部分がくどくどとなんだかかったるいですが、我慢しておつきあい下さい。
 ちなみに、またもや新顔登場ですよ・・・。
 これは予定にあって、ずいぶん前に書いていた部分なんですが、もう、皆さんがついてきて下さるか不安で仕方ないです・・・。
 ともあれ、ここからが中村のターンなので、どうかよろしくお願いします。


 さて、前回の日記に書いていますが、私が勝手に開催した夏のキャンペーンの結果、小話をつくって貼り付けましたので、ご覧下さい。


  どの日付のものでも構いませんので、それぞれの記事の下の『拍手』ボタンをクリックすると、おそらく『拍手御礼』というページが展開されるかと思います。
  そこに、小話を添付しています。
  小話は、『拍手御礼』に1話のみ。
  今回は、江口×池山の 『はやく、はやく』 です。


  携帯利用の方など、上手く出てこない時はお手数かけますが、簡易メールなどで教えて下さい~。
  もしもよろしければ、感想などをそのままコメントで頂けるともっと嬉しいです(笑)。
  コメント御礼にもうちょいいちゃいちゃした部分書くかな~とも思ったのですが、時間がありませんでした・・・。
  いつかやってみたいです。

 一応、これからも拍手用小話を月に一度書き換える予定です。
 随時オーダー受付中。
 毎月16日の正午締めで、20日頃に新作アップという形を取りたいと考えています。
 ・・・まるで15日締めで20日受け取りの給料のようですね・・・。



 ではでは、42話。
 これからも色々出てきます。
 春彦の過去・・とかね。
 楽しんで頂けると幸いです。




  記事の一番下の『拍手』ボタンをクリックして頂くと小話をご覧になれます。
  現在は、『睦み月』で『シゲルとミケ』シリーズです。
  飲んだくれ猟師と化け猫の話。
  楽しんで頂けたら幸いです。

 アクセスして下さったり、拍手やバナークリックで励まして下さる皆さんに感謝しています。
 もしもよろしければ感想や要望など頂けると、本当に嬉しいです。


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 『ずっと、ずっと甘い口唇-42-』




 たまたま髭剃りとタオルのセットを突っ込んだまま顧客先へ飛び出して良かった。
 トイレでざっと顔を洗って歯磨きをし、髭を剃ってさっぱりした後にそう思う。
 昨日の夕方から今までここに軟禁状態で、着替えることなどとうてい叶わずシャツもスーツもくたびれきっているが、なんとか手入れできる顔くらいはむさ苦しくない程度にしておきたかった。
 春彦は事態がほぼ沈静化した昼頃に、TEN側とS証券側、両者の承認印を押された書類の受け渡しのために単身で立石たちのいる会社の方へ戻った。
 片桐は現場から離れられなかったし、春彦の同期の江藤たちは既に徹夜も二日目に入って歩く気力もない。比較的余力があると申し出た彼が行くことになった時、行かせたくなかったが、さすがにそういうわけにいかず黙って見送るしかなかった。

 彼は、大丈夫だっただろうか。

 タオルで顔に残った水分を拭き取りながら部屋に戻ると、細い身体がぽつんと佇んでいるのが目に入った。
「あ・・・」
「・・・」
 お互い、言葉もなく見つめ合う。
 しかし、まだ仕事が終わっていないことをなんとか思い出して口を開いた。
「待たせて悪かったな。眠気覚ましに顔を洗っていたんだ」
「いいえ、俺も今着いたばかりです」
 春彦は慌ててバックの中から書類封筒を出した。
「これです。吉田課長の指示で本間さんが作成しました」
「ありがとう。じゃあ、さっさと片付けてくるか。ついでに退館許可の申請も貰ってくるからそこで待っていてくれるか?」
「はい」
「じゃあ、悪いが・・・。すぐ戻るから」
 そう言って数歩進んで、スーツのポケットを叩いて呟いた。
「あ」
「・・・え?」
「これ、渡そうと思ってたんだ。ほら」
 くるりと振り返って、ポケットの中から数個の飴を掴みだして春彦の手のひらに載せる。
「村木さんが、昼間に差し入れしてくれた飴。美味しいから物凄い勢いで無くなっていって焦ったよ」
 お前にも食べさせたくてこっそり一掴み隠して置いたと、片桐が子供のようなことを言って笑う。
「じゃあ、今度こそ行ってくる」
 大股で部屋を出て行く後ろ姿に、春彦は声もかけられなかった。
 手のひらには、じんわりと、少し暖かい飴が数個。
 暖色系の優しい色が、食欲をそそった。
 一粒開封して口に入れてみると、少しほろ苦さの混じった柑橘系の爽やかさが広がった。
 甘さが、身体をじんわりと包み込む。
「おいしい・・・」
 ぽつりと、呟いた。


 片桐が銀座ビルの上層部とやりとりを終えて戻ったのはそれからしばらく経ってのことだった。
 待機室を片付けて外に出ると、ちょうど夕食時で食事へ行く人たちで通りは賑わっていて、開放感のあるどこか楽しげなざわめきに包まれていた。
「ああそうか。今日は土曜日だったな・・・」
 ほとんどの人々は休日を楽しんでいるのだろう。
「すっかり休みもつぶれてしまいましたね」
「まあ、いつものことだから構わないけどな」
 ざわめきの中を並んで歩きながら、どう切り出そうかと片桐は迷っていた。
 二人きりとはいえ、さすがに顧客先の部屋でこれまでの顛末を話すわけにもいかず、とりあえず外に出たものの、話が出来る所が見当たらない。
 男同士で騒ぐ店はいくらでも思いつくが、落ち着いて話をする場所の心当たりが全くない。銀座がテリトリー外だというよりも、そのような店に滅多に足を運ばないからだ。
 前に付き合っていた女性たちに色々な店に連れ込まれたが、全く記憶になく、しかもこの回転の速い界隈だ。既に別の店になっている可能性もある。
 これだけ飲食店が溢れた街なのに、こんな時に限って・・・と、うろうろと目をさまよわせて弱り切っているところに、春彦が俯いたままそっと口を開いた。
「遅くなりましたが、片桐さん」
「うん?」
「おめでとうございます」
「・・・はあ?」
「瀬川さんとご結婚なさるんですね」
 何故、そんな話になる。
 目を見開いて立ち止まった。
「はあ?」
 つい大きな声を上げると、春彦も心底驚いた顔をして立ち止まる。
「え?だってこの間・・・。瀬川さんのお父様が・・・」
 瀬川さんのお父様。
 一生懸命記憶を巻き戻す。
 あの、人の良い愛妻家の丸い顔を思い浮かべながら尋ねた。
「なに。瀬川さんがなんだって?」
 つい、苛立ちをそのまま声に乗せてしまう。
「あの・・・。今度、片桐さんとぜひ遊びに来てくれって・・・」
「・・・それ、いつの話?」
 自然と二人は人通りを避けて建物の脇に向かい合って立ったまま話を続けた。
「・・・二週間くらい前。会社のロビーでご一緒した時に・・・」
「ああ、それね・・・」
「それに、婚約指輪も・・・」
 どうやら村木が上海で買ったのは婚約指輪だろうといらぬ情報を与えたと見た。
 それで、春彦の中では自分が復縁したものと結論づけられているらしい。
 どこからどう、誤解を解いたものか。
 しかし、それをこの人通りの多い街角で?
「いやさ。確かに買ったけど、それは上海じゃなくて」
「そうですか」
 肯きながらも、どこか変な方向に会話が転がっていく。
「そうじゃなくて、こっち向けよ」
「はい」
 ついっと春彦が細い顎を上げて片桐を見つめた。
 間近でみる綺麗な顔に、胸を打ち抜かれて口が半開きのまま止まった。
「あの・・・。その・・・なんだ・・・」
 何か言わなければならないとはわかっているものの、頭の中が空回りしてまともな単語一つ見つからず、片桐の口の中はどんどん乾いていく。
「とにかくな・・・」
 春彦はじっと黙って片桐を見つめた。
 美咲が戻ってきたのは周知の事実だが、その後が違う。
 きっぱり整理したから、自分と始めないかと言うのは、更に違う気がする。
 会いたいという気持ちばかりはやって、会ったらどう説明しようと言うことを全く考え亭無かったことに今更気が付いた。

 終わったから。
 会いたかった。

 そう告げさえすれば、魔法が解けるとでも思っていたのか自分は。
 おめでたさ加減に我ながら頭が痛いが、そんな場合ではない。

 春彦が、言葉を待っている。

 仰向いた彼の白い顔が繁華街の明かりに照らされて青ざめているようにも見える反面、あの、漆を塗ったかのように黒い瞳の中に静けさを感じた。
 それは、まるで断罪を待っているかのように。
 そして、どこか慈愛に満ちたまなざしは、逆に片桐の中で漠然とした不安を呼び覚ました。

 この瞳の色は何なんだ?

「俺が言いたいのは・・・。ええと」
 ようやく出てきたのは、世にも間の抜けた言葉で・・・。
「・・・何だろう」
「・・・」
 途方にくれた。
 言葉を発した片桐も、そしてそれを耳にした春彦も。
 しばらく互いに見つめあったまま固まっていたが、先に春彦が口を一瞬歪め、ふっ、と噴出した。
 そして、喉を鳴らして笑い出したかと思うと、次第にそれは大きくなり、しまいには身体を曲げての大爆笑だった。
「あはははは・・・。片桐さん、それはないですよ・・・。ははは・・・」
 自分もそう思うのだから、反論できない。
 憮然として笑い続ける後輩を見つめた。
「・・・お前、笑いすぎ」
「だって・・・」
 笑い疲れたのか肩でやや荒い息をしながら、春彦は身を起こし、目尻の涙を男にしてはやや細い指先でぬぐう。
 ふーっと、深呼吸を一つした後、彼は真顔になった。
「これだけ笑わせてもらえば・・・。もう充分です」
 もう充分?
 その瞬間、急に片桐の頭の中がフル稼働で動き始めた。
 静か過ぎる瞳、一転してありえないほど大笑いしていた今。
「片桐さん・・・」
 その静けさの本当の意味を知ったような気がした。
「おまえ、諦めるつもりだろう」
「・・・え?」
「諦めるなよ、そんなに簡単に!!」
「・・・はい?」
「お前、俺の事、何だと思ってんだよ!!」
「・・・ち、ちょっと、片桐さん・・・?」
 困惑に眉根を寄せる春彦を見て片桐は安堵した。
 そう。それでいい。
 これこそが、素の顔だ。
「あのさ・・・」
 言葉を続けようとしたその時、むせ返るような香水の匂いと氷のように冷たくて硬い声が強引に二人の間へ割り込んできた。
「春彦さん?・・・春彦さんじゃないの」
 さっと表情を硬くした春彦に、片桐は振り返って侵入者を見咎める。





 『ずっと、ずっと甘い口唇-43-』へつづく。







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