『ずっと、ずっと甘い口唇』-33-(『楽園』シリーズ) 

2012, 07. 30 (Mon) 19:42

 お待たせしました。
 新章突入です。
 ・・・とはいえ、今回もちょっと閑話休題的な感じで申し訳ありません。
 片桐が出てきたら動きますから・・・。

 休日の間もアクセスして下さった方や、拍手とランキングバナーをクリックして下さった方に感謝します。
 今週も頑張ります。
 あ。
 8/1日は、おそらくお休みします。
 福岡はこの日、花火大会なのです。
 だからなんだと言われると困るのですが、そのためにちょっと色々我が家はありまして。
 
 実はかなり花火が好きです・・・。
 お金と時間があったらもっと各地の花火大会を見て回りたいくらい好きです。
 もちろん、線香花火なども好きなのですが、大人だけの家庭だと、なかなかその機会に恵まれません。

 ではでは、ほんとうに今回はのんびりした話になりますが、読んで頂けると嬉しいです。




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  現在は、『睦み月』で『シゲルとミケ』シリーズです。
  飲んだくれ猟師と化け猫の話。
  楽しんで頂けたら幸いです。

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 『ずっと、ずっと甘い口唇-33-』



 つい、ぼんやりと窓の外を眺めてしまう。
 今、彼はどこにいるのだろう。
 春彦は、パソコンを打つ手を止めて知らず知らずのうちにため息をついた。
 もうすぐ、三月も終わる。

 『じゃ、頼んだ』

 そう言って、背中を向けて去って以来、一度も会えないままだ。
「じきに帰ってくるわよ。もう滞在期間は底をつくんだから」
 いきなり背後から声をかけられて、びくりと肩をふるわせた。
「わ」
「あ、ごめん、急に話しかけて」
 振り返ると、手のひらに何かを載せた本間が立っていた。
「はい。これはソンさんからのお土産。けっこう美味しいわよ?」
 小さな紙の上に色の鮮やかな韓菓がいくつか並べてある。
 隣の空き机の椅子に本間が腰掛けた。話の続きがあるらしい。
 ここ一年あまりで上層部が方針を変えて急速にアジア系の国との連携を密にし始めたため、韓国や中国からの技術者が短期間滞在して共同開発する機会が増えてきた。また、逆にこちらから出て相手先で仕事をする人も増え、立石の部下の江口はここ数ヶ月、北京に行ったっきりである。
 そして、片桐啓介は何故か上海に滞在している。
 しかもそれは急な決定で、エントランスホールでの一件のあと、出社することなく彼は行ってしまった。
 本当は、待っていた。
 彼の口から、何か言って欲しかった。
 あの時の彼はすぐにまた戻るような様子だったので、少なくとも深夜には寮で会えるのではないかと。
 しかし結局その日の夜は戻らず、さらに休日だった二日間も音信が途絶えたままで、そして月曜日に出社すると片桐啓介はすでに上海へと出発したと本間に聞かされた。
 彼女は片桐の渡航準備と事務処理のために、部長命令で急遽日曜日に出勤させられたと頬を膨らましていたが、言葉を交わせただけ羨ましいという気持ちが心の底で渦巻く。
 自分でも嫌になるが、片桐について色々知っているそぶりの本間に、少なからず嫉妬していた。
 それを知ってか知らずか、彼女はこうしてよく春彦の部署まで足を運んで話しかけてきたり食事に誘ったりと、なんやかやと世話を焼く。
「片桐さんなら大丈夫よ。ああ見えて、実はちょっと中国語かじっているから予定外に業務がスムーズに行っているって、現地の事務の子からメールが来たわ。ただし現場に気に入られすぎて、毎晩酒盛りでヨロヨロだって」
 例えば、こんな風にさりげなく情報を教えてくれる。
 今更だが、彼女は自分の感情も、片桐とのいきさつも全部把握しているのではないかという気がした。しかし、改めてそれを聞くのははばかられる。
「酒盛り?」
「あちらの国も、相手の心をてっとり早く掴むなら酒だからねえ。ただし、飲み干し続けなきゃいけないから、下戸には地獄ね」
 まあ、そこそこイケル口だからなんとかなるでしょと、酒豪の名を冠する本間は笑い飛ばした。
「・・・あの。底をつくって、どういうことですか?」
 礼を言ってから、一つ摘んで口に入れる。
「うん。今回、あまりにも急だったから入出国の手続きも何にも出来なくてね。ビザなし滞在は15日以内と決まってるの。だから、そろそろ出国しないと不法滞在になっちゃうわ」
 まだあれから2週間。
 自分にはもっと長い時間が経ったような気がした。
 そもそも、およそ二ヶ月の間、まともに口をきいていないのだ。
 こんな事なら、何があっても意地を張らなければ良かったと後悔する。
「だいたい、今回の上海事業はイレギュラーな形でねじ込まれたヤツだから。あれが成果を上げるなんて誰も期待していなかったのに、一人でがんがんかましてくれて、おかげで上は慌てているはずよ。たいした準備してないからね」
「え・・・?どういうことですか?」
「ほら、この前の土下座事件。あれ、色々な人に目撃されてしまったでしょう。このビルには有名企業がたくさん入っているってのに、終業間際の人通りの多い時間にあんなことして、居合わせた人はみんな興味津々だっだじゃない。だから、人の噂も七十五日ってことでしばらく国外に飛ばそうってなったらしいの」
 確かに、このビルの半分ほどはTEN関連の会社が占めているが、立地条件の良さからそれ以外にも各種業界の一流企業がテナント入居している。
「片桐さんは別に周りに何を言われても構わないって言っていたんだけど、うちの上司も含めて各方面で色々詮索されても困ることがあってね。そこにもしも良ければ上海の口を紹介しますよって話が舞い込んだから、それに乗ったのよ」
 ちなみに北京方面は江口を始め、今までの仕事で顔見知りのメンバーが幾人か滞在しているが、上海はもともと立ち上げたばかりの上に別部署の管轄で、片桐の事を知るものは全くいない。どう見てもそれが狙いだったとしか思えない。
 おそらく、「もしもよければ」なんていうのはあの顔だけ秘書経由の話だろうが、それを中村に説明する役は自分ではない。
「まあ、片桐さんがごくごく普通の容姿だったのが幸いしたわね。あれが佐古さんだと誰も絶対に忘れないから。十日以上見かけなければ、あれ、どんな人だったっけ?って話になるわ」
「そんな・・・」
 『ごくごく普通』などと思ったことがない中村が反射的に口を開こうとしたら、本間がそれを見るなり腕を組んでにいっと笑った。
 ・・・やはり、見透かされている気がしてならない。
「でも片桐さんとしてはプライベートの尻ぬぐいで海外出張なんて措置、腹に据えかねたみたいで、ならきちんと仕事してやろうじゃないかって、到着当日からぐいぐい上海人の中に割って入って、そりゃ鬼気迫るもんがあったって」
 結果オーライで良かったわね、とのんきな感想を聞いているうちに、この2週間、一番知りたかったことを口にした。
「・・・あの。それで、瀬川さんのことは・・・」
「それは、言えないわ。本人に聞くしかないわね。多分、私の予想は当たっているだろうけれど、それはあくまでも予想だし。とりあえず、そのために出国間際まで西に東に走り回っていたことだけは教えてあげる」
 本当は、大丈夫だと、気にすることは何一つないと、言いたいのは山々だ。
 しかし、肝心要のことは片桐自身が説明したいだろう。
 彼は、せめて月曜日に出社して、いや、日曜日の夜だけでも中村に会うために時間を捻出しようと努力した。しかしそれを周りが許さなかっただけだ。
 その後、メールなり電話なりしようと思えば出来ない事もなかっただろうけれど、全ての片をつけてから向き合おうと決めたのだろう。
 そういう所が片桐らしいが、そのせいで事情を知らない中村は毎日うつうつとしている。
 見るに見かねて食事に連れ出したりしているが、どんどん彼の顔が小さくなっている気がしてならない。
 はらはらと気をもむ毎日だ。

 それにしても。
「私、片桐さんの施設秘書ではないんだけどなあ」
 最近、とみにそう思う。
 あのへっぽこ上司のフォローと併せて特別手当が欲しいところだ。

 まあ、それはともかくとして。

 早く帰っておいで。
 そして、早く抱きしめてあげるといい。

 更に細くなった春彦の透き通るような白い指先を眺めて、そう願わずにはいられなかった。


 






 『ずっと、ずっと甘い口唇-34-』へつづく。







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