『ずっと、ずっと甘い口唇』-29-(『楽園』シリーズ) 

2012, 07. 23 (Mon) 20:00

 夕方に駆け込み出更新したものを、夜中に修正しました。
 ちょこちょこと・・・、書き加えました。

 それにしても、この手の料亭旅館・・・。
 ネットで探しても出てこないのですよね。あたりまえか(笑)。
 なので、ランクとしてまあわかりやすく言えば「政治家が密談に使用する料亭」程度と想像して頂ければ幸いです。


 ではでは、つづきをどうぞ。

 いつもアクセスして下さるみなさん、本当にありがとうございます!!

 話は横道にそれてどんどんさまよっていますが、どうかおつきあい下さい。




  記事の一番下の『拍手』ボタンをクリックして頂くと小話をご覧になれます。
  現在は、『睦み月』で『シゲルとミケ』シリーズです。
  飲んだくれ猟師と化け猫の話。
  楽しんで頂けたら幸いです。

 アクセスして下さったり、拍手やバナークリックで励まして下さる皆さんに感謝しています。
 もしもよろしければ感想や要望など頂けると、本当に嬉しいです。


ブログランキング・にほんブログ村へ


   拍手小話はこちら →

 『ずっと、ずっと甘い口唇-29-』


 ある程度予想はしていても、いざ現実となると、人は思ったほどの行動は出来ない。
 それを痛感するここ数時間である。
 
 片桐啓介は、都内のとある高級料亭の座敷に座らされていた。
 さすがに上座は頑なに辞して瀬川吾郎に座って貰ったが・・・。
 卓上には、滅多にお目にかかれないような食材で作られた先付と前菜が並べられ、杯になみなみと冷酒が注がれている。
 まずは、場を和ませてといったところか。
 瀬川家の手際の良さに舌を巻く。


 およそ1時間ほど前。
 片桐は台風の目の中にいた。
 大車輪で襲いかかってきた瀬川親子に手も足も出ず、しばらくぼんやりと眺めるしかなかった。
 実際、この親子が手を取り合ってさめざめと泣けば泣くほど、片桐は冷めていき、内心うんざりしていた。
 ただちに今、すべてを解決してしまいたいところだが、ここは見物客があまりにも多すぎる。
 かといって、放置するわけにも行かず、ここは彼らの意に沿うしかなかった。
 屈んで両方の肩に手を置き、低い声で囁く。
「・・・二人とも、どうか落ち着いて。顔を上げて下さい。どこか、静かなところで改めて話をしたいのですが、構いませんか?」
 ばっと、二人はすぐに顔を上げる。
「ば、場所は私が。私が手配するから、ついてきてくれるかね?ちょっとここから離れているが」
「はい。お義父さんの思うところで」
「そうか。ありがとう、有難う啓介君!!」
 喜々として両手を握られ、立ち上がったところでラウンジ席の方を振り向いた。
 そこには春彦が、真っ白な顔のままこちらを見ていた。
 まるで、凍り付いたように動かない。
 片桐はため息をかみ殺し、ぎりぎり届く声で言った。
「悪いけど。課長か本間に言ってくれるかな。今日は直帰。処理は明日にするって」
 久しぶりに話しかけるのが、こんな内容だなんて。
「・・・はい。確かに承りました」
 ようやく聞き取れた返事は、記憶の中の声よりもか細い。
 他に言いたいことはたくさんあるが、まずは、目の前の事に集中せねばならない。
 ここで踏ん張らねば、男として廃る。
「じゃ、頼んだ」
 これ以上無様な姿を見せたくない一心で、片桐は出口に向かった。


 とはいえ。
 まんまとタクシーに押し込まれ、都内にまで拉致されたこの状況をどうしてくれようと、嘆息する。
 どれだけ計画を練って、今日に挑んだのか。
 それまでの両家の付き合いではあり得ない場所の設定に、これが背水の陣であることは間違いないだろう。

「啓介君、今まで、本当にすまなかった」
 床の間を背に、瀬川吾郎が頭を下げた。
 父の隣に座る美咲は正座したまま俯いており、両肩にかかる髪に隠されたその表情はみえない。
「どうか、もう謝らないで下さい。過ぎたことですから」
 言葉尻に反応し、すぐさまその丸い顔を上げた。
「す、過ぎたことと言うと、許してくれるかね?」
「はい・・・」
 続きを口にしようとして、封じられる。
「そ、それじゃ、美咲が一時の気の迷いで婚約破棄したことも、許してくれるよな?」
 テーブルに手をついて、前のめりにのぞき込まれ、片桐は天を仰ぎたくなる。
 来たか。
 回りくどい演出を終え、ようやく本題がお目見えした。
「美咲は、なにも啓介君が憎くてこんな事をしてしまったのではないんだよ。ただ、初めて行った九州の、土地の違いに驚いて、不安になってしまっただけなのだそうだ。しかし、独りになってじっくり考えて、やはり啓介君のそばにいたいと・・・」
「それ、本気なのか?美咲」
 くどくどとかき口説く義父の言葉をこれ以上聞いていられなくて、斜め前に座るかつての婚約者に問う。
「ええ・・・。ごめんなさい。私の、結婚に対する覚悟が足りなかったの。でも、今は・・・」
「今なら、俺の妻になって良いと思うわけ?」
「ええ。私はもう一度やり直したいの」
 目を伏せたまま、もじもじと肩をすくめた。
 今日のメイクは、今まで見た中で一番完成されたもののような気がした。
 先ほど、いったん化粧室に入り、念入りに修正したと思われる。
 その痕跡を見るにつけ、内心ため息でいっぱいだった。

 俺は、いったい何をしていたのだろうな、と。
 何に、心を奪われていたというのだろう。

「・・・俺は、無理だと思う」
 同時に、二人の顔色が面白いほど変った。
 この瞬間にも、冷静な自分が嫌になる。
「そ、そんな、なにもすぐに答えを出さなくとも・・・!!」
「そうよ、いきなりこんなこと言い出したから、啓介さんも驚いているでしょうけど・・・」
「・・・もっとゆっくり、時間をかけて考えたら、答えが変ると?」
 それはあり得ない。
 首を振ると、美咲が席を立って駆け寄り、腕に手をかけた。
「私、本当に反省したの。気持ちが不安定になったからって、なんてことをしてしまったのかしらって。あなたは私のこと、とても大事にしてくれたのに」
 また、目尻に涙をためるのを見て、心が更に冷えていく。
 どこからが愛情で、どこからが計算だったのだろう。
 それとも、最初から愛情なんてものは存在しなかったのか。
 それを言うならば、自分も同罪なのだろう。
 彼女の指先のぬくもり、ただよう匂い、瞳を見ても何も感じない。
「啓介君も混乱しているだろうから、私は、今日はこれにていったん帰るよ。後日、妻とともに九州の御両親にも謝罪に行って・・・」
 腰を浮かし始めた父親を片桐は目で制した。
「待って下さい。ここのあとは二人でごゆっくり、などと言うのではないですよね?」
「いやその・・・」
 彼も、ここまで俗な事を思いつく人ではなかっただろうに。
 どこか間が抜けて人の良い、愛妻家の美咲の父が、実はかなり好きだった。
 この人がいたから、家族になるのも楽しいかもしれないと思ったのに。
 しかしそれを変えてしまったのは自分だ。
 情けない気持ちに、半分泣きたくなりながら、片桐は美咲の手をふりほどいて立ち上がる。
 そして、立ったまま部屋の側面にあるふすまの引き手に手をかけた。
 あっと、二人が息を呑む。
 すっと少し開くと、そこには寝室がしつらえてあった。
 畳に伸べたばかりの、布団が二組。

「・・・ふたりで、ここでじっくり話し合えと?」
 
 語るに落ちる、である。






 『ずっと、ずっと甘い口唇-30-』へつづく。







     < ↓ポチリとしてくださるとうれしいです↓ >

  br_decobanner_20100412095827.gif  にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村
スポンサーサイト

タグ:続きを読む

コメント

コメントの投稿

非公開コメント