『ずっと、ずっと甘い口唇』-28-(『楽園』シリーズ) 

2012, 07. 22 (Sun) 17:13

 鬼の居ぬ間の更新(7/22)。
 多少修正しています(7/23)。
 なんでこうなるんだ・・・、と、自分でも思ったりして・・・。

 登場人物が多すぎますよね・・・。
 みなさん、大丈夫ですか・・・?






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  現在は、『睦み月』で『シゲルとミケ』シリーズです。
  飲んだくれ猟師と化け猫の話。
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 『ずっと、ずっと甘い口唇-28-』


 課長を短時間でほどよく締め上げた本間は、とりあえず1階に下りてみた。
 理由は、橋口からの追加情報がとても気になったのが一つ、出刃ガメ根性に負けたのが一つ。
 きっと、ただ事では済むまいという勘が働いた。
 認証ゲートを通って吹き抜けエントランスへ出てみると、受付ブースにいた橋口が顔を上げた。
 彼女の視線は、まず、ラウンジの方をしっかりと指し、次に、なぜか2階の方へすっとすべっていく。
 吹き抜けのそこはショールームブースが近く、来客のために長椅子やテーブルセットが観葉植物とともに配置され、エントランスを見下ろす形になっていた。
 もちろん、入館した者なら誰でも使って良いことになっている。
 それをたどって、彼女の言わんとしていることに気が付き、げんなりする。
「うわ、そういうこと?そこまでやる気?」
 さて、そうなると自分の立ち位置はどこにするか。
 見晴らしの良い場所を探して歩き出した。
 もうすぐ、瀬川劇場の幕が上がる。


「だから、ぜひ、今度啓介君とうちに遊びに来てくれたまえ。妻もきっと喜ぶ」
「はあ・・・」
 そろそろ限界だ。
 なんとか気力を振り絞って曖昧な相づちとほのかな笑みを返すが、目の前の男性は矢継ぎ早に話しかけてくる。
 ロボットのようにこくこくと肯いているうちに気が付いた。
 瀬川吾郎は上機嫌というわけではない。
 話をしていなければ、笑い続けていなければ、落ち着かないのだ。
 館内はさほど暑いわけではないのに、彼の額ににじんだ汗はいつまでも、とめどなく浮かんではハンカチに吸い取られていく。
 このままでは、お互い爆発してしまいそうだった。
 はやく。
 来るなら早く。
 何がどうなるかは解らない。
 ただ、とにかく早く、この状態を終わりにしたかった。

 と、その時、目の前の男性の顔がぴたりと笑いの形のまま固まった。
 視線は自分を通り越して場内に向かっている。
 もしかして。
 振り返ると、かつん、かつんと言う靴音ともに、コートとバッグを手にした男性が足早に近付いてくる。
 均整のとれた、かっちりとした肩、揺るぎない颯爽とした足取り。
 少し癖のある固くて茶色がかった髪は短く刈り込み、浅黒い額はすっと意志の強そうな形の良い眉に続いていた。
 そして少しきつめにつり上がった大きな焦げ茶の瞳、いつもどこか笑ったようにつり上がっている厚めの唇。
 あの唇から聞こえる深くて低い声が心地良く、いつもずっと聞いていたかった。
 およそ二週間ぶりに見るその姿に、中村は思わず見とれてしまう。
 悔しい。
 悔しいけれど、彼のすべてが好きだ。
 今、この瞬間も、とてもとても好きだ。
 目の奧が、つんと熱くなった。
 

 片桐はラウンジに向けて足を進めながら、困惑した。
 受付の橋口は、美咲の父親がラウンジで待っていると内線電話で言ってきた。
 しかしそこで待っていたのは彼一人ではなかった。
 テーブルセットに相席している青年の後ろ姿に見覚えがある。
 頼りなげな薄い肩、長くてほっそりした首、白いうなじ。
 この二週間、会いたいと何度も思い描いた人に、とてもよく似ていた。
 しなやかな身体をを強く抱き寄せて、あの、甘い匂いを胸一杯に吸い込みたいと強く思った。
 会いたい。
 会って、せめてその白い手を握ることが出来たら。
 そんな思いで頭がいっぱいになったまま足を進めると、その細い肩が揺らぎ、振り向いた。
 初雪のように白い頬、潤んだように見える黒い瞳。
 春彦だった。
「・・・どうして・・・」
 呟いて足を止めた。
 それ以上先へは進めなかった。
 進んだら、抱きしめてしまいそうで。

 空気が止まる。
 
 会いたかった。
 会いたかった。
 ずっと、ずっと会いたかった。

 それ以外の言葉は思い浮かばない。
 互いの視線を絡ませたまま、時が止まったように思えた。


 そんな中、いきなり黒い塊が割って入る。
「け、けいすけくん!!」
 まるで早朝の鶏の声のような呼びかけに、はっと片桐が顔を上げると、ばたばたと駆け寄った瀬川吾郎が、そのまま足下に転がり込んだ。
「・・・?」
 目を見開いたまま立ちすくむと、それを見て取った彼は、すぐに膝を床に付き、更に両手と頭もつける。
「啓介君!!すまなかった!!」
「・・・え?」
「どうか、どうか、美咲を許してやって欲しい。これ、この通りだ!!」

 瀬川吾郎は、片桐啓介の足下でまるでカエルのようにうずくまり、土下座していた。
 首筋まで湯気が立ち上らんばかりに真っ赤になった彼の精一杯の声は、三階吹き抜けのエントランスにわんわんと反響している。

「どうか、許してくれ、けいすけくん!!」
 額をぴったり床につけているとはいえ、腹に力を入れての大音声は、周囲の人々を驚かせるに十分だった。
 ラウンジにいた他の客や、2階、3階のショールームや応接室にいた人々が何事かと様子を見に顔を出し始める。
「あの、瀬川さん、とにかく顔を上げて下さい・・・」
 自身も床に膝をつき、丸みを帯びた小さい肩に両手をかけると、彼は、更に這いつくばった。
 なんとかこの場を納めねば、見物客は増えるばかりである。
「瀬川さん・・・」
「もう、お義父さんとは呼んでくれないんだね、啓介君・・・」
 くぐもった声に、口を開こうとしたその時、更に背後で高い声が上がる。

「お父さん、やめて!!」

 すぱーんと、まるで歌うかのようなその声は、天井に当たって、片桐の元に降り注ぐ。
 見ると、そこには瀬川美咲が立っていた。
「お父さん、私のために・・・。やめてちょうだい!!」
 両手をもみ絞り、はらはらと頬から涙を流す。
「でも、お前・・・」
 瀬川吾郎は、すっかりゆであがった顔を上げた。
「おとうさんったら・・・!!」
 駆け寄った美咲は父を抱きしめる。
「美咲、ごめんな、みさきーっ」
 
 想定外も想定外だろう。

 片桐は、口を半端に開けてそれをただただ見ていた。

 そして、終業間際のエントランスで繰り広げられる愁嘆場に、野次馬は増える一方だった。



「・・・いまどき、大衆演劇でもここまでないと思う」
 温泉センターで子供の頃に祖母と見た旅芸人の一座の演目は、それなりに面白かった。
 でも、それは場所によりけりで。
 柱に寄りかかり、ぼそりと呟くと、背後からすっと声がかかる。
「大衆演劇はお嫌いで?」
 振り返ると、整いきった鼻梁がすぐ間近にあった。
 いつの間にか、長田家の第三秘書が本間の背後に回っていたようだ。
 どこか余裕の笑いを含んだ切れ長の瞳に、佐古と良い勝負だと思いつつ、そのまま返す。
「ああ・・・。時と場合によりますね。これはあまりにも悪趣味すぎるでしょ?」
「まあ、たしかに」

 さすが、キューソネコカミ。
 しかし、ここまでとは。

「とりあえず、これで、例の一件はカタがつくって事ですね?」
「おそらくは」
「なら、どうぞ遠慮無く、お仕事の続きをなさって下さい」
 普通の女ならそのまま魂まで吸い込まれそうな瞳の輝きを、顎を上げてじっと見返す。
 こんな所でちんたら水売ってないで、とっとと働け。
 本間の強さに、驚いたかのように二、三度瞬きをした後、ふっと苦笑を浮かべて身体を離した。
「はい。それでは、お先に失礼します」
 立ち去り際に、手に何かをしっかり握らされた。
 振り返ると、その背は想像したよりもずっと先を風を切るように歩いていた。
 手の中には名刺。
 ご丁寧に自筆で個人の携帯アドレスまで記入されている。
「・・・これをどうしろと?」
 本間は眉を思いっきりひそめた。







 『ずっと、ずっと甘い口唇-29-』へつづく。







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