『ずっと、ずっと甘い口唇』-27-(『楽園』シリーズ) 

2012, 07. 19 (Thu) 20:02

短いけど、更新します。
本当にちょっとでごめんなさい。




  記事の一番下の『拍手』ボタンをクリックして頂くと小話をご覧になれます。
  現在は、『睦み月』で『シゲルとミケ』シリーズです。
  飲んだくれ猟師と化け猫の話。
  楽しんで頂けたら幸いです。

 アクセスして下さったり、拍手やバナークリックで励まして下さる皆さんに感謝しています。
 もしもよろしければ感想や要望など頂けると、本当に嬉しいです。


ブログランキング・にほんブログ村へ


   拍手小話はこちら →

 『ずっと、ずっと甘い口唇-27-』


 何故、自分はここにいるのだろう。
 中村春彦は困惑していた。
 なぜか、1階の訪問客用のラウンジのテーブルセットの一つに腰を下ろしていた。
 そしてその向かいには、丸顔の男性が落ち着かない様子で汗を拭きながらちょこんと座っている。
 目の前には、受付嬢が手配してくれたコーヒーが緩やかな湯気を立て、ほのかな香りを上げていた。
「すみませんねえ。心細いので、つい・・・」
「いえ、ちょうど時間がありますから・・・」

 時がこれよりちょっとだけ遡る。
 受付で、自らの名前を書き終えた瀬川吾郎は、急に声を上げた。
「ああ!!」
「はい?」
「え?」
 驚いた受付嬢は思わず聞き返し、中村はその場で固まった。
「君!!軽井沢のスキーにいた子だろう!!」
 振り返るなり、隣に立つ中村の腕を掴んだ。
「は・・・。はい?」
「一月!!一月にうちの美咲が軽井沢へ片桐君とスキーに行った時、一緒に写真に写っていたのは君だな!!」
 向かいの橋口が「あ・・・」と小さく声を上げた。
 実は、彼女も参加者の一人だった。
 その折に記念にと集合写真などを確かに撮った覚えがあり、実際、参加者全員に配られている。
 女性は、服装でずいぶんとイメージが変るので解りづらいかもしれないが、男性の中村はその点違和感がないのだろう。
「ああ・・・。はい。ご一緒させて頂きました」
「やっぱりそうだ。どこかで見た顔だと思ったんだ!!これも何かの縁だ。ちょっとしばらく一緒にいてくれないかね?」
 にこにこと人なつっこい笑みを浮かべられ、否やも何もない。
「はい・・・。ご一緒させて頂きます」
 受付処理のためにキーを叩く橋口のこっそりついたため息は、二人には聞こえなかった。


「君、啓介君と美咲と三人で写った写真があっただろう。妻があれを見て、物凄く君のことが気に入ってね。綺麗だ綺麗だって四六時中見ていたから覚えていたんだよ」
 妻は、韓流ドラマとアイドルが好きでねえ。
 屈託のない笑顔に、中村は困惑を深めていった。
 何故、自分はここにいるのか。
 何故、破談になったはずの義父が片桐を訪ねてきているのか。
 そして、この状況は何なのか。
 わからないことだらけだが、壊れた機械のように同じ事をぐるぐると考え続け、まったく答えが出てこなかった。
「はい。そういえば、ゲレンデで一枚、ご一緒させて頂いた覚えがあります」
 本当は、欠席しようと思ったスキー旅行。
 結婚が決まって幸せそうな二人を見たくないと何度も思ったのに、片桐がこのような場に参加するのはもう最後かもしれないという未練が勝ち、ずるずると来てしまった。
 そして後悔している最中に、誰かから声をかけられ写真を撮られた気がする。
 自分はきちんと笑えていただろうか。
 泣きだしそうな心を叱咤して、背筋を伸ばした。
 ただ、それだけだ。
 とにかくスキー場ではがむしゃらに滑り続け、夜はコテージでいつもより多く飲んだ酒の酔いと疲れにつぶれ、幹事の立石に心配をかけ続けた。
 そして旅行後に幾人かの好意で手渡された写真は、引き出しに放り込んだまま一度も見ていない。
 最悪とも言える思い出は、ずっとずっと記憶の奥深くに封印していた。
 それなのに、目の前の男性は、とても楽しそうに語っている。
 啓介君が、啓介君が・・・と。
 彼の機嫌の良さに、たどり着いた結論がある。
 片桐と瀬川は・・・。
 おそらく。

 テーブルの下で握り込んでいた両手がだんだんと冷たくなっていった。





 『ずっと、ずっと甘い口唇-28-』へつづく。







     < ↓ポチリとしてくださるとうれしいです↓ >

  br_decobanner_20100412095827.gif  にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村


スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿

非公開コメント