『ずっと、ずっと甘い口唇』-19-(『楽園』シリーズ) 

2012, 07. 03 (Tue) 20:20

 駆け込みでとりあえず更新。

 夕飯の支度が出来てない~。

 色々修正はまた後ほどに。





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  現在は、『睦み月』で『シゲルとミケ』シリーズです。
  飲んだくれ猟師と化け猫の話。
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 『ずっと、ずっと甘い口唇-19-』



「コンロにかけてるコンソメ、あれもう仕上がってるの?」
 目の前にいる客をそっちのけで佐古は話を続けた。
 こちらは清潔そうな白いシャツとグレーのカーディガンに黒のカーゴパンツ。
 クールなスーツ姿からは考えられないくだけたな着こなしも、目が離せないほどに決まっていた。
「そろそろいいと思うけど、あとは味を見て・・・」
 佐古を絡みつかせたまま、平然と立石は煙草を口に運ぶ。
「よく、あんな面倒くさいスープ作るよね、徹って。まあ美味しいから良いけど」
「なら、文句を言うな」
 長身で見た目も良い二人がいつもと違う服装と雰囲気を見せていることにまず見とれていた瀬川だったが、その距離の近さにだんだんと違和感を覚えた。
「だいたい、徹が昨日眠らせてくれなかったからこんな時間になったんじゃないか」
「お前、よく言うな・・・」
 いつまで経っても二人はくっついたまま会話を続けている。
まるでそれが日常であるかのように。
「もう、身体のあちこちがぎしぎし言って、どうしてくれるのさ」
「いや、それは俺だけのせいじゃなから」
たとえ佐古がアメリカで育ったとしても、いくら何でも密着しすぎてやしないか。
 もう子供ではない、三十前後の大の男たちとは思えない親しさ、いやそれよりも見ているこちらが恥ずかしくなるような甘さを時折感じる。
 そして、ふと、二人の会話をもう一度リプレイした。
 ・・・コンソメ、スープ?
 『あんな面倒くさいスープ作るよね』
 佐古はそう言った。
 ようするに、立石の料理の腕前とこだわりは相当なものなのではないのか?
 手早いだけのイタリアンを作ろうと用意していた瀬川は青くなった。
 今までの男たちは料理をしないからこの手が通用したが、彼の場合は逆に好感度を下げるだけだと全身血の気が引いた。
 瀬川の様子を横目に見ていた佐古はそのまま話を続けた。
「そういえばさ。さっき電話が入ったよ。オーナーから」
「ああ、森本さん?なんて」
 今こうしてやたらと自分の身体に取り付いてべたべたと触っているのも、先ほど飲んだはずのコンソメの話をするのも、佐古に考えがあってのことだろうと任せていたが、急な話の切り替えに眉をひそめる。
「俺らがアメリカへ行っている間に、5階の田中さんがソウルに拠点を移したから、空き家になってるよって」
「田中さんが・・・」
 田中さん、という人は存在しない。
 短くなった煙草を床に落として靴で火を消す。
 ふと目を上げると、瀬川が自分たちを凝視している。
「・・・すみませんが、田中さんの空きのあとは先約があるから・・・」
 断りを入れようとするのを目を見開いたままの瀬川が遮った。
「あの、オーナーって・・・。森本さんって、誰ですか?」
 コンソメの話をしている時よりも、はるかに顔色は白くなっていた。
「・・・このマンションの持ち主ですが」
 立石も素になって答える。
 まさかと思うが。
 まさかそれで。
「え?だって、このマンションは立石さんのでしょ?」
 瞳孔が開ききっていて、正直、怖い。
 しかし、間違いは正すべきだろう。
「・・・いや、違いますよ?」
「だって・・・!!」
 悲鳴のような声に、佐古がするりと二人の間に割って入った。
「ただの店子だよ、俺たちは」
「うそ・・・?」
 少し頭をかがめ、卒倒しかねない瀬川の目線に顔を合わせてほほえんだ。
「本当。オーナーが徹の友人で、徹の知人ならある程度常識があるだろうって事で、空き部屋が出来るたびに次の店子の紹介を頼んでくるから、自然とこれ一軒友人ばかりになっているけど」
 独身寮から転居してきた江口もその一人だ。
「片桐から、聞いてなかったの?」
「聞いていません、そんなの・・・」
 呆然と立ちすくむ瀬川の肩にそっと手を置く。
「・・・そこまで送るよ、行こう」
 そのままウエストの辺りにすっと手が当てられ、まるでパーティでエスコートするかのように自然と廊下を歩かされた。
 瀬川は夢の中を歩いているような気分だった。
 色々な意味で。


「あのさ」
 エレベーターの到着を待っている間に佐古がぼそりと言った。
「君は、ここには来なかった。何も見ていないし、何も聞いていない。それでOK?」
「え・・・?」
 ちょうど箱が着いたので、またもや、やんわりと背中を押されて乗り込む。
 降下する中、なんとなく向き合うと、佐古が右手で髪をかき上げた。
 あらわになった首筋は男らしくのど仏が出て、すらりと長く、立石とは違う色香を放つ。
 しかし、その綺麗な首筋に不似合いなものが襟の上にくっきりと現われていた。
 それは、赤く鬱血して、白い肌にまるで花びらを落としたかのようだ。

 「トオルガ、ネムラセテクレナカッタカラ」
 「ソレハ、オレダケノセイジャナイ」

 先ほどは気にもとめなかった会話が頭の中でよみがえる。

 その一点から目が離せなくなっているのを見て取った佐古は、艶然とほほえんだ。
「徹は片桐を気に入っているから、今日のことは絶対誰にも言わないと思う。で。君が俺たちのテリトリーにこれ以上入って来ないと約束するなら、俺も黙ってやっていてもいいよ」
 腰を折り、息の届く位置まで額を寄せて、ささやく。
「どうする?」
 あまい、甘いささやきだった。
 コーヒーの香りのする唇がゆっくりと、触れそうで触れないぎりぎりのところで言葉を紡ぐ。
「今、この瞬間も、みんな、なかったことにしてしまいたくない?」
 ふらふらと肯くと、意外に大きな手が優しく頬を撫で、その唇が額に落ちて、ゆっくりと離れた。
「なら、約束」
 更に、コーヒーと煙草の混じった香りが唇をかすめる。

 柔らかな感触。
 そして、なんて甘い。

 金縛りにあったかのように瀬川は指一本動かせなかった。

「はい・・・」
 かろうじて、返事をしたのを覚えている。


 気が付いたら、いつの間にか一階に着いて、扉が開いていた。
 外は、うららかな春の日差しに満ちている。





 『ずっと、ずっと甘い口唇-20-』へつづく。







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