『ずっと、ずっと甘い口唇』-18-(『楽園』シリーズ) 

2012, 07. 02 (Mon) 19:54

 先週は途中で力尽きてしまいました。

 18話、更新です。

 やっぱり、あと二話かな。
 メイン二人を置き去りに話が進むのは。
 あともう少し。
 あともう少しおつきあい下さい。

 ところで、久々に「恋の呪文」の方を読み直したのですが・・・。
 前にここに掲載する折にかなり手を入れたつもりだったけれど、今読むと、もっと色々書き換えたくなります・・・。
 昔、漫画を描いていたせいか、ものすごーく間が漫画チックなんですよね。
 ああ、でも、どこをどう手入れしたらいいか解らないくらい、あらが目立っていて、独りで奇声を上げ続けました。
 あうう、あうあう、と。

 とりあえず、あれをどうにかするのは、このシリーズが完結してからにしよう、そうしよう・・・。


 ではでは、つづきをどうぞ。





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  現在は、『睦み月』で『シゲルとミケ』シリーズです。
  飲んだくれ猟師と化け猫の話。
  楽しんで頂けたら幸いです。

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 『ずっと、ずっと甘い口唇-18-』




 玄関先でドアに寄りかかって佇むその人は、ゆっくりと吐きだした煙草の煙を物憂げに眺めていた。浅黒い、信じられないほど小作りな顔に形の良い高い鼻、きりりとした眉に長いまつげ、知的な額。鎖骨が綺麗に出るVネックのシャツに厚手のパーカーを緩く羽織り、ブルーのジーンズからは信じられないほど長い足が伸びている。
 こんなにセクシーな人、見たことがない。

 足を止めてうっとりとため息をついたところで、彼は視線をこちらに向けた。
 奧二重で切れ長の、茶色がかった瞳はいつもよりもクールだった。

「・・・こんにちは。ここがよくわかりましたね」
「前によく話に聞いていたので。休日に突然すみません」
 誰から聞いたかを、あっさり省いていた。
 ちっともすまないと思っていないのは、この満面の笑みを見れば一目瞭然だったが、かといってそれをすんなり受け入れるわけにはいかず、そ知らぬふりをして問う。
「今日はどうしましたか?片桐のことで?」
「あの折は大変お騒がせしてごめんなさい。会社の方々にも大変迷惑をおかけしてしまって言葉もありません。お詫びに伺おうかと思ったのですけど、片桐さんの立場もありますし・・・」
 片桐さん。
 少し前の呼び名は違った。
 すっかり過去のことと言わんばかりの口ぶりだ。
「そうですか・・・」
 ならばなおさらのこと、家に上げるわけにはいかないと思った。
「実はどうしても立石さんに相談したいことがあって・・・」
 もじもじと肩を揺らした後、上目遣いに見上げてじっと見つめる。

「相談・・・ですか」

 この目か。
 これに片桐は引っかかったのか。
 なんでまた、この程度に。
 計算され尽くして作り上げられた、熟練のアイメイクを眺めながらそう思った。
 これをクレンジングしたらどのくらいの瞳の大きさとまつげの長さになるのかな、とも。
 それがやけに気になって、視線を外せない。

 一方で瀬川美咲は心の中で凱歌を上げた。
 やったわ。
 彼の視線は私に釘付け。
 あと一押しで黒の王子様もイチコロね。
 互いの思惑と思考回路が大きくずれたまま会話が続いた。

「はい。実は・・・」
 ゆっくりと唇を動かす。
 ここで「立ち話もなんですから」と、ドアを開いてくれることを期待して。
 しかし、立石は煙草をくゆらせてドアに寄りかかり、空いた手をパーカーのポケットに入れたまま、視線で続きを促した。
「ええと・・・。そう。片桐さんとのことが、日が経つにつれてだんだん辛くなってきて・・・」
 瞬き一つせず、彼は黙って見下ろす。
「忘れたいのに、部屋に帰ると思い出がフラッシュバックみたいになって、苦しいんです」
 これではまるで瀬川が被害者のようだ。
 それにしても言うに事欠いてフラッシュバックとは、よくもまあ言えたものだ。
 ますます立石の視線は冷ややかなものとなる。
「そうですか。それで?」
 いつになく横柄な態度で煙草の煙を吐き出すのを見て、瀬川はますます目を潤ませた。
 この風格、この気品のある仕草と声。
 そして、首のラインもなんて綺麗なの!
「だから、今の部屋から引越ししたくて・・・」
「・・・」
 立石は眉を寄せた。
「それで、このマンションに空いている部屋はないかと思って」
 まったくもって、話がさっぱりわからない。
「空きは・・・。以前にお話ししたとおり、異動のシーズンにならないと無理だと思いますが?」
 打診されたのは一月に行った軽井沢で。
 仲間内の宴会のさなか、二人が立石に話しかけてきた。
 二人で暮らす家を探している。
 立石の住んでいるマンションに空きはないかと。
 その場で管理者に問い合わせして、どの物件もしばらく動きがない予定のようだと答えた。
 破談が辛いのなら、何故わざわざ片桐の知り合いばかり出入りするこのマンションに部屋を求める?
 まったくもって理解不能だった。
 論理が破綻していると指摘したいのは山々だが、もう少し様子を見るとするか?
 そう考えた矢先、瀬川は大げさに身を震わせ、かわいらしくくしゃみをした。
「・・風邪ですか?」
 無視することも出来ず、うんざりしながら声をかけた。
「いえ・・・。この廊下は風通しが良いんですね」
 伏し目がちに肩をすくめてみせる。
 セーターから覗かせた細い指でそっと腕の辺りをさすった。
 この、あからさまなアピールを見るにつけ、ますます入れてはなるものかと奥歯を食いしばる。
「まあ春とはいえ、まだ三月になったばかりですしね」
 見なかったふりをして話をそらすと、瀬川が目を大きく見開いた。
「あら三月と言えば、そういえば決算がもうすぐですね。お忙しくて大変でしょう」
「ええまあ・・・」
「立石さん、いつも休日返上で働いていらして、凄いなあって思っていたんです。こう残業続きだと食事もままならないんじゃないですか?」
「いや、そんなことは・・・」
 手元のバッグからのぞくものに今更気が付いた。
 パスタとセロリそして多分諸々の食材。
 しまった。最初からそのつもりか。
「上げては、下さらないの?」
 ここで、ずばっと、上段の構えで来た。
「そうですね。ご存じの通り仕事が忙しくて、人を上げられる状態じゃないので」
 防戦ばかりだと不利になると思いつつ、頭の中では別のことを考えていた。
 前にも似たようなことがあった。
 いつのことだったか。
「私、家事が好きなんです。お掃除とお洗濯の手伝いをさせて下さい。」
 ほぼ初対面で下着を洗う気か、この女。
 背筋を冷たい物が伝った。
「いや、どうぞお構いなく」
 言葉を選ぶ間に、一歩詰められた。
「遠慮なさらないで」
 小首をかしげてにっこりと笑いながら、更に一歩、前へ進む。

 この男が、いついかなる時にも、誰にでも優しいのは聞き込み済みだ。
 家に入ってしまえばこちらのもの。
 彼女の視線は、立石の男らしい唇に集中していた。
 2本目の煙草をくわえて火をつける時、ちらりと見えた白い歯と薄紅色の舌がなんとも扇情的だった。
 あの唇。
 まずは、あの唇を味わってみたい。

 瀬川美咲の瞳はますます光り輝いた。

 このしぶとさ。
 ・・・実家で飼っていた猫にそっくりだ。
 弟たちが庭で遊んでいる隙にするりと家に入り込み、さっさと押し入れの中で子猫を産んで、あっというまに居住権を獲得したキジ猫のシマ。
 ここぞという時の押しの強さと度胸は雌という種族ならではなのか。
 しかし、彼女は猫ほどに可愛い気のあるイキモノではない。
 むしろ、恐るべき雌だ。
 
 余計なことを考えているうちに、にっこり笑って手を伸ばしてきた。
 きっと彼は振り払うことが出来ない。

「私、料理も・・・」

 腕に触れようとした瞬間、どんっとドアを蹴る音がした。
「え?なに?」
 驚いて伸ばした指先を止める。
 背中に振動をもろに受けた立石はため息を一つついて、ドアから背を離した。
 まるでそれを待っていたかのように。扉が中からゆっくり開いた。
 そして、白くて長い手が立石の背から首元にするりと巻き付く。

「モーニン、ハニー」

 そのまま背後から耳たぶに唇を押し当てて、ゆっくりと味わうようなキスをした。
「猛烈にお腹空いちゃった。まだ終わらないの?」
「お前・・・」
 絡まった両腕をほどくこともなく、立石は息をつく。
 
 そこには抱きしめた男に頬を寄せ、とろけるように見つめる佐古真人がいた。








 『ずっと、ずっと甘い口唇-19-』へつづく。







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