『ずっと、ずっと甘い口唇』-17-(『楽園』シリーズ) 

2012, 06. 27 (Wed) 20:26

大急ぎでUP。

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 『ずっと、ずっと甘い口唇-17-』



「な、なんで?なんでなんでここに来るの?」
 半分恐慌状態の岡本が頭を抱える。
「わからない。とりあえず、エントランスに立たせたままにはできないから通すぞ」
 ため息を一つついて、立石は短く応対し、オートロックの解除ボタンを押した。
「そろそろやると思ったのよねえ。そのまま立たせときゃいいのよ、一日中でも」
「おいこら」
そっぽを向いて毒を吐く本間の頭に軽くぽんと手をやったあと、玄関へ向かうべくキッチンを出る。
「まさか、彼女もどっかのファミレスで俺らの行動を見張っていたとか?」
「そんなわけないでしょ。計算高いわりに穴だらけなんだから、あの女は」
 佐古の皮肉混じりの冗談を一蹴した。
「少なくとも、それのことは知らないでしょ」
 それ、と顎をしゃくった先にはリビングのソファがあり、その上にはこんもりとした毛布の山が規則正しく寝息を立てていた。
「・・・これだけの騒ぎの中、熟睡してるこいつって、実は大物?」
 佐古はかがんで背もたれごしにのぞき込む。
 そこには泥のように眠る片桐が横たわっていた。


 念のため玄関に並べられていた自分と佐古以外の靴を棚に収納してから、立石は外へ出てドアを背に立つ。
 部屋へ入れるつもりはない。
 本間は、いずれ彼女がここに来ることを予測していた。しかしそれは片桐を追ってのことでもないことも暗に示唆していた。

『そろそろやると思っていたのよね』

 やるって何を?

 考えを巡らせながらパーカーのポケットに手を突っ込むと指先に煙草とライターが当たる。ふと、口元に笑みが浮かんだ。
 目的が何にしろ、自分の中には揺るがないものがある。
 ならば、動じることは何もない。
 マルボロを口にくわえて火をつける。
 少し顔を上げて肺に取り込んだ煙をゆっくり吐きだしていると、コツコツと細いヒールが廊下を叩く音が耳に届く。
 視線を巡らすと、エレベーターを降りてこちらに向かう華奢な女性の姿が見えた。
 瀬川美咲。
 ほんの少し前まで片桐と結婚するはずだった人。
 雪の降る中を大事にそうに肩を抱かれて、少しくすぐったそうに笑っていた。
「こんにちは。せっかくの休みなのにごめんなさい、いきなり押しかけて・・・」
 そして今。
彼女の微笑みは、これまで会ったどの時よりも、ずっとずっと艶やかに見えた。


「あまりにもがっつりすぎて目眩がするわ・・・。つうか、今回はもう少し緩く押す程度にしとけばいいものを」
 こっそりドアスコープから外の様子をうかがって、本間は額を押さえて戻ってきた。
 「次、俺ね」と、入れ替わりに佐古はひょこひょこと覗きに行く。
「がっつり?」
「うん。超がっつり。淡いピンクを主体に全体的に可愛くかつ清楚っぽくまとめているけど、首と肩胛骨ラインを強調したニットと、ひらひらの膝丈スカート。流行で行くならロングのブーツだけど、さりげなくかつ素早く部屋へ上がるならちょっとコンサバなヒールパンプス?そもそも淡いピンクのもこもこニットと風にそよぐ系スカートって男がそそる組み合わせよね。ちょっと屈めばFカップの胸の谷間が披露できるし」
 あれに片桐がつり上げられたと思うと、心底情けなくなる。
「・・・ご解説の趣旨がわからないですが・・・」
「ようは、徹を喰いに来たって事だろ、あれは」
 戻ってきた佐古は、脇のドアを開けて招き入れる。忍び足で入りそっと薄く窓を開けると話し声が漏れ聞こえてきた。
「・・・立石さん、マルポロ吸ってるね」
「うん?最近はずいぶん本数減った感があるけど。絶対やめないね。で、あの女、正気?俺が見るに、昼飯作るつもりみたいだけど」
「うわ、ますますもって穴だらけだわ~」
「そうだね。休日は必ず出汁をひく男に適当なパスタを作るつもりとは、いい度胸してるよな」
「いや、無謀なんでしょ。それとも無策?」
「ごめん、本当に話がさっぱりわからない。何が起きてるんだ、これ」
「だ・か・ら。片桐という電車を降りて、立石という飛行機に乗るところなのよ、あの女は。もともとそのつもりで別れたの!」
 飲み込みの悪い岡本に、声を潜めつつも語気を荒く応えた。
「乗り換え?何でそんな話になるんだ・・・」
「そもそも勝機がなきゃこんな大博打に打って出ないから、おかしい話なのよね、さすがに・・・。赤坂と仲が良かったみたいから、その辺を探るつもりで昨日の誘いに乗ったんだけど、裏目に出るし・・・」
 ああもう、と頭をがりがりと搔いていると、佐古が首をかしげた。
「勝機・・・って。もしかして、徹がフリーだとあの女思い込んでる?」
「はあ?生さんがいるのに?」
 ぎゃん、と本間は噛みついた。
「フリー・・・。もしかして・・・」
 ひそりと落ちた独り言に二人は振り返った。 
 見ると岡本が青ざめている。
「もしかして、俺か?俺のせいか?」
 ただならぬものを感じながらも、本間は詰め寄った。
「何やったのよ、アンタ」
 斜め上からねめつけるその顔は、堂に入ってさながら極道の姐御のようである。
「この間のスキーの時さ。たまたま瀬川さんと二人で話す機会があって。その時に俺、言ったんだ」
「何を」
「最後の飲み会の時に隣に座られて、何話せばいいか解らなくて。・・・半分お世辞のつもりだったんだけど。立石も瀬川さんみたいな可愛い人がいれば良かっただろうにって。独りで可哀相だから、二次会の時にでも友達を紹介してやってくれって・・・」
 本当に、友達の彼女に対する会話の糸口としてのつもりだった。
 半分は世辞で、半分は本気。
 立石の隣に立つなら、もっと小さくて、もっと庇護欲をそそる、もっとかわいらしい人が良いと思ってた。
「そこで友達紹介しないで、なら自分がって食いつくのが婚活女の悲しい性ね・・・」
 ぺたんと座り込んで天を仰ぐ。
 廊下では、押し問答が続いている。
 立石はいつもより冷ややかな雰囲気だが、瀬川が食い下がっている。
「ほんとは、この際リビングに連れ込んだ方が綺麗に整理されそうな気はするんだけど、立石さんは絶対やらないだろね」
 寝起きにあれは強烈すぎる。
「なら仕方ないな・・・」
 佐古が着ていたシャツのボタンを一つ二つ外して襟元をくつろげた。
「ほら。岡本。責任もってここを吸えよ」
 とんとん、と自らの首筋を人差し指でたたく。
 少し仰向いたその様は、なんとなく甘い色香を発していた。
「え?」
 目を白黒させる岡本の後ろで、飲み込みの早い本間が吹き出す。
「まあ、手っ取り早いのは、そうよね、それかなあ」
「ええ?」
「責任もって、俺の首に痕をつけろって言ってんの」
「えええ?」
「そうそう。やんなさいよ。ここでやらないと・・・」
 すとんと本間は表情をなくす。
「有希子さんにばらすわよ、瀬川を惑乱したこと」
 目だけが暗く黒く光っていた。

 二人に詰め寄られて、岡本は後ずさる。

「ほら」
「ほら、はやく。時間ないから」

 岡本は心の中で十字を切った。





 『ずっと、ずっと甘い口唇-18-』へつづく。







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