『ずっと、ずっと甘い口唇』-9-(『楽園』シリーズ) 

2012, 04. 25 (Wed) 21:23

 ええと。
 待っていて下さった方も、お初の方も、お待たせしました。

 『ずっと、ずっと甘い口唇』(『楽園』シリーズ)の再開です。
 (一番上の挨拶文の目次の中に、前作8回があります。もうあまりに昔で忘れた方、興味を持たれた方はご覧下さいね)
 
 今、更新しようとして驚いた・・・。
 2010年の4月に前回アップして、そのまま放置していたのですねえ・・・。
 でも、未練たらたらだったので、仕事の合間や1人でお茶している時に紙切れの片端に書き続けていたのをなんとか形に出来そうなので、今更ですが更新します。

 これからも相変わらずゆっくりですけれど、最後までやり通したいので、おつきあい下さいね。
 登場人物がこれも多いですが、ついてきて下さい・・・。

 ではでは、読まれる方は続きをどうぞ。






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  現在は、『睦み月』で『シゲルとミケ』シリーズです。
  飲んだくれ猟師と化け猫の話。
  楽しんで頂けたら幸いです。

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 『ずっと、ずっと甘い口唇-9-』


 ドアを開くと、携帯電話を耳にあてたままの片桐が所在なげに廊下に佇んでいた。

「遅くに悪いな」
「んー。まあねえ。みんな今に始まった事じゃないし?それに家主不在だから、俺がとやかく言うことじゃないしな」
「立石、いないのか?」
「ん。女の所に行ってる。ちょっとトラブルがあってね」
 家主よりも主らしく、佐古はゆったり笑って奥へ招き入れる。
「そうか・・・」
 靴を脱いで、廊下を歩き出してすぐに左手にあるドアにちらりと視線をやったものの、片桐はまっすぐに足を進めた。
 その様子を横目で見ながら、佐古はキッチンカウンターへ向かう。
「食事は?」
「本間が差し入れしてくれたから大丈夫」
「へえ・・・。あの子も残ったんだ。やるね。じゃ、コーヒー飲む?」
「ああ」
 テーブルの上にノートパソコンと資料を広げて話を始める。仕事となると手厳しい佐古をその気にさせるために、片桐は目の前の資料に神経を注いだ。
「ふうん。面白そうな話だね。論理も破綻がないし」
 一通り話を聞いたあと、佐古は肯きながらコーヒーサーバーに手を伸ばす。
「考えてくれるか?」
「いいんじゃない?帰ったらあっちにも話を通してみるよ」
 多少の質問と修正があったものの、すんなり起案を受け取ってくれたのは初めてで、全身の力が抜けた片桐はソファに背を預けて深く息をついた。
「ねえ、もう終電出たんじゃない?泊っていけば?」
 気が付いたら12時も半ばを過ぎている。
「徹は多分帰らないから、あいつの部屋が空いてるよ」
 この立石の家は間取りが広い上に通勤や交通に関してかなり立地条件の良いところで、仲間内で何かと宿代わりにされるため、独身男では考えられない量の寝具が用意されていた。たとえ、家主が佐古の予想に反して帰ってきたとしても何の問題もない事は、何度も泊っている片桐自身がよく知っている。
 が、しかし。
「いや、これをもう少し詰めたいから家に帰る」
 荷物をまとめ始めた姿に、マグカップに口をつけたまま佐古は目を細める。
「そう?・・・で。客間は寄らないの?」
 まっすぐと背筋を伸ばして見返した。
「ぐっすり眠っているんだったら、邪魔をしたくない」
 そのまま踵を返そうとした片桐の襟を、佐古が長い腕をにゅっと伸ばして後ろから捕まえる。
「うわ」
「何やせ我慢してるの。バンビちゃんの様子が知りたくて、わざわざ言い訳の仕事を作ってきたんだろ?しかも、今までで最高の仕上がりで」
「でも、どの面下げて・・・」
「どうせ薬が効いて熟睡してるんだから、どんな面さらしてもわかりゃしないよ」
 とても少し前までアメリカでの生活に首までどっぷり浸かっていたとは思えないほどの語学力で、佐古はつけつけと片桐を責め立てた。
 そして、うろたえる片桐をそのまま引きずって客間に押し込み、後ろ手にドアを閉める。
 反射的に抗議の声を上げそうになったが、やんわりとした暖かい空気を感じて我に返り、静かに一息ついた。
 薄明かりの中、中村の白い顔が浮かんで見える。そして規則正しい、静かな寝息がゆっくりと聞こえてきた。
 足音を忍ばせてベッドのそばに行き、頬の近くに手をかざすと熱が伝わってくる気がして、そのまま触れてみる。指の背をそっと頬に当てるとやはり尋常でない熱さを感じた。
 少しでもその熱を吸い取ってしまいたい思いから、かがみ込んで頬を両手でそっと包み、額に自らの額をあてる。
「ごめんな」
 目を閉じて口の中で小さく呟いてじっと動かずにいたが、しばらくすると唇をかすめるかすかな吐息にどこかほの甘いものを感じて、目眩を覚えた。
 どうして、こんな時にもこんなに甘いのだろう。
 触れてみたい衝動をこらえてぐっと腹に力を入れ、身体を起こす。
 それでもどうしても離れがたく、もう一度頬に指先でそっと触れたあと、乱れた髪をゆっくり梳き、額をゆっくりなで、最後につむじのあたりを手のひらで軽くぽんぽんと叩いてドアへ向かった。
 ドアを開けると、佐古が壁に背を預けて廊下で待っていた。
「・・・長かったなあ。このまま布団に潜り込んだら徹になんて言い訳しようかと悩み始めていたよ」
 腕を組んでにやりと笑うその様は深夜でも格好良く決まっている。
「そんなことしない」
 ぶすっと返したあと、「それよりも」と続けた。
「ん?」
「俺が言う事じゃないけど、ハルを頼む。まだ熱があるみたいだ」
「ああ、はいはい。たぶん一晩は無理だろうねえ。朝には徹が消化の良い物作ってくれるでしょ」
 朝帰りの家主に朝食を作らせる気なのかと問いたい気持ちは山々だが、今更なので言葉を飲み込む。
「それより・・・」
「何?」
「・・・いや、いい。邪魔したな」
 鞄を手に、さっさと靴を履いて、前に進む。
 振り返らないと、決めた。
「じゃ、またな」
「うん、おやすみ」
 
 ゆっくりと閉まるドアに、片桐の背中を見つめながら、佐古はぽつりと呟いた。
「・・・九州男児は難儀だねえ・・・」
 けっして彼には聞こえるはずがない事を承知で。




 『ずっと、ずっと甘い口唇-10-』
へつづく。







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