『ずっと、ずっと甘い口唇』-7-(『楽園』シリーズ) 

2010, 04. 22 (Thu) 19:14

 今日はちょっとたてこんでまして・・・。
 (いつもが暇だということだな)
 慌てて更新します。

 短めです。
 ヨロシク。




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  現在は、『睦み月』で『シゲルとミケ』シリーズです。
  飲んだくれ猟師と化け猫の話。
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 『ずっと、ずっと甘い口唇-7-』




 背中に硬いものが振り下ろされる。
 二度、三度・・・。
 そして、同じリズムで腹にも強い力が加わり、一瞬、息が止まる。


 ・・・泣け。
 痛いなら、泣いてみろ。
 泣けというに、どうしてお前は泣かない!!

 どうしてだろう。
 泣きたいのに、涙が出てこない。
 泣いてあげられるなら、この苦痛も少しは早く終わるだろうに。


「・・・ハル。大丈夫か?」
 額に大きな手を感じて目を開く。
 ぼんやりと見つめた先に浅黒い肌をみとめた。
「か・・・」
言いかけて、口をつぐむ。
 違う。
 彼ではない。
 ・・・彼のはずは、ないではないか。
 目の前の男はかすかに浮かんだ色をさりげなく見ぬふりをし、優しく指先を頬に滑らせた。
「まだ、熱があるな・・・」
 薄明かりに暖かな声がゆっくりと沈んでいく。
 タクシーに乗るやいなや、立石は有無を言わさず自分を彼のマンションへ連れ帰った。
 具合の悪い春彦を独身寮の狭い部屋に独りにするのは気がかりだったからだ。
「すみません・・・。立石さんはうちの課の人ではないのに・・・」
 仕事上密接な関係とはいえ、他部署の人間がわざわざ一緒に早退するなど、聞いたことがない。いきなり彼が抜けたことで、今頃、あちらは大変な事になっているだろう。個人的なトラブルに何人も巻き込んでしまった恥ずかしさに、顔を上げられない。
「いや、もともと時間調整でフレックスを取るつもりだったから、仕事は問題ない。何か問題が起きたらすぐに連絡があるだろうし。きちんと帰れたおかげで、たまった洗濯も片付けられたから気にしないでくれ」
 ぽんぽん、と頭を軽くなでる。
 子供をなだめるようなしぐさに、ふと春彦は立石を見つめ返す。
「・・・と、ごめんな。二十を過ぎた男の扱いじゃないな・・・」
「いえ、そんな・・・。何から何まで、本当にありがとうございます」
「礼は、完全に治ってから・・・な。もう少ししたら夕飯にするから、それまで横になって待っていてくれ」
「・・・はい」
「ああ、そうだ。とりあえず、このタオルで出来るだけ汗をふき取っておけよ。着替えはここ。水も飲めるなら、机の上にあるから飲んで」
 てきぱきと、立石は用意したものを指し示す。
「じゃあ、またな」
 そう言うと、彼は部屋から出て行った。扉一つ隔てただけでしんと静かになった空気の中、春彦はそっとペットボトルに手を伸ばして頬につける。
「・・・冷たくて気持ち良い・・・」
 つんと、鼻の奥が熱くなった。



「お前って、ほんっとに母性本能垂れ流しだな」
 リビングへ戻ると、ソファの上に足を投げ出してだらしなく寝っ転がった佐古が口を開く。
「時々、その服を剥いたら、巨乳があるんじゃないかと疑っちゃう位だよ」
「もちろん、人間なんだから乳はあるが、残念ながら母乳は出ないぞ」
 「確認してみるか?」と、カッターシャツの襟元を緩めてにやりと片頬をゆがめた立石に、「いえ、けっこうです・・・」とげんなりと力なく手を振る。
「それより、どうだった?バンビちゃん」
「熱はまだまだ上がりそうだな・・・。かなりうなされていたよ」
「まあ、体がびっくりしているのが半分、炎症が半分、プラス精神的なものかな。でも、意外と回復は早いかもな、熱に関しては」
「熱に関しては?」
「うん。前からちょっと思っていたんだけど、あの子、見た目よりも自立心がかなり強いから、根性で体調不良をねじ伏せて、すぐに何事もなかったように振舞おうとすると思うんだよね」
 それは、今日の彼のさまを思い浮かべると納得が行く。
 動揺しきってがたがたで大幅に遅刻した片桐とは対照的に、中村は岡本の電話を受けてすぐに出勤して仕事をこなした。珍しく寝坊したことはおいといて、彼の不調に気付くものは自分たち以外に誰もいなかったほど、その振舞は完璧に近かったといえる。
「プライドが高いとか、人目を気にするというより、何て言うのかな・・・。『平気なふり』に慣れているような気がするんだ」
「平気なふり、か・・・」
 立石は眉を寄せて顎に手を当てた。
「それは、ちょっと・・・」
「そう。ちょっと・・・ね」
 リビングの中に重い沈黙がおりる。
 しばらくそれぞれの空間をじっと見据えていた二人の間に、壁にかかった時計の秒針を刻む音がちっちっちっと妙に大きく聞こえた。
 かたかたかた・・・と、コンロにかけっぱなしだったやかんが蓋を震わせて沸騰してきたことを知らせる。ふ、と、息を吐いて立石が顎に当てていた手を解いた。
「真人、何が食べたい?」
「ん?」
「とりあえず、ハルには雑炊を出すけど、お前はそういうわけにいかないだろう?」
 ソファから身を起こし、立石がエプロンを手に取り身につける様を見つめる。
「そうだな・・・」
 突き出した片腕に手を当てて軽くストレッチをしながら考えを巡らせた後、にやりと笑った。
「・・・オムライス」
「オムライス?」
「そう。ふかふか~の卵の上に、ケチャップでハートを綺麗におっきく書いてね」
「・・・却下」
「なら、ハンバーグの上に・・・」
 皆まで言わせず、タオルが佐古の頭の上に飛んでくる。
「却下。・・・ったく。何させる気だ、お前は」
「うん?そりゃ、決まってるじゃん」
 ソファの背にだらんともたれかかってにやにや笑う。
「いやがらせ」
「・・・お前も雑炊に決定」



 『ずっと、ずっと甘い口唇-8-』へつづく。




では、また明日!!






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