『ずっと、ずっと甘い口唇』-5-(『楽園』シリーズ) 

2010, 04. 20 (Tue) 16:23

今日、ようやくトップをいじることができました…。
少しは見やすくなったでしょうか。

とにもかくにもBLの続きをば。
長い、長いなあ。
たったこれだけの場面で…。




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  現在は、『睦み月』で『シゲルとミケ』シリーズです。
  飲んだくれ猟師と化け猫の話。
  楽しんで頂けたら幸いです。

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『ずっと、ずっと甘い口唇-5-』


夢を見ていた。
壊れやすい花のような儚げな笑顔を浮かべる美咲。
読んで字のごとく、美しく咲き誇り、吐く息すら甘い香りを漂わせていた女。
 強く抱き寄せると華奢な肩が折れてしまいそうで、不安になることが時々あった。
 天女のような美咲。
 栗色の柔らかな髪をなびかせ、走っていく背中を片桐は慌てて追いかけた。
 美咲は細い足首の動きも軽やかに、まるで踊っているかのように駆けていく。
 片桐を甘やかな花の香りが包み込み、足をもつれさせる。
 待てよ!!
 行ってしまうな!!
 ここにいろ!!


「行くな!!」
 掴んだ腕は思いのほかしっかりしていた。
「・・・片桐さん」
 相手はどこ切なげに眉を寄せて、自分を見下ろす。
「・・・ハルか・・・」
 一瞬の安堵と落胆と。
 夢の中から抜けきれないせいか、色々な感情がないまぜになり、自分で自分をもてあます。
ベッドを降りて床に座り込む。
「・・・ここは?」
「俺の部屋です。鍵が見当たらなかったので」
「そうか・・・」
 自分の手の中で、細い腕がどくんどくんと脈打っていた。
 これは、春彦の腕。
 美咲ではないのだ。
 ゆるゆると腕から手を放すと、春彦が中腰の姿勢のまま首にかけていたタオルをはずして片桐の額に当てる。
「汗が・・・」
 距離を縮めた彼の体からふわりと、石鹸の香りが漂ってきた。
 どうやら自分が酔いつぶれている間に風呂に入ってきたらしく、Tシャツにハーフパンツといういでたちに変わっていた。館内のエアコンの設定温度が高めなのか、血の気の多いこの寮の住民たちは冬でも春彦の格好と似たり寄ったりの薄着が多い。
 先ほどの花の香りは春彦の匂いだったのか・・・。
 寝汗を丁寧にふき取ってくれるのを子供のようになすがままに任せながら、ふと俯くと短パンから見える彼の白い膝とそれにつづく太股に目が止まる。
 膝頭までまるで牛乳を練ったような白さだった。
 つい、その白さも夢ではないかと思い、衝動的に手が伸びてしまった。
 手のひらに、見た目以上にしっとりとなめらかな感触とじんわりとした体温を伝える。
「・・・ああ、本物だ・・・」
 無意識のうちにその肌を指先でゆっくりと愛撫すると、春彦は目を見開いてぷるっと小さく震えて身を引いた。
「ハル・・?」
 何故急に離れたのかが理解できなくて、いぶかしげに見上げると、春彦は頬をうっすらと染め、唇を小刻みに震わせていた。
 綺麗だ。
 素直にそう感じて、薄紅色の唇に手を伸ばそうとした瞬間、彼は更に後ろに後ずさる。
 折角綺麗だったのに、手が届かない所に行ってしまう。
 間を詰めようと体をゆっくり前に進めると、はじかれたように春彦が立ち上がった
「か、片桐さん・・・。何か飲みませんか?俺、買ってきま・・・」
「行くな」
 春彦が身を翻すよりも一瞬早く片桐はその腕をつかんで引き戻した。
「俺を置いていくな」
大きく目を見開いたまま、片桐の言葉に縛られたかのように、春彦はすとんと素直に腰を下ろす。
その様に満足した片桐はのっそりと熊のようによつんばいで迫り春彦の逃げ場を奪うと、再びその唇に手を伸ばした。
まずは下唇のきわを親指でゆっくり、ゆっくりとたどる。
そして、更に上唇の形をなぞるかのようにゆるゆると触れているとその隙間からふわりと暖かな息が漏れる。
改めてその瞳を覗き込むと、漆のように黒くしっとりとした光が揺れ、長い睫毛がそれをさえぎった。
何かに耐えるように目を閉じてしまった春彦の唇を飽くことなく何度も何度もゆるゆると辿っているうち、ふいにその指を歯で軽く挟まれる。
今度は春彦の舌がちろりちろりと片桐の親指をまるで愛撫するかのように辿った。
そして片桐の指をくわえたまま、ふうーっと胸の中の空気を全て吐き出すかのような深い息をつき、瞼をゆるゆると持ち上げた。
夜の水面のように真っ暗でありながら、しっとりと熱をはらんだ瞳が片桐を捕らえる。

それが、全ての合図だった。

「・・・!」
片桐は喉の奥で低く唸りながら、春彦を乱暴に畳の上に引き倒す。
「あ・・・っ」
春彦が腕の中で小さく驚きの声を上げたが、それを封じるかのようにその唇に自らのそれを合わせる。
舌を差し入れて誘うと、甘い、何かの果実を思わせるような春彦の吐息が片桐の口の中に広がった。
唇を合わせるだけでも精一杯な春彦の風情に悪戯心をくすぐられ、ちらりと上顎を刺激してみると、きゅっと片桐のシャツを握り締めて震えている。
そんな反応にますますそそられ、口付けに翻弄されている春彦をそのままに、腰に手を回し、中心を合わせてぐっと押し当てた。
「・・・はっ、ぁ・・・」
二つの中心が固く、熱くなっている事を互いに知る。
「・・・」
 耳まで赤く染めた春彦は切なげに熱い息をつきながらも、潤んだ瞳でどこか責める様に見据えた。
 こんなに扇情的な瞳が存在するのかと片桐は驚いた。
 乳白色の肌、果実のような甘い吐息、蜜のような瞳。
 それらの全てを今すぐ我が物にし、もっと熱く、さらに高みへ上がる方法を自分は知っている。
 ならば、それを行うまでだ。
 獲物の腰にまたがったままいったん身を起こすと、片桐はゆっくりとシャツのボタンを外していく。
 まるで、儀式を行うかのように。
 今から何をしようとしているのか、何をされるのか、彼の意図を明確に知りつつも、春彦は指一本動かせないまま、仰ぎ見た。
 片桐さんは酔っている。
 かつての恋人への思いを断ち切るために浴びるように飲んでいたのを自分は知っている。
 でも、こんなに熱のこもった瞳で見据えられて、どうしてみじろぐことが出来るだろう。
 逃げられない。
 逃げたくない。
 片桐の瞳が、指先が、今、自分を欲しいるのだから。
 男が自らのアンダーシャツを脱ぎ去り、ふーっと深く息を一つついたあと、改めてゆっくりと体を倒して唇を求めてきた時、春彦はふわりと微笑んだ。

 ・・・これは夢。



 ・・・能天気なロシア民謡が流れている。
 ちゃんちゃんちらら~ちゃんちゃんちゃらら~と唸るアコーディオンに合わせ、自分が輪に加わって踊っていることに気がついた。
 正面は幼稚園の頃の初恋の君・みゆき先生、その隣には小学校一年のときに滑り台の上でチュウされた洋子ちゃん、その隣には・・・と、今まで多少なりとも縁のあった女性たちが皆で手をつなぎ、輪になっている。
 右手を握っているのは淡い色の衣装に身を包んだ美咲。
 大きく開いた襟元からは、細い手足とは不似合いな豊かな胸元が誇らしげに揺れている。
 「みさき・・・」
 その胸元に吸い寄せられるように近づこうとして左手が動かないことに気がついた。
 左を振り向くと、そこには春彦が微笑んでいた。
「片桐さん・・・」
 白いTシャツに膝丈のハーフパンツ、しっとりと濡れた黒髪から覗く潤んだ瞳。
 気がついたら彼を押し倒して、衣服をはいでいく。
 雪の日の朝のような淡い光を放つ身体。
 ふんわりと儚い笑みを浮かべる薄紅色の唇は、自分の中のケモノを刺激した。
 なだらかな白い胸を貪り、喰い尽くしたい。
 そんな欲望にかられてその体を強く抱きしめた。

 ・・・が。

「ちゃんちゃんちゃらら~♪ちゃんちゃんちゃらら~♪ちゃっちゃっちゃちゃちゃ~ちゃっちゃっちゃ~♪」
 この期に及んで、あの、能天気なメロディーがエンドレスで垂れ流されている。
「・・・・やかましかっ!!」
 片桐は何かに向かって手を伸ばして叫んだ。
 早く、その珍妙な音楽を止めて目の前の体を堪能するために。


「・・・やかましいんは、お前だ、おっまっえっ!!」
 耳の向こうで小型犬がきゃんきゃんと吼えている。
「・・・誰じゃ、お前・・・」
 何がなんだか良く解らないまま、片桐は呟いた。
 どうやら自分は今、携帯電話を耳に当てているらしい。
「これからっちゅうときに、邪魔しよってからに・・・」
 ふわああっと大あくびをすると、さらに向こうからきゃんきゃん気勢が上がる。
「これからもくそもあるか!!こんのやろう、何時だと思ってんだ、てめえの携帯は何度鳴らしても留守電だし、部屋にもおらんし!!」
 しぶしぶながらもだんだん意識が覚醒してきた。
「・・・携帯?」
 そういや、こんな悪趣味な着信メロディーを自分の携帯に登録した覚えがない・・・。
「もしかしたらと思って春ちゃんのほうにかけたらビンゴだったな。とっとと代われよ、近くにいないのか?」
「近くに・・・」
いた。
 隣で毛布を引きかぶったまま枕に突っ伏している漆黒の頭を軽く揺さぶる。
「おい、ハル。岡本から電話だ」
「ん・・・」
ゆっくり身体を反転し、艶やかな髪の隙間から卵のようなつるんとした面差しがあらわれる。長い睫毛に縁取られた目元はなぜかいつもより腫れぼったく、窓から差し込む朝日がまぶしいのか何度も何度も瞬きを繰り返し、それがまるで生まれたてのツバメの雛のようで妙に愛らしい。
「でんわ・・・?」
かすれた声でそう呟き、にょき、と、細くて長い腕を毛布から伸ばしてきた瞬間にどきりと片桐の心臓が波打ち、ついでに頭の機能も動き出した。

・・・ココハ、ドコダ?
オレハ・・・。
俺は、なんで・・・。

この真冬の朝に服着てないんだ?

「・・・ああ、おはようございます。中村です。すみません、寝過ごしたみたいで・・・」
同じく覚醒し始めたらしく起き上がる気配を見せる同僚を恐る恐る振り返ると、ぱらりと毛布がめくれ、日の光に反射する白い上半身が露わになった。
「・・・!!」
「・・・そのデータでしたら、昨日の夕方に課長に確認していただきました。最終版は俺のパソコンのデスクトップの・・・」
 眉間にうっすら皺を寄せながら前髪をかきあげた腕の向こうには、なだらかな胸元から首筋にかけてぽつぽつと赤い斑点がちりばめられているのが見えた。
 ・・・折角綺麗な肌なのに。
 なんだ?あの斑点。
 まるで、あれは・・・。
「うわあああ!!」
片桐の叫び声にぎょっとした春彦が耳に携帯電話を当てたまま体ごと振り返り、その全てが目に付き刺さる。
胸元だけじゃない。
二の腕の内側や腹に向けて無数に散らされたそれは、まごうかたなき代物で・・・。
「片桐さん・・・」
 困惑したような声に、がばっと自分の下半身を覆っていた毛布を取り払う。
 ない。
 あるはずのものがない。
 俺は一糸まとわぬ姿で何を・・・?
「どういうこっちゃーっ!!」
 至近距離での雄叫びに春彦は眉間にくっきりはっきり皺を寄せ、「・・・すみません。後ほどかけなおします」と回線の向こうの岡本に告げて電話を切った。
「片桐さん・・・」
「あ、わあっ!!近寄らんといてくれ!!」
 狭いシングルベッドの上で近づくなもへったくれもないのだが、つい、浅黒い頭のてっぺんからつま先まで赤を通り越してどす黒くに染めて後ずさり、無様にも転げ落ちる。
 黙ってその醜態を見つめていた春彦はおもむろに口を開いた。
「・・・九時四十五分」
「・・・は?」
「今の時間です。片桐さん、今日は午後一番に岡本さんたちと会議ですよね。早く行かないと準備が間に合いませんよ?」
 心なしかいつもより頬を高潮させ、ベッドの上から素っ裸で尻餅をついている片桐にかつて見たことがない冷ややかな視線で見下ろしている。
「・・・とっとと出て行ってください」
「・・・ハル?」
「ここから出ていって下さいといってるんです!!」
 同じく素っ裸の春彦がいきなりベッドから降りて、その様に目を剥く片桐を蹴り出すようにして部屋の外に押し出した。
「おい!!ハル!!」
裸のまま放り出され、慌てて前を隠しつつドアに取りすがるとすぐにまた開いて能面のような顔がのぞく。
「すみません、忘れてました」
 鞄、スーツ、シャツ、靴下、パンツをぺぺぺと無造作に廊下へ放り投げると、荒々しく再びドアが閉まり、中で鍵のかかる音が聞こえた。
「おい~、ハル・・・」
板一枚向こうの世界はしんと静まり返ったまま、先ほどの騒動がまるで夢かのような錯覚を覚えた。
いや、夢じゃない。
その証拠に自分は寮の廊下に全裸で立ち尽くしている。
目覚める直前までは陽だまりの中にいるような温かさを感じていたが、足の裏に感じるビニールクロスの床は今が二月もようやく始まったばかりだということを主張して、彼をじわじわ冷やしていく。
 何をどうしたらよいのかわからないが、とりあえず、無残に散らばった下着を身に着け始めた。
「誰も通らんで助かった・・・」
・・・そう、とりあえずは。


  『ずっと、ずっと甘い口唇-6-』へつづく。




お疲れ様でした…。





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