『ずっと、ずっと甘い口唇』-4-(『楽園』シリーズ) 

2010, 04. 19 (Mon) 13:39

今回は区切りの上で短いです。
どうかお許しくださいね。
次は嫌と言うほど長いので…。

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  現在は、『睦み月』で『シゲルとミケ』シリーズです。
  飲んだくれ猟師と化け猫の話。
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  『ずっと、ずっと甘い口唇-4-』


酔っ払いは重たい。
 半分意識がないのならなおのこと。
 しかも、相手の身長は自分より頭一つ位高い。
「大見得を切りすぎた・・・」
 中村は、寮の玄関口で大の字に横たわる片桐を前に途方にくれていた。
 時計の針は九時をようよう回ったところだ。
 今日は確か水曜日。
 会社の労働組合が水曜日の夜はよほどの理由がない限り残業をなるべくしないよう規定しているので、たいていの人は飲み会かプライベートの予定を入れている。ましてや、十八歳から三十代までの独身男性を収容しているこの寮ならば尚更の事。
「こんな時間に誰も帰ってくるわけないか・・・」
 念のために食堂と談話室を覗いたが、ほとんどの者がテレビを自室に持ち込んでいるので、たとえ夕食をここで摂ったとしても気の会う仲間がいない限りは皆早々に引き上げる。
 ようは、人の出入りの途絶える、中途半端な時間に帰ってきてしまったのだ。
「よいしょ・・・っと・・・」
 片桐の腕を肩にかけて引き上げようとするが、なかなか上手くいかない。これでは、目の前のエレベーターに載せることすら難しい。
 鞄はあきらめて、体だけをなんとか支えあげたとき、背後から声が掛かった。
「・・・あの!大変そうですね。手伝いましょうか?」
 振り向くと、自分と同じ階に住む新入社員だった。
 所属部署が違うためにさほど接点がなく、高校でたての風貌の頼りなさは自分と互角だったが、背に腹は帰られない。
「・・・申し訳ないけれど、有難く力を借りて良い?」
「はい」
 うーんと唸るのみの片桐を二人で引き摺るようにしてエレベーターに乗り込み、後輩が自分の階の5のボタンを押した後、「片桐さんは何階でしたっけ?」と問う。
「あ、三階・・・。いや、ちょっと待って」
 中村は片桐の背広のポケットを大慌てでさぐって部屋の鍵を探すが、それらしきものが見つからない。
・・・きっと、鍵は玄関に置き去りにした鞄の中。
同じように華奢な体躯の後輩にもう一度戻ろうとも言いづらく、片桐の部屋はエレベーターから一番遠かったことも思い出して中村はため息をついた。
「・・・いいや。俺の部屋にとりあえず連れて行く」
 この時、片桐の意識が少しでも戻っていたら。
 部屋の鍵が胸ポケットに入っていたら。
 事態は少し違ったかもしれないが、全ては後の祭りである。

 

「ありがとう、助かったよ」
 お礼に冷蔵庫にたまたま入っていた缶ビールを一本手渡して後輩を労いつつ送り出した後、鞄を取りにもう一度戻り、部屋のドアを開ける。
 ベッドの上には片桐。
この会社所有の寮としては新しい部類に入るが、所詮は寝るためだけの部屋なのでベッドと冷蔵庫とテレビでいっぱいいっぱいのスペースに男が二人いるとますます狭さを感じた。
しんと静まり返ったなか、片桐の暢気なイビキだけが反復運動のように規則正しく聞こえる。
「・・・どうしよう」
 一向に目を覚ます気配のない彼に背を向け、すとんと床に腰を下ろし、とりあえずテレビを点ける。チャンネルを次々と変えてみるが、たいして見たい番組はない。
 電源を切ると、また、静けさが戻ってくる。
「どうしよう・・・」
 背中が暑い。
 全部の神経が、口を大きく開けてふいごを吹き続けている酔っ払いに集中していた。
 何の迷いも不安もなく、半分笑っているような表情で眠っている片桐がここに眠っていることが嬉しい。
 そして、その無防備さが憎い。
 片桐が息を吸うとほんわりと暖かい気持ちになり、吐き出すと冷たく悲しい気持ちになる。
 どうして、こんなことに。
 振り子のように小刻みに揺れるうちに息苦しくなり、春彦は立ち上がった。
「・・・汗を流してこよう」
 とにかく、今は、ここから逃げ出すしかない。
 タオルを掴んで、部屋を後にした。


  『ずっと、ずっと甘い口唇-5-』へつづく。



いや、ほんと運んだだけでおわってごめんなさい・・・。
その先の一区切りが長すぎるような気がしたので。





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