『ずっと、ずっと甘い口唇』-3-(『楽園』シリーズ) 

2010, 04. 18 (Sun) 20:34

下戸にもかかわらず、呑んだくれを書いてしまうのは、やはり、オトナの世界へのあこがれでしょうか。

『ずっと、ずっと甘い口唇-3-』をお届けします。

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  現在は、『睦み月』で『シゲルとミケ』シリーズです。
  飲んだくれ猟師と化け猫の話。
  楽しんで頂けたら幸いです。

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『ずっと、ずっと甘い口唇-3-』


「・・・完璧に潰れたな。あれじゃあ連れて帰るのがひと苦労だぞ」
 真っ赤な顔をして転がっている片桐と、慌てふためいて一生懸命に介抱している中村を横目に佐古が日本酒に手を伸ばす。
「まあ、あと一時間以上はここにいられる筈だから、何とかなるだろう」
 同じく手酌で日本酒を水のように飲んでいる立石と岡本の三人で車座になり、残りの者たちも適当に固まり、好き勝手に飲み食いしつつ仕事の話などで盛り上がっていた。
 主客が一時間も経たないうちに沈没して早々に使い物にならなくなってしまったため、ただの飲み会の状態になっている。
「春ちゃんって、ほんっとーにいい子だな。片桐が心配で酒も食べ物もほとんど口にしていないんだろう?」
「放って置いても大丈夫って言ったんだけどな。ああ見えて片桐は酒に強いから、どんなに飲ませても大事に至らない」
 そう言いつつ、片桐の直属の部下である中村に任せっぱなしである。
「・・・筑波からわざわざ呼ばれたのは、徹と俺であいつを運べということだったのか」
「あたり」
 岡本の方頬に浮かんだえくぼ見て、佐古は深いため息をつく。
「あんな酒の固まりとタクシーに乗らなきゃなんないの?しかも、徹の家が広いからあいつの寮じゃなくてそっちに運ぶんだろう?嫌だなあ。部屋ん中も酒臭くなってさあ・・・」
 最初から立石の家に泊まるつもりでいた佐古は唇を尖らせる。
「そんなに嫌なら、お前はどこかホテルに泊まれよ。旅費はどうせ出ているんだろう?」
「いや。最近不景気のせいかな。領収書なしでは宿泊費を支給してくれなくなったから、全然出ないよ。徹の所に泊まるって先に申請してきちゃったから、変更できないもん」
「もんって言うな、もんって・・・」
 メンバー最年長で数年前に三十路を越したはずの親戚の言動に立石は頭痛を覚えた。
「まあまあ、そんなこと言わずに仲良くしてやれよ。佐古だって美咲ちゃんのことは知らない仲ではないしさ」
「ああ、それそれ!!」
 佐古はぱん、と膝を叩いてにじり寄る。
「この間のスキーに片桐が連れてきていた子だろ、その瀬川美咲ってさあ」
「ああ、会社の連中とで先月行ったやつ?そうそう。可愛い子だっただろ?片桐の部署に派遣で入っていたんだよ、去年の半ばくらいまで。男どものアイドルだったからものすごい争奪戦だったらしいぞ、美咲ちゃんは」
 ま、うちの奥さんほどではないけどなと惚気る岡本の後頭部に、立石と佐古は黙って鉄拳を振り下ろす。
「・・・へえ、あの子がねえ・・・。確かにあそこでは可愛いほうなのかもしれないけど、俺の趣味じゃないなあ」
「そりゃ、お前の美貌を前にしたら、たいていの女は霞むだろうがよ・・・」
 いかにも男性的な容姿の岡本と立石と片桐の三人に対し、髪まで長い佐古はやや女性的に整った顔立ちだ。それでいて、きちんとバランスの取れた男らしく骨のある体格をしているために存在そのものがまるで御伽噺のようで、この非現実的な男を目にした並大抵の女性はそばに近づくことすら躊躇する。
「俺だったらその美咲ちゃんとやらでなくて、春ちゃんを選ぶけどな」
「なんだそりゃ。そりゃあ春ちゃんはとても気のつく良い子だけどさ、嫁さんにはできないだろうが。男なんだからよ」
 天才と美形というものは凡人とは違う次元に住んでいるらしい。
 何をどうしたら美咲と春彦を同列に並べて比べられるのか理解に苦しむ。
 わけわかんねぇな、と岡本は酒を飲み干した。
「・・・まあ、あんな結果にはなったけれど、瀬川さんも悪い子じゃないと思うよ?」
 歩く善人の立石が型通りのフォローをすると、佐古は眉間にしわを寄せて宙を睨む。
「いや、なんでこの子を選んだのかなと、彼女に会ったときに思ったけど?・・・ただ、なんでそう思ったかが、今ちょっと思い出せないけど・・・・」
 酒豪四天王と名高いこの顔ぶれでさすがに少しは酒が回ってきているのか、なんだったっかな、なんだったっけとうんうん唸りながら記憶を呼び戻そうとしている佐古を置いて、立石は適当に食べ物を盛った小皿を手に中村の元へ向かった。
「ハル。今のうちにある程度食べとけ。この様子だと当分目を覚まさないし、こいつは寝ゲロしないから大丈夫だよ。一応酒は岡本並みに強いから」
「立石さん・・・」
 二つ折りにした座布団に首まで真っ赤に染まった頭を乗せて小さな鼾をかいている片桐へ心配そうな瞳を向けつつ、立石に頭を下げる。
「こいつがこんなに酔うのは久しぶりに見たな。ここのところは仕事も彼女との付き合いも全力投球で、酔っ払う暇がないって感じだっただけに」
 ゆっくりとタバコの煙をくゆらせて立石が片桐の横に腰を下ろした。
 渡された皿の中身を律儀にもくもくと平らげた中村はしばらくの沈黙の後、ぽつりと呟いた。
「・・・瀬川さんも罪な事をしますね・・・」
「ん?」
「片桐さん、あの人と付き合いだしてからがむしゃらに頑張ったんです。仕事が出来る男が好きだと言うからって佐古さんと仕事を組む役をわざわざ買って出たり、かといって放っておくと寂しさから浮気するかもと言われると、休日出勤しないように残業を平日の明け方までしたり。でも、努力している姿をあからさまに見せたら格好が悪いからって、どんなに体が悪くても平気なふりをして・・・」
「そうだったのか・・・」
 在米日系人で少し物事の考え方が違う上に天才肌の佐古と組むのは、なかなか骨の折れる仕事だったろうとどちらとも付き合いの長い立石にも解かる。
 幸か不幸かウマが合うらしい二人の関係が功を奏して業績も格段に上がり、片桐自身のスキルアップにもつながった。
 今では、片桐なしにはこの部署の仕事は回らない。
 こうなると、ある意味では瀬川美咲の置き土産と言うことになる。
「こんなに片桐さんに大切に想われて、瀬川さんはいったい何の不満があったんだろう・・・」
 風邪をひいてはいけないからと片桐の体に上着をかけてやりつつ、穏やかな中村にしては珍しく眉間にしわを寄せる。
「・・・女心ってヤツは、俺らには解からんよ」
「こんな事を女心で片付けてしまっては、片桐さんが気の毒じゃないですか・・・」
 二人の会話が耳に届いたのか、ふいに、片桐が目を覚ます。
「ん・・・」
「片桐さん、大丈夫ですか?気分悪くないですか?」
 ふらふらと起き上がろうとする片桐の背中を中村があわてて支えた。
「ここ、どこだ・・・・」
「ハル、ほら、烏龍茶。これを飲ませろ」
 背後から立石がグラスを中村の目の位置に下ろす。
「片桐さん、飲めるなら、飲んでください。お茶です」
「のむ・・・」
 中村に背を預けたまま、目をしばたたかせながらゆっくりと飲み干した。
 うっすら靄のかかったままの頭に手を当てて、ふーっとため息をつき、片桐は身を起こす。
「立石。悪いけど、俺、今のうちに帰るわ。今度意識を手放したら朝まで眠りそうやから」
 醜態はもう沢山だ。
「そうか?なら、送るから今日は俺の家に来いよ。佐古も泊まるし」
「いや、ここだとうちの方が近いし、明日総務に提出しないといけない書類を部屋に置きっぱなんだ」
「かと言って、その状態のお前を一人で帰す方が心配だから俺らも一緒に行く。おい、真人、帰るぞ!」
 背後で佐古が「えーっ?せっかく盛り上がってきたのにぃ」と未練たっぷりの声を上げる。
「・・・佐古なんぞに送ってもらったら、一生ネタにされる。いい。慣れているから」
 佐古の性質を的確に把握できるほどには酔いが醒めてきているのか、それとも泥酔していても忘れられないほどにその個性が強烈なのかと、二杯目の烏龍茶を手渡しながら立石は心の中で問わずにはいられなかった。
「なら、俺が一緒に帰ります。同じ寮だし」
 片桐の荷物をまとめ始めていた中村が手を上げる。
「まだたいして食べていないだろう、ハルは」
「先ほど立石さんに頂いたので十分です。佐古さんも久しぶりに飲み会に出てきて、皆さん積もる話もあるでしょうし」
 確かに、滅多に直では会えないカリスマ研究員を前に仕事魂が復活したのか、半分くらいの仲間が彼を二重三重に囲んで日本酒や焼酎を片手に堅い話を始めている。
「春ちゃん、本当に大丈夫か?多分、タクシーの中で寝てしまうぞ、あいつは・・・」
 全体の肉付きがまだ少年のように育ちきっておらず、どことなく線の細い印象を受ける中村に酔っ払いを任せるのは忍びなく、岡本もさすがに口を挟んだ。
「こう見えても力持ちなんですよ、俺」
 二十歳を過ぎた男ながらに天使の微笑と噂される中村の清麗な笑みを前に二人は言葉を失い、頭をかく。
「・・・そしたら、任せていいかな。俺ら幹事だし」
「はい」
 手際よく中村は片桐に上着を着せていく。やはり、一時的に醒めただけだったのであろう片桐はされるがままにぼんやりとしている。
 ふと、この光景に頭の隅に引っかかるものを感じつつ、岡本はタクシーを呼ぶために先に部屋を出た。
「では、お疲れ様でした。おやすみなさい」
 案の定、シートに体を預けた途端に眠り込んでしまった片桐の隣で中村は小さく会釈する。
「おう。明日の打合せを忘れんじゃねえぞ。午後イチでやるぞ」
「気をつけてな。降ろす時に手に負えなかったら、寮の誰かに手伝ってもらえ」
冬の終わりのあがきのようなしんとした寒さに首を縮めつつ、タクシーが小さくなるまで見送りながら、岡本はぽつりと言った。
「・・・思い出した」
「ん?」
ライターを取り出し、火をつけながら立石は返す。
「江口が池山を拉致った時と、どこか似てるんだ。このシチュエーション」
「は?」
「ほら、お前が確か出張でいない時に飲み会があってさ。泥酔した池山を江口が送ると言い出して、俺は幹事で身動き取れないから任せたら、あいつらそのままホテル街のほうに向かって歩いていって・・・」
 その後の惨劇と騒動は、数年経った今でもそう簡単に忘れ去られるものではない。
「そう言えばそんな事が・・・。いや、でも、それとこれとは・・・」
 タバコを挟んだまま親指で下唇を擦りつつ立石は岡本の脳裏に浮かんでいるであろう事を否定した。
「そうだよな。いくらなんでも・・・」
「ふーん。要するに春ちゃんが片桐を頭からぱっくり食べちゃうって事?」
 いきなり背後からあっけらかんとした声が飛び込んできた。
「うわ、お前、どこから出てきたんだ、佐古!」
「ついさっき。トイレに行って戻ってきたら片桐たちは帰ったって言うからさ」
「俺たちが酔っ払い相手に往生している間にトイレだと?その協調性のなさをアメリカ育ちのせいにしてやるほど俺は優しくないぞ・・・」
 喉の奥でうなり声を上げる岡本の頭をよしよしと撫でながら佐古はなおも続ける。
「春ちゃん、なんだか思いつめていたから、送り狼は大いに有り得るんじゃないの?」
「真人。いい加減にしておけ。江口たちと片桐たちでは話が違うだろう?」
「そうそう。熊男の江口だからああなっちまっただけで・・・」
 年下の熊男が、立石たちの同期で同性の池山をぱっくり頂いてしまったのはウエイトの差が物を言ったと思いたい。
「ええ?バンビちゃんでも男だろう?春ちゃんは。男の欲望を舐めちゃいけないよ」
 二十二歳の成年男子をバンビちゃん呼ばわりして、ちちちと人差し指を左右に振って佐古は人の悪い笑みをにんまりと浮かべた。
「欲望いうな、生々しい・・・。」
 この頭痛は酒のせいではないはずだ。
「いい年して恥らうなよ。・・・俺、バンビちゃんの逆襲に一口ね」
「この人でなしめ・・・」
 目の前の男との付き合いを、改めて、真剣に考え直したい二人であった。


  『ずっと、ずっと甘い口唇-4-』へつづく。




宴会が長くてごめんなさい。
こ、これでこの場面終わりなので許してくださいね。





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