恋愛事情-6- 

2010, 10. 29 (Fri) 23:03

 遅くなってしましました。
 恋愛事情の六話です。

 実は夫の仕事がここの所忙しくて、とうとう彼は先ほどダウンしてました…。
 今は、ものすごく面白い恰好で爆睡しています(笑)。
 よっぽど疲れていたんだろうなあ。
 これからおそらく春まではしばらく無茶な仕事ぶりをハラハラしながら眺める生活が続きそうです。
 彼に付き合って夜更かしするし、無干渉状態の時間が多くなるから、少しは創作の時間が持てそう…かなと、悪いけどちょっと期待したり。
 がんばるぞ。

 ところで、『恋愛事情』は『恋の呪文』と『ずっとずっと甘い唇』の狭間の時間になります。
 いわば、つなぎと言うか。
 これで、少し人間関係などが解りやすくなるかな~と、期待しているのですが、どうでしょう。
 主役でもない人たちの人生がクローズアップされて面白くないかもしれないですが、どうしても切り離せない話・・・と思うのでどうかお付き合いください。

 

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  現在は、『睦み月』で『シゲルとミケ』シリーズです。
  飲んだくれ猟師と化け猫の話。
  楽しんで頂けたら幸いです。

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 『恋愛事情-6-』




 有希子が落ち着く頃合を見計らってか、肉料理がテーブルの上に並べられる。
 金曜の夜の割と遅い時間から席に着いたため、先に食事を始めた客たちはほろ酔い加減だったのがいくらか幸いして、最初はちらちらと向けられていた好奇心の目も今は何事もなかったかのような雰囲気になっている。割と格のある店だっただけに、端の方の席だったとはいえ食事中にこのような騒ぎを起こして退席すべきかとも思ったが、マネージャーの厚意でそのままにさせてもらえている。

 幾分腫れてしまった目元のまま、有希子は皿をじっと見つめて問う。
「ねえ・・・。立石君がいきなりアメリカ研修に入った訳はなんなの?」
「・・・営業の俺が知るわけないだろ?」
「今更しらを切らないで」

 実は、立石は今、有希子の所属部署から離れてアメリカにいる。
 晩秋の頃に急に休暇を取ってアメリカへ渡ってそれきりだ。

「課長に聞いても言葉を濁すだけで何も言ってくれないの。ただ、「手続きは頼むな」の一点張り。だいたい辞令が出たのは彼がアメリカにとんだ後でしょう。和基は部屋の鍵を預かっているし、生はここの所ずっとお稽古事に出てこないで先生のところに坊やを預けっぱなし。連絡は一切取れないし。立石君のそばにいて仕事のお手伝いをして来た私がどうして何も知らないの?」
 またうつむく有希子の頭をゆっくりなでる。
「話せば長くなるし、お前も心配すると思ったからだろう」
「話が見えない方が、もっと不安になるときもあるのよ」
 本当に、立石のことが好きなのだなと胸が痛む。
 そして、親友と思ってきた生からすら事情の一切を教えてもらえないことにも傷ついているのだと知り、池山は迷った。
 話してよいものかどうか…。
 しかし、ここは幼馴染への情が勝り、口を開く。

「・・・あのな。あいつは一度辞表を出したんだよ」
「え・・・?」
 やはりそこも知らなかったらしく、有希子は顔を上げた。
「なに、それ・・・」
「で、上の方がどうしても手放したくないという結論を出して、NY支社へ出向扱いと渡航理由を研修にしたんだ。でも、おそらくフルタイム出勤はしていないはずだ。とんぼ返りだったけれど、辞表を出す時はさすがに戻ってきたからその場で急きょ色々協議してそうなった」
「どうしてそんなことに・・・」

「シリコンバレーに長く住んでいた年の近い親戚が失踪したんだ」

 手つかずの料理を指さして、「話が長くなるから、とりあえず食べながら聞け」と促すと、素直にカトラリーに手を伸ばし、肉を切り離し始める。口に運ぶのを見ながら、自分も一口入れる。
「幼い頃から仲が良かったらしいから、あいつもじっとしていられなかったんだろう。会社を辞めて探しにいくと言い出したときにはさすがの俺も驚いたよ」
 互いに半分機械的な動作を繰り返しつつ会話を進めた。
「たしかに心配だろうけれど、どうしてそこまでする必要があるの?その人だって家族がいるでしょう?おかしいわよ、そんな話」
杯を重ねた酒の為に少し潤んだ瞳が池山を見据える。
「・・・学生の頃に一緒にアメリカで情報系の会社を興さないかと誘われていたのを断って徹はここに入社したんだ。一番辛いときに自分がそばにいたならば、そんな事にはならなかったかもしれないと、多分、そう思っているんだよ」
「・・・もしかして、立石君がこっちに就職した理由って・・・。生がここにいたから?」
「・・・ああ。大学4年の秋に生と再会して・・・。あいつがシングルマザーをやっているのを知った途端、色々なことを方向転換したんだよ。生が今回のことに協力しているのはあいつがモデルの仕事のつてでセレブリティに知り合いが多いせいと、徹たちに対する自分なりの負い目があるからだろう」
 見えない糸が複雑に絡み合っているような錯覚に、有希子は目を覆う。
「そんなに想い合うくらいなら、いっそ、結婚してしまってくれれば、諦めもつくのに・・・」
「生は何がなんでも結婚するつもりはないと言っている。徹との再会をきっかけに子供の父親の家族ともめて、その火種が飛んで実姉の縁談が壊れたからな」
 立石なりの正義感で、子供の存在を相手の家族に知らせてしまったが、それは予想もしない方向へと転がって行ってしまった。
「今のあいつだったら、そんなヘマをしないだろうけれど、当時はまだ若かったんだろうな。ある意味頭に血が上っていたんだと思う」
「それで、なんでお姉さんの縁談に関係が?」
「これは、あいつらに直接聞いたんじゃなくて、江口経由で知った。江口はあれで旧家のぼんぼんだからな。祖母のお気に入りで小さいころからいわゆる社交場に連れまわされていたんだ。だから、生ではなくて、姉の方が顔見知りだったんだよ。美貌の跡取り孫娘としてあちらの祖母に連れまわされていたし、なんといっても、生の父方の祖父が長谷川周とだと聞いてピンと来たと言ってた」
 長谷川周は文学界では大御所、または重鎮と言われる大作家で、高校生の頃に日本文学史をさらったことがある人なら一度は耳にするし、教科書に採用されるような随筆も書いており、知らぬ者はいない存在である。とはいえ、純文学作家の私生活はさして世間の興味を引くこともなく、生に関する情報が漏れることはなかった。
「関西では有名な美少女だったらしいからな。蝶よ花よと育てられた姉の方はとんとん拍子に官庁のエリートとの見合いをして、結納を交わしてしまったところまで話が進んでいたらしい」
 そんなタイミングで、父親の分からない子供を未成年で産んだ妹がいることを隠していたのが露見して、そんな女が身内にいるなんてとんでもない、と破談になってしまった。
 もちろん、それがきっかけで一時期はセレブリティの間で生の話はもちきりで、しばらく姉は海外に出て行ったっきり帰れなかったという。
「父親が入り婿だったから高校までの名字が今と違うんだよ。確か、高階だったかな・・・。だから徹も上京している筈の生を大学の四年間探し出せなかったんだ。出産前に父方の祖父の養女にいったんなって、長谷川姓を名乗るようになったらしい」
「あの子を産むとき、新たに籍を作ったって言っていたけど、そう言うことだったのね・・・」
 有希子は学生時代からその長谷川周の妻に茶の手ほどきをしてもらっていて、師匠の孫娘である生とは二十歳のころに稽古事で知り合って以来の付き合いである。
 しかし、彼らの口からは一度も両親と兄弟の話が出て来たことが無かった。ただ、大学一年の夏に息子を産んだとしか。
 何か事情があるのは明らかで、聞くに聞けないままここまで来てしまったが、簡単に話せるものではなかったのだと今は解る。
「そんな理由で縁談を断る家に縁付いても幸せにはなれなかっただろうと俺は思うが、生は姉の幸せを壊しておいて、そのきっかけになった男とのうのうと生活は出来ないと思っているような気がするよ。どうしても、あいつの中の仁義が立たないんだよ」
 破談のあと、ほとぼりが冷めてから大病院の次男を婿に迎えて現在は子供もいるという、経済的にも裕福で傍目から見れば絵に描いたような幸福な結婚生活を送っているが、もしもそれがうまくいかなくなった時に、必ず思うはずである。
「あのとき、あの人と結婚できたならば、こんな目に遭わなくて良かったのに」と。
 立石は悪くない。
 高校卒業前に妊娠してしまったのは生であり、産むのを決めたのもそうだ。
 いつかは露見するはずの事ではあったが、あまりにも時期が悪すぎた。
 家庭の事情であまり親しくない姉妹ではあったが、だからと言って不幸を願ったことは一度としてなく、それが生を踏みとどまらせている理由のような気がしてならない。
「かといって徹は、はいそうですかと生のいない世界で生活することは出来ないだろう。あいつにとって、中学生の時から生は運命の女だから」
 そして、2人はつかず離れず友人のような家族のような、そしてそれ以上のような、でも決して恋人ではない関係を続けている。
 ただし、一見立石が一方的に想いつづけ、追いかけているようにみえるが、彼の背中を見るときだけ、生の瞳に情らしいものが浮かんでいることも、有希子は気がついていた。
「俺は、そんな込み入った過去を背負っている女は手におえないと思ったよ、正直。まあ、あいつも俺に人生を預ける気はさらさら無かったからこそ、何も俺に打ち明けなかったのだろうけど」
 大学生時代から少しの間、池山は生と付き合っていたが、それはいつもどこか非現実的なひとときだった。名前と連絡先くらいしか知らない、浅い関係を互いに望んだからだ。
 それに比べて彼らは深い。
 いつまでもいつまでも、深い川を挟んでじっと見つめあっているかのような関係だった。

「2人とも、ばかみたい・・・。つべこべ言わずにくっつけばいいのに・・・」
 そうしたら、こうして虚しい酒を飲むこともなかったのに。
「そうだな。バカ正直と言うか、融通が利かないというか…」
 二人は今、いったん休戦状態にして、アメリカで血眼になって失踪者を探しているだろう。
 それが、彼らに何をもたらすのか、こればかりは解らない。
「もう、あいつらのことで悩むのはやめろ」
「・・・」
「せっかくお前は美人でスタイルがよくて頭脳明晰な上に気がきいて、男達が一度はものにしたいと夢を見る女なんだ。あんな一つ穴馬鹿なんかとっとと見切りをつけて、もっともっと良い男と幸せになれよ」
「・・・うん」
 くしゃりと、泣きだしそうな顔のまま笑った。





  「恋愛事情-7-」へ続く


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