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『やわらかな、きみ』(刀剣二次) 

2018, 07. 11 (Wed) 00:01

 ちまちま、ちまちまと・・・。
 裏で書いていたのが出来上がったのでこちらにも上げます。
 pixivのほうですでにちょっとずつ公開していたのですが、なかなか完結せず。
 私の頭の中では一ページ漫画だよね?
 と、己の中で突っ込みを入れつつ血迷っていました。

 元ネタは。
 三月末に名古屋へ行って熱田神宮の近くで買った和菓子がとても美味しくて。
 これ、熱田組は食べていたよね、きっと…と思っているうちに考え付きましたが、よもやこんなに長くなろうとは。
 しかも、私、このお菓子のCM知らなかったのですよ。
 
 色々、新たなエピソードが突っ込まれていますがどうかご容赦くださいませ。
 刀剣に興味のない方には基本設定がわからないため、つまらないかと思いますが、とりあえずこんなことやってましたの表明です(笑)。

 次こそオリジナル。
 初心に戻らねばね。

 ではではまた。



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  現在は、『睦み月』で『シゲルとミケ』シリーズです。
  飲んだくれ猟師と化け猫の話。
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  『やわらかな、きみ。』



「お待たせ!!買ってきたよ~」
 遠征も出陣もない、のどかな春の午後。
 本丸の中心で、次郎太刀のきっぷのいい声が響き渡る。
 やがてどかどかという足音が縁側から近づいてきたかと思うと、すたーんと障子が開け放たれ、ご機嫌な様子でずかずかと大太刀が入ってきた。
 仲の良い刀剣たちでそれぞれゆっくりとくつろいでいた大広間は、彼の登場で一気ににぎやかになった。
  後ろに続くのは、一緒に万屋への買い出しに出かけた数名の刀剣たちだ。
 おのおの荷物を抱えているが、なんといっても抜きんでて大柄な次郎太刀が小脇に変えている酒の瓶の大きさには何度見ても迫力がある。
「・・・次郎さん。それ、自分用?」
 わかっていても尋ねてしまうのが人のサガだと聞いている。
 ということは、自分はずいぶんと人間臭くなったのだなと頭の隅で加州清光は思った。
「あったりまえよう。ってか、荷車引いて行ったから、樽は厨房ね」
 次郎太刀は体液の構成物質がすべて酒でできているのではないかと思うくらい、酒好きだ。
 昨日も遅くまで酒豪の刀剣たちと飲みまくり、本丸の酒のすべて歩飲み干したため、審神者から万屋への買い出しを命じられた。
 ちなみに一部の者はさすがに二日酔いらしく、日も高くなった今も部屋から出てこない。
「まだ飲むか・・・。まだまだ飲むのか、あんた」
 答えなんて、聞く前から、それこそデジャヴかと突っ込みたくなるほど鮮明に思い浮かぶのに。
「あたぼうよ~う。そんなの決まってんじゃん」
 だん、と片膝立ちで見えを切り、女物の着物の裾からたくましい太ももをあらわににやりとあくどい笑みを浮かべた。
「・・・酒は、心の水だから・・・さあ」
 しゃりん、と、次郎太刀の日本髪に刺したかんざしが鳴る。
「・・・・・・」
 名古屋生活が長かったくせに、なぜか江戸っ子調。
 大きな瓶を抱えて大見得切られても、滑稽なだけだと誰か教えてやってほしい。
 だがしかし、この場にいたのは刀剣の中でも割と年若いか頭に花畑が生えたようにのんきな者たちばかりで、ザルの言葉を素直に拝聴している。
「まっこと、次郎さんは面白いのう」
 そうじゃないんだ、陸奥守・・・!
 本気で感じ入り拍手までしている無邪気な男の背中を突き飛ばしたい衝動にかられたが、ぐっとこらえた。
 陸奥守に罪はない。
 ちょっと天然なだけなんだ。
 加州が一人孤独にもだえ苦しんでいるところへ、今度は奥の間に続く襖がすっと開いた。
 鴨居を優雅にくぐって姿を現したのは、太郎太刀。
 次郎と同じく熱田神宮に奉納されいていた大太刀だ。
「ああ、次郎太刀。ちょうどよかった」
 テンションの高すぎる次郎に眉一つ動かすことなく、さらりと言葉をかけた。
「頼んでいたものは、買ってきてくれましたか」
「もっちのろんろん!」

「もっちのろんろんって・・・何語だよ・・・」
 加州の小さな突っ込みなど、この本丸で高身長組の二人の耳に届くわけもなく。
「あんたは二つでいいって言っていたけどね。せっかくだから皆にも食べてもらいたいなーって思ってさ。仕入れ分全部引き取ってきちまったよ」
 にっと笑って次郎太刀が親指を立てて示した背後には、ちょっと足をもつれさせながら前田平野兄弟が何段かに積み重ねた箱を捧げ持ち現れた。
「ふー、結構重いもんですね。量があると・・・」
「平野、その中身なに?」
「和菓子だそうですよ。ええと多分、名古屋名物?」
「そうそう、たしか餡の入ったお餅で・・・」
 餡餅。
 のんべえの次郎太刀が餡餅。
 それ以前に、太郎太刀がそのようなものをお使いに頼むこと自体想像がつかない。
 付喪神の中でもより高潔な空気をまとう彼が、そもそも餡餅を食したいと思うとか、手土産にねだるとか。
 まったくもって想像できない。
 何が起きているんだ。
「・・・全部?ですか?」
 太郎太刀が軽く方眉を上げて問うと、次郎太刀はどんぶり勘定ぶりをあっさり披露する。
「えーと、たぶん、100個くらい?せっかくだから皆に食べてほしいなって思ったんだけど、うちは今何振りだったか忘れちゃってさあ。多めのほうが良いじゃん?どうせ何日か日持ちするし、この間の埋蔵金発掘で結構もうけたし」
 なんだ、この宵越しの金は持たない的なセリフは…。
 きっと、今頃金庫番の博多藤四郎と長谷部が頭と腹わたを煮えたぎらせているに違いない。
 彼らが領収書を握りしめ、般若と化した顔で飛び込んでくるのは間もなくだろう。
 我ながら具体的な想像におびえていると、今度はいきなり背後の縁側の障子が勢いよく開いて、つい、横に飛び退る。
「加州いるか?明日の件で蜂須賀が探して・・・」
 現れたのは、山姥切国広。
 相変わらずよれよれの布を後生大事に被っている。
「・・・もしかして、俺は何か邪魔したのか?」
 エメラルドにミルクを混ぜたような瞳の色が瞬いた。
 こういう時の山姥切は、実はかなり動揺しているのだと、最近気が付いた。
「・・・いいや?初期刀がなんて?」
 この本丸で随一綺羅々しい装いの蜂須賀虎徹と山姥切は真逆だ。
 一時は兄と慕った長曾根虎徹が贋作であることで心に闇を抱いた蜂須賀と、写しとして存在する山姥切。
 顕現した当初は少し気まずい雰囲気が流れていたが、今は不思議とうまくいっている。
 初期刀を差し置いて審神者の寵愛を一身に集める、今でも。
「明日の出陣の隊長を、加州清光で行きたいそうだ」
「へえ・・・?珍しいね」
 嫌味ではなく、ここの所出陣はちょっとご無沙汰だった。
「場所は幕末の京都。なじみの深い刀剣たちが構成したいと」
「なるほど。そりゃ俺の出番だね。分かった。ところで山姥切は・・・?」
 一緒に出陣するのかと問おうとしたところで、圧力のようなものを背後から感じた。
「山姥切」
 振り返るまでもない。
 声の主も、重圧としか言いようのないこの空気の主も。
 というか、山姥切、と言うときだけなんか旬の桃みたいな極甘の声色だっだよな。
 加州の脳内が激しく点滅した。
「ああ、太郎太刀。あんたも・・・」
 ぼそっとぶっきらぼうに返す山姥切の唇が、なんだかうっすら染まったことに気付く自分の鋭さが憎い。
「山姥切。今日はお休みの日だと、審神者が宣言していたのでは?」
 さえぎる言葉は冷たいけれど、何を言わんか十分想像がつくので、加州の全身の毛穴から汗がにじみ出てくる。
「太郎太刀…。しかし」
「いけませんね。たった一日の休みすら許さぬとは・・・」
 漂う空気が甘すぎて、甘すぎて、加州は発狂寸前だ。
「う・・・」
 実際、叫びだす直前だった。
 と、そこへお気楽な声が割り込む。
「やーねえ、太郎ちゃんったら、けちのやきもち焼きさんなんだから~」
 一瞬にして一掃された。
 次郎太刀を、心の底から愛しく思った。
 一瞬だけだけど。

「けちのやきもち焼き・・・」
 顎に手を添えて考え込んでいる太郎太刀を押しのけて、次郎は山姥切に詰め寄った。
「でさでさ、まんばちゃん。審神者の伝言のほかになんか仕事あんの?」
「いや・・・。これで最後だ。そもそも俺は通りすがりみたいなもんだったし」

 この本丸で審神者のそば近くに持している刀剣は蜻蛉切だ。
 彼は近侍として取り仕切るのではなく、幼い少女の守護者としての役目を好んだ。
 そこで実質的な仕事は数人の古株が分担して行っている。
 主に、蜂須賀虎徹、歌仙兼定、燭台切光忠、へしきり長谷部、加州清光、一期一振。
 たいていの本丸なら、初期刀が近侍を務め続けることが多いだろう。
 だがしかし、加州が『初期刀』と呼んだ蜂須賀虎徹は厳密にいえば二振目であった。
 過去に一度、『初期刀』は刀壊してしまった。
 色々事情が重なってのことだが、大きな痛手であったことは間違いない。
 そして、しばらく顕現させることができずにいた。
 その間、試行錯誤で運営しているうちにそのかたちに落ち着き、いつのまにか山姥切国広が中枢の一翼を担うようになった。
 戦いの場で、仲間を必ず連れ帰る軍神として。
 
「おきよちゃんが隊長ってことは、明日のまんばちゃんは非番?」
「まあ、そういうことになるかな・・・。畑が短刀ばかりだからそちらを手伝うつもりだが・・・」
 答えた途端、にいっと次郎は口角を釣り上げた。
「だってよ、太郎ちゃん」
 ぽん、と太郎太刀の腕をたたく。
「ずっと食べさせたいって言ってたお餅もちょうど手に入ったことだし。これ持って部屋へ行きなよ」
 小ぶりな箱を次郎が山姥切へ差し出す。
「・・・餅?」
 両手で受け取った山姥切がわずかに首をかしげると、その拍子に被っていた布がずれて普段隠されていた面差しがあらわになった。
 硝子を思わせる透き通った白い肌。
 最上の金糸で細工されたようなまつ毛。
 眉の形や鼻の高さに至るまで、職人がバランスや細心の注意を払って造形した人形のようだと加州は思わず息をのむ。
 付喪神としての姿とはいえ国広の最高傑作と称えられた逸話が頭をよぎり、軽い嫉妬を覚えた。
「そそ。江戸のころから熱田神宮の門前に餅屋さんがあってね。これがうまいのなんのって。みんなで酒のお供によく食べたなあ・・・」
「みんな・・・?」
「うん。うち、草薙神剣が御霊代だからね。刀剣の奉斎が多くて。二百超えるかなあ」
「へえ・・・。すごいな」
 この本丸へ熱田神宮から降臨しているのは今のところ大太刀の二振りだけだが、名だたる刀剣が一堂に会し、名刀の宝庫と呼ばれているという。
「しかも、お酒の奉納もピカイチ!!たまんないよね!」
「・・・なるほど」
 嬉々として答える次郎をやんわりと押しのけて太郎太刀が山姥切の正面に立つ。
「山姥切」
「なんだ」
「これは確かに、私と次郎が熱田神宮にいたころの、大変なじみ深い菓子なのですが・・・」
 低い声で話しかけながら、手入れの行き届いた大きな手が山姥切の手を包み込み、ゆっくりと箱のふたを開けて見せた。
「これは、まるであなたのようだと思って」
「・・・は?」
 中にあるのは手のひらよりも小さな、とても柔らかそうな俵型の白い餅菓子。
 餅粉をまぶされた表面がまるで磨りガラスのように澄んでいるので、中の餡の黒さがうっすらと見える。
 そして、真ん中に施された菓子の銘と思われる黄金色の刻印を目で三度ほど読んだのち、山姥切は大きくため息をついた。
「すまない、太郎太刀。俺にはあんたの言いたいことが全く分からない・・・」
 それは、この大広間に居合わせた者すべての総意でもあった。
「だよねー」
 次郎太刀が二人の背後で相槌を打つ。
「そうですね。私にしかわからないことなのかもしれません。いえ、むしろ同じ意見をほかの方々に持たれても困るというか・・・」
 重ねた手をそのままに、太郎太刀はわずかに距離を縮めた。
「この外側の白い部分は羽二重餅と言って、餅粉を蒸して・・・」
 野次馬たちは固唾をのんで、彼が何を言うのか一語一句聞き漏らすまいと耳をそばだてる。
 たとえ、それが羽二重餅なんかの解説というどうでもいい話であったとしても。
 ちなみにこの場にいたのは、本丸の半分ほどの刀剣たちで、一部は実務で稼働中、残りの面々は自主鍛錬へ出かけたか、昨夜次郎太刀に潰されてまだ二日酔いの床にあるか・・・である。
 そんな中、すっかり注目の的になっていることに気付いていないのは山姥切国広と太郎太刀だけに違いない。
 指摘しようにも、今、加州清光は断崖絶壁のようにそそり立つ太郎太刀の身体に阻まれている。
「・・・そして、丁寧に練られたこし餡をつつんでいるわけですが」
「ああ」
 山姥切国広はもともとクソが付くほどまじめな男だ。
 太郎太刀が甘々な声で語りかけているのを、感心の面持ちで拝聴している。
「まず、この餅の表面はまるであなたの肌のようにとてもなめらかで・・・」
「はあ?」
 どんな戦場でも平常心の軍神も、予想の斜め上を行く大太刀の言葉にさすがにあっけにとられた。
「あ、あんた、いったい・・・」
 山姥切が思わず後ずさると、太郎太刀はそれよりも大きく間を詰めた。
「絹よりもきめ細かでかつ透き通るような白い肌。それを唇に触れた時の柔らかさ。さらに口に含むとほんのり甘く・・・」
「ちょ、ちょっとまて・・・」
「ゆっくりと噛み締めるとさらにその中から、とろけるような舌触りの・・・」
「うわあああ~っっ!!」
 山姥切は全身を真っ赤に染めて、恐慌状態に陥る。
 ちなみに、つい壮絶な叫び声をあげてしまったのは加州清光だった。
 語りかけられている山姥切本人でなくても、この言葉攻めに全員が発狂する。
「うわわわわわ」
「はわーっ」
 お座敷は畳にうつぶせてもだえる刀剣たちで、死屍累々の状態になってしまった。
「たたたた、たろうちゃんたろうちゃん!!」
 出歯亀を一番楽しんでいたはずの次郎太刀は、がしっと兄弟の肩をつかんだ。
「悪かった!!アタシが悪かった!!もうなんでもどこでもいいから、二人きりになれるところに行ってちょうだい」
 手のひらからは大量の汗が出て、太郎太刀の着物をしとどに濡らした。
「・・・そうですか?」
 今、この場でいたって平静なのは太郎太刀ただ一人。
 ちなみに、山姥切国広は真っ赤に染まったまま彫像のように固まったままだ。
「山姥切」
 喉を震わせ甘い音で名を唱えると、すとんと、細い体が膝から崩れ落ちた。
 畳に座り込んでもなお、義理堅く菓子の入った箱を両手に抱えたままなのを目にした太郎太刀は微笑む。
「あなたは、なんて・・・」
 言いかけて、ふと、唇に指先を当てた。
「・・・どうやら、ここで続きを言ってはならぬようですね」
 いたずらっぽい微笑みを浮かべたのを見たのは、次郎太刀と加州清光のみ。
 人形のように整い切った冷たいはずの横顔は、すっかりゆるみきっていた。
 太郎太刀は恋にどっぷりつかった、普通の男に成り下がっている。
「では、遠慮なく」
 素早い動きで山姥切のそばにかがみこむと、彼を横抱きに立ち上がる。
「うわ・・・」
 驚いて足をばたつかせる打刀の耳に大太刀が口を寄せた。
「~~~!!」
 小さな叫び声が聞こえたような気もするが、すぐさま静かになった。
「アレ・・・」
「・・・舐めて、噛んだよね、耳・・・」
 事の次第を見守る次郎太刀と加州清光の間にはかなりの身長差があるが、些細な会話ももはや阿吽の呼吸だ。
 二人は同時に心の中で思った。
 堀川国広がここにいなくてよかったと。
 そしてさすがの山伏国広もただでは済まさなかっただろうとも。
 不器用な山姥国広を、彼らは家族として全力で愛している。
 もしこれを見たならば、間違いなくこの場に血の雨が降ったことだろう。
「では、失礼します」
 すっかり勝手に二人の世界へ浸りきっている太郎太刀が次郎と加州の胸中を察するわけはなく。
 腕の中に身体を預けた山姥切国広を宝物のように抱きしめて、熱田神宮を代表する大太刀は意気揚々と足を踏み出し…。
 あっという間に消え去った。
 
「はあ・・・。やっと酸素が身体に入ってきたカンジ・・・」
「いやもう、あと一秒でもあの濃密な空気を吸っていたら、脳みそ破壊されてたね!!」
 次郎と加州は畳に突っ伏して解放感を存分に味わった。
「ところでさあ、おきよちゃん・・・」
「なに?」
「ついさっき思いだしたんだけどさ…。昔ね。あのお菓子に宣伝動画があってさ・・・」
「へえ・・・」
「大人の女性がわが子らしき童女のほっぺたつっついてさあ、お餅みたい~って言って・・・」
「うん」
「・・・たべちゃいたい・・・って・・・」
「・・・・・・た・・・」
 もはや、指一本動かす力も残っていなかった。
 

 太郎太刀は、足早に廊下を進んだ。
 袴の衣擦れがやかましく響いたが、構ってなどいられない。
「・・・太郎太刀・・・」
 腕の中の山姥切が、呼気のようなかすかな声で名を呼ぶ。
「なんでしょう」
 耳元に囁き返した。
 我ながら一人で盛り上がり切っていて、かなり勝手なのは承知だ。
 周囲が呆れているのも十分理解している。
 でも、止められない。
 心が逸っているのだ。
 愛して
 愛して
 愛し潰したいと。
「・・・餅が、あったまる」
 もぞりと身じろいだ彼の両手の中には和菓子の入った小箱。
 大事そうに抱え込んだままの姿が律儀な性格の彼らしく、胸の奥が熱くなる。
 この気持ちは、いったいどこから来るのだろう。
 付喪神というこの身体は、なんと不可思議で、罪深いことか。
「もう着きますよ。あと少し我慢してください」
 我慢って、誰に?
 腕の中の山姥切に言い含めながら、それは己に投げかけた制止でもあると自嘲する。
 もう少しの、我慢。
 二人だけになれる場所は、もう目と鼻の先だから。
 堀川たちの部屋でも、次郎との相部屋でもなく。
 最近増築された棟の奥の奥の空き部屋へ山姥切を連れ込む。
 襖を片手で力任せに開けて入り、すぐ後ろ手で閉めた。
「ここは・・・」
「以前、あなたと過ごした部屋ですね」
「・・・そ、そうだな・・・」
 山姥切の体温が一気に上がったのを感じた。
 可愛い。
 なんて可愛い人なんだろう。
 身体中の血液が一気に巡った。
 爪の先の先まで、熱い。

 この部屋は、思い出深いところで。
 正確には、初めて契った場所。
 生死の境をさまようほどの傷を負って弱っている山姥切を閉じ込めて、彼の心の弱みに付け込んで抱いた。
 そして、それを本丸全体に知らしめた。
 山姥切国広は、太郎太刀と契りを交わしたと。
 卑怯な真似をしたと自覚している。
 でも、何度時間を巻き戻しても、自分は同じことをするだろう。
 彼を知れば知るほど、焦がれていく自分を止められない。
 ゆっくりと畳の上におろすと、くたりと彼は横向きに倒れ伏した。
 太郎太刀は傍らに座して、山姥切の頭のそばに置かれた小箱の蓋に手をかけたまま話しかける。
「浮かれた真似をしてすみません、山姥切」
 反省はしている。
 ほんの少しではあるが。
「・・・っ」
 小さな吐息しか聞こえない。
 山姥切国広は、人目をかなり気にする。
 なのに注目を集めるふるまいばかりしてしまった自分を怒っているだろうか。
「山姥切」
 ただ黙って両手で顔を隠している彼が怖くなってきた。
「ごめんなさい。我慢がきかなくて」
 何を言えば、いいだろうか。
 焦りが太郎太刀の身体を押しつぶしてしまいそうになる。
「ずっと、思っていたのです。あなたに触れるたび、この心地よさが懐かしいと」
 とりあえず、ことの発端について説明を始めた。
「このほのかな甘さ、とろけてしまうこの深みは、私が常々好ましく思っていたものだと・・・。それが何か気が付いたとき、あなたにも味わってほしくなった」
 目の前の彼はぴくりとも動かなくて。
 まるで石に話しかけているようだ。
「私が何度も感じた、この甘露な味わいを・・・」
「いい」
 硬い声が制す。
 こくりと、太郎太刀は続きを呑み込む。
 さらりと、淡黄色の絹の髪が揺れた。
「太郎太刀、もう、これ以上言うな」
 わずかに見える百群の瞳は濃い青みを帯びていた。
 いつもは透き通るような白さの指も、頬も、耳の先も朱に染まりきっている。
「もう、わかったから」
 恥ずかしい。
 けれど、怒っていない。
 彼の声が、教えてくれた。
「はい」
 そろりそろりと両手が顔から離れ、桜色の唇が現れる。
「でもたのむから、これいじょう・・・」
 なんて寛大なんだろう。
 そして、なんて美しいのだろう。
 私の、愛しい打刀は。
「・・・はい」
 そっと指先を伸ばし、彼の頬に触れる。
 柔らかな頬。
 静かに閉じられる薄い瞼。
 その中に、心地よい熱と甘い吐息を包み込んで。
「・・・いいから」
 ささやかな、言葉。
 あなたがここにいるだけで。
 心と身体が、歓喜に震える。
「ありがとうございます」

 誰よりも優しく、
 誰よりも可愛らしく、
 やわらかな、きみ。

 きみを、食べてしまいたい。


               -おわり- 




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