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『秘密の花園』-漂泊- 

2018, 05. 07 (Mon) 20:17

 長らくお待たせしました。
 J庭から帰国して以来、仕事にまみれたり、小さな旅に出たりしていたらあっという間に二か月がたち…。
 黄金週間も終わったという…。
 なんて恐ろしい。
 果てには表も裏もブログを放置気味になり、自分自身ちょっと焦りました。
 何もしていないわけではないけれど、体調がいまいちの日が続いたせいもあって自分を甘やかしすぎたというか。
 とりあえず、書いたり消したり書いたり消したりしながら一つ出来上がりましたのでお届けします。

 『秘密の花園』シリーズで空白の期間でもある、真神憲二の二十代前半の頃の話です。
 アメリカへの留学を口実に家族と没交渉だった時期のこと。
 久々に書いたからかなりポエマーな感じで…。
 しかも思わせぶりな文章ですが。
 それでも楽しんでくだされば嬉しいです。

 久々ついでに家系図も載せますね(笑)。
 後妻の次男という、めんどくさいポジションの憲二。
 見目麗しく神童の兄を持ち、しかも初恋の相手に見向きもされず、たいへんひねくれて魔性の男に育ちました。
 ・・・って、作者の私が一番、すべてを壊している気がする。

真神家相関図12

 初めての方は、それらを踏まえてお読みいただければ…。
 ではでは、『秘密の花園』-漂白-。
 ご覧ください。

  ↓ 小説はこの下にあります。『続きを読む』をクリック下さい。


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  現在は、『睦み月』で『シゲルとミケ』シリーズです。
  飲んだくれ猟師と化け猫の話。
  楽しんで頂けたら幸いです。

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『秘密の花園』―漂泊-

 白い、白い、白い。
 いちめんの白に飲まれる。
 白くて広いシーツの中は冷たくて。
 時々、わからなくなる。
 ここはどこで。
 自分はいったい誰なのだろう。


【ケニー、モーニン・・・】

 肩先に湿った生暖かいものが触れて。
 まるでスイッチが入ったかのように、眠りから覚める。
「あ・・・」
 目を開くと、緑色の瞳が間近に迫っていた。
 緑という色は、好きだ。
 だけど。
 こんなエメラルドのようなきらめきを発していて。
 それを縁どるように生えている睫毛は黄金色で。
 絵にかいたような美しい目元だと、人々は言うだろう。
 だけど。
 違う、と言葉が閃いた瞬間に唇が塞がれた。
「ん・・・」
【ハニー・・・】
 ひび割れた音。
 油断しているすきに肉厚の舌を差し込まれて、思わず歯を食いしばりたくなる。

 ケニーって、誰だよ。
 ハニーとかって胸糞悪い呼び方するな。

 日本語で思いっきり喚きたい。
 だけど、昨夜誘われてのこのこついて来たのは自分なのだ。

 あの日。
 もう、遠い昔になったあの日に。
 誰も予想だにしなかった多重事故が起きて。
 俊一が・・・。
 たったひとりの兄が。
 即死だったあいつらを追いかけて、あの世に行って。
 世界はどんどん崩れていった。
 姉の清乃が壊されて。
 それでも、孕まされていて。
 母が。
 どんな仕打ちにも耐え続けた母が、清乃を抱きしめて泣き叫んでいた。
 いつまでも、いつまでも。
 声が枯れても、身体中の水分を失っても泣き続けて、母も壊れていった。
 とても。
 とても耐えられなかった。
 気が狂いそうだった。
 なのに、涙の一つもこぼれやしない。
 どうして、自分の心臓は止まらないのだろう。
 浅ましくも、規則的に無意識のうちに繰り返される呼吸。
 そして。
 見ていられなくなった。
 荒れ果てた世界に、独りで立ち向かう勝巳を。
 壊れたものを全部引き受けて、なおも立ち上がる高潔さと。
 いつのときも、真摯でありつづけるその横顔を。
 そして、あの、深い緑の瞳の静けさを。

 自分こそが。
 やるべきだと、頭の中ではわかっている。
 清乃を、
 母を、
 新しい命を、
 そして弟を守るべきなのだ。
 
 でも。
 自分の犯した罪は重すぎて。
 どう償えばいいのか、わからない。

 
 【・・・、ケニー。・・・・・】

 くぐもった声で囁きながら、骨格の大きな手がシーツから潜り込み、素肌の上を好き勝手にうごめく。
 愛を囁いているのか。
 それとも、貶めて楽しんでいるのか。
 彼の言葉を、理解したいと思わない。
 触りたいなら、好きにすればいい。
 あらゆる場所を舐められて。
 隙間をこじ開けられて。
 乱暴に揺さぶられて。
 勝手に上がっていく体温と息を、冷めた自分があざ笑う。
 抱きつぶされて、壊れてしまえばいいのに。
 いっそ粉々になれたなら。
 小さく小さくなれたなら。
 あの庭に、帰れるだろうか。
 あの庭で春に咲く白い花の、小さな、小さな花弁よりも小さくなって空に舞えたなら。
 目を強く閉じても。
 どれほど願っても。
 今、この時はなくならない。
 それこそが、罰なのだから。
 罪には、罰を。
 この、いつまでも冷たい白い世界が、唯一の罰。

【ケニー・・・】
 それは、俺の名前じゃない。
 なら、俺の名前は何だ。


 宙に舞う白い花弁が、風の行方を教えて。
 その向こうに見える、緑の国。
 奥のほうから優しい声が聞こえて。

『憲』

 柔らかな響き。
 懐かしい香り。
 失ったのは名前と。
 確かなぬくもり。

『憲・・・』

 帰りたい。
 帰れない。
 でも、帰りたい。
 帰りたい、帰りたい、帰りたい。
 手を伸ばしたけれど、何もつかめない。
 
 助けて。
 ねえ。

「かつ・・・」

 歯を食いしばって、シーツにしがみつく。

 まっ白なこの世界に溺れながら。
 罰を受けたいくせに。
 それでもなお。
 道を探す。



              -完-

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