『秘密の花園』-きざはし-エピローグ 

2018, 02. 04 (Sun) 12:06

 こちらも、予約投稿です。
 これでpixivとなろうに上げたものは終わって…ない。
 まんばぐみが完結しているけれど、このブログをご覧になる方はどちらかというとオリジナルがお好きのようなので、それはまた後日あげることにしましょう…。
 仕事とか、他のこととかいろいろ指折り数えて、本当に本が作れるのか青くなっています。
 エンジンが立ち上がるのが遅いのですよね…。
 己を叱咤するために過去の文章を読み返し、地の底まで落ち込んだりして…いる場合じゃない。
 とにかく、何か書きます←だんだんずれている。

 ええと。
 昨日公開したプロローグとともに、2014年秋に発行した『秘密の花園-きざはし-』のネット上未公開文章です。
 印刷して数年経ったので公開します。
 冊子体で読んでみたいと思われた方は、イベント及びBOOTHをご利用くださいね。

 プロローグから十数年の月日が流れ、赤ん坊だった俊一は、スイスの山荘の一室で幼い弟妹たちに読み聞かせをしています。
 (引用文はイギリス語版『わたしのおふねマギーB』です)
 そばには峰岸覚。
 ちなみにこの話は、『無花果』にリンクしています。
 正直、2014年秋からもう三年以上経つことに、ほんとうに衝撃です…。
 ずっと書き続けているので、そんなに経っているとは思いませんでした。
 文章に進歩がないなという反省点が見つかったのが今回の収穫。
 私の文章って、どうしてこう(以下略)
 ・・・精進します。

 そういえば、前に相関図を作っていたので、はりつけますね。

真神家相関図12

 おわかりいただけただろうか。
 横溝正史ばりの混乱具合です。
 そんなこんなを楽しんでいただけたら幸いです。

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  現在は、『睦み月』で『シゲルとミケ』シリーズです。
  飲んだくれ猟師と化け猫の話。
  楽しんで頂けたら幸いです。

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 もしもよろしければ感想や要望など頂けると、本当に嬉しいです。


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「The storm was not an angry one anymore.
 Nice steady rain made a lullaby sound on the roof of the cabin.
 So Margaret got into her bunk.
 She blew out her lamp, curled up inside her nest of blankets and fell asleep.
 The day on The Maggie B. was over. ・・・」
  (『The Maggie B』 -Irene Haas- より )

 そうっと絵本を閉じて、傍らの子供たちの顔を覗き込む。
 広い寝台に、妹の清乃と、弟の憲二。
 まるで小鳥のように肩を寄せ合って目を瞑り、規則正しい寝息をたてていた。
 どうやらなんとか夢の国へ旅立ってくれたようだ。
 俊一は枕元に腰を下ろしたまま、二人の肩にキルトケットをかけ直す。

「・・・眠ったか?」
 ノックなしで部屋へ滑り込み、忍び足で寝台に近付き覗き込む男の腕には、生まれてまだ数ヶ月の末弟が抱かれていた。
「ようやく・・・な」
 一年ぶりに会う父親に、興奮しないわけはない。
 二人は目をらんらんと輝かせ、俊一にまとわりついた。
 そして寝かしつけるための読み聞かせの絵本は一冊では到底済むはずもなく、次々とせがまれた。
 ついには怪奇ものの昔ばなしを紐解き、化け物が手当たり次第に人々を食べ始める段に至ると、その節回しが気に入ったのか、二人は寝台で跳ねて歌い始めた。
『た~べちゃった、たいらげちゃったー』
 きゃっきゃと清乃と憲二が子犬のように転げ回り、とても昼寝どころではない。
「清乃のおてんばぶりは、まるで山賊だな…」
 実際、海賊になって世界を回りたいと言い出す始末だ。
 今頃、夢の中で憲二と物語の海に乗りだしていることだろう。

「勝己もそこに寝かせて良いか?」
「うん。もちろん」
 腰掛けていた寝台から身体をずらし、憲二の横に赤ん坊の場所を作る。
「・・・お前はよく寝るなあ」
 ちいさな両手を開いてだらりと落とし、安心しきった寝姿につい笑みが漏れた。
「一番、大物かもしれないな」
 傍らに腰掛けた峰岸覚も笑う。
 その穏やかな笑顔に、俊一は見とれた。
 一年に一度と決めた約束の日を待たずに再会できて、天にも昇る気持ちだ。
 実は三日前に俊一がこの別荘へやってくるのにあわせて祖母が覚を呼び寄せ、俊一への早めの誕生プレゼントだと、悪戯っぽく笑った。
 彼女は、俊一と覚の何もかもを理解し、見守ってくれているのだ。

「さとる」
「うん?」
 そっと顎を挙げて唇を差し出すと、ゆっくりと重ねてくれた。
 夢にまで見た、優しい唇。

 もう十八歳になるのだからと、数年間わからなかった覚の居場所も祖母は教えてくれた。
 現在の日本の政財界で活躍している派閥の一つに長田家という、製薬会社を母体にした一族がある。
 彼らは人材育成を趣味と豪語して憚らない。
 血族ばかりだけでなく、これはと見込んだ人間ならば国籍も問わず受け入れ、それぞれに適した教育を施した。
 通称、『長田塾』。
 覚は、真神家で住みこみ家政婦を務めていた母が急逝した後、今は亡き祖父の尽力でそこに籍を置き、現在留学中だ。
 そもそも政財界は網の目のように姻戚関係が張り巡らされている。
 当然のごとく祖母の実家である桐谷家と長田家には代々密接な繋がりがあり、覚と連絡を取るのは容易なことだったらしい。

 しかし、今ここに覚が滞在していることは秘密である。
 父に知られたら、もう、二度と会えないかもしれない。
 そう思うと、ますます離れがたく、子供たちに遠慮して触れ合うだけのキスに焦れてくる。
「もっと・・・」
 呟きは、吐息と一緒に絡め取られた。

 父の惣一郎が、祖父の実質的愛人だった覚の母の峰岸夕子を嫌っているせいで、覚の存在自体を無視されている。
 おそらく、元総領の愛人の連れ子などのたれ死んでいると思っているだろう。
 いや、そうでなければ、気が済まないのだ。
 なぜならば、祖父と峰岸夕子の恋愛は、俊一の生みの母である桐谷光子とその養父である桐谷輝実のただならぬ関係を連想させるからだ。
 光子は古典になぞらえて、紫の上とも、待賢門院とも影で囁かれていた。
 年の離れた養父の娘であり、愛人であった女だと。
 暗部を影で操る化け物と噂された輝実には子供がおらず、気まぐれに何人もの養子を設けては、どれも途中で飽きて放逐していた。
 その中で、唯一残ったのが光子だ。
 こうこ、という名の、照りつける夏の太陽のような娘。
 没落華族の親より買い上げたその日から、全てが変わった。
 齢七つにして、光子は既に王者の風格を備えおり、気高く他を寄せ付けない瞳で人を圧した。
 そして、そんな少女を、輝実は鍾愛した。
『お前は、私の生神様だよ』
 神のようにあがめ、娘のように慈しみ、いつしか、女のように愛した。
『私の、私だけのヒカル』
 許されざる愛だと、止める間もなく。


 噂を、知らなかったわけではない。
 ただ、還暦に近い男と少女が心から愛し合うわけがないと信じていた。
 しかも桐谷輝実が亡くなって十年経ち、所詮、生きている者の勝ちだと高をくくっていたのかもしれない。
 郷里でも東京でも女達は誰もが惣一郎の女になりたがり、奢りがあったことも否めない。
 そして結婚してしまえば自然と気持ちも沿うものだと、誰もが言う。
 例外があることを思いもせず。

 結果として、光子は夫婦としての暮しをほとんど許さず、俊一を産んだ喜びを分かち合うことなく息を引き取った。
 そして、惣一郎にひとかけらの情も抱かないままであった事実が、後から後から聞こえてくる。
 認めるわけはいかなかった。
 老人に、負けたなどと。
 一顧だにされなかったなどと。
 己の心の均衡を図るために、遺された俊一に全てを注ぎ込み、溺愛する。
 俊一は、真神あり、光子であった。
 そして、全ての負の感情をはけ口が、後添えの芳恵だった。
 存在そのものを憎み、冷遇した。
 辛いなら、出て行けばいい。
 代わりはいくらでもいる。
 いくら罵っても、ただ泣くばかりの愚鈍さに、憎しみが増した。
 自分のそばに光子がいないのは、芳恵のせいだとすら思った。
 芳恵の産んだ二人の子供たちを無視し、三人目は必ず堕ろせと言い捨てて、それきり一年間放置した。
 そして完全な別れを通告するために、はるばるこのスイスの療養地までやってきた。

 しかし。
 強い憎しみの裏返しがなんであるのか、俊一には見えてきた気がする。
「結局、手放せないんだろうな…」
 子供たちともども生家に返して押し込めさせておくつもりが、祖母から桐谷への移籍と再嫁の提案をされて、動揺したはずだ。
 おそらくは、離縁を翻して復縁を選ぶにちがいない。
 芳恵の代わりは、どこにもいないのだ。
 他人のものになることも許せないなら、それは執着であり、愛ではないのか。
「認めれば、どんなにか楽だろうに」
 
 ただ、お前を、愛していると。

 先ほど惣一郎が芳恵の部屋へ入り、今後の話し合いがもたれていると聞いた筈なのに、赤ん坊だけ連れ出され、別室で待機していた覚に託された。
 それが何を意味しているかなんて、愚問だ。
 結局、二人は離れられない。
 どんなに辛くても、どんなに憎くても、離れることは、出来ないのだ。

「比翼の鳥…」

 覚の呟きを、広い胸に背中を預けて聞いた。
 たしかにそうだ。
 一緒になって、ようやく大空を飛べることに父が気付くのはいつのことだろう。
 芳恵は、それまで耐え続けるつもりなのか。

「俺は、母さんみたいに我慢強くないし、待てない」

 傍らに置いていた絵本の水色の表紙を、そっとなでる。
「どこか、遠くに行きたいな。船に乗って・・・」
 まるで、この物語のように。
「覚と、清乃と、憲二と、勝己。それからお祖母さま。本当は母さんも連れて行きたいけれど…」
 父を残して、どこにも行けないだろう、あの人は。
 優しすぎる、美しい人。
 だから、せめて。

 ふと、指先に柔らかな感触を感じて目を落とすと、いつの間に起きたのか、勝己がちいさな手で指を握って笑っている。
 ちいさなえくぼを頬に浮かべ、さかんに手足を動かし、生き生きとした目で俊一たちを見上げていた。
 つられて、つい笑みが浮かぶ。
「勝己。お前は、俺のものだからな・・・」
 囁きかけると、ますます喜んでばたばたと踊った。
「かわいい、かわいい勝己・・・」
 目を合わせてあやしながらちいさな握手を楽しんでいると、隣で寝ていたはずの憲二がふいに顔を上げた。
「だめ」
「ん?」
 両肘を突いて身体を少し起こし、長い睫をしょぼしょぼと瞬かせながら口を尖らせた。
「ぼくの」
「なにが?」
「かつみは、ぼくの」
 恨めしげな眼差し。
「え?」
「ぼくの、なの」
 引っ込み思案だった憲二が、珍しく譲らない。
 後ろから一緒に覗き込んでいた覚が吹き出して、抱きしめてくれていた腕に力が入る。
「・・・勝己は、憲二のものなんだってさ」
 くっくっくっと、肩に笑いをおとされて、俊一は複雑な気分になる。
「・・・じゃあ、勝己は、憲二のものな」
「うん」
 真剣な眼差しを交わした。
「やくそく」
 細い小指を差し出されて、絡める。
「やくそく、な」
「うん」
 きゅっと、締め合った後、ふいに憲二の力が抜け、ぱたりと頭が枕に落ちた。
「あれ?憲二?」
 慌てて抱き起こすが、反応はない。
 ちいさな寝息が返ってくるばかりだ。
「なんだ・・・。寝ぼけていたのか・・・」
 安堵のため息をついて、憲二を楽な姿勢に寝かせてやった。
 満足げな寝顔に、暖かな気持ちが広がる。
 そばでは、勝己と覚が笑っていた。
 清乃は、夢の中で冒険を楽しんでいる。
 なんて、幸福なことか。

「さとる・・・」
「なに?」
 首をかしげるつれない人の唇に、いま一度自らのそれを合わせた。
「ん・・・」
 唇をかわして、
 息をかわして。
 明日を夢見て、言葉を紡ぐ。


「いつか、みんなで行こうな」

 今は、なんの力もないけれど。 
 いつか、きっと。

 ここは王国。
 寝台の上の、ちいさな領土。
 子供たちだけの、ちいさな、ちいさな国。

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