「神渡し」-2- 

2010, 09. 09 (Thu) 20:45


せめて、今日こそは…と、駆け足更新。

平安物の続きです。

ああ、今日はいろいろやらかして傷心なの・・・。




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  現在は、『睦み月』で『シゲルとミケ』シリーズです。
  飲んだくれ猟師と化け猫の話。
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『神渡し』-2-


 やがて朝顔の花が生け垣を彩りはじめる頃、才色兼備で名高い三条の詠む恋歌にさらなる艶がかかり、誰か新しく通う人ができたのだろうと人々の口に昇るようになった。
あの公卿だろうか、いいや、あの公卿に違いないと噂が流れているうちに、菊の節会の季節を過ぎ、式部卿宮家では姫宮の入内の支度で大わらわとなっていった。
 

「・・・ほんの少しでいいから、姫君に会わせてもらえないだろうか」
 横に臥している三条を後ろから抱き寄せて、そのうなじに呟きを落とした。
「姫君?」
「・・・芳子姫だ」
 驚きに身を返そうとする三条に回した腕の力を更にこめる。
「一晩でいい。手引きしてもらいたい」
 この男は何を言っているのだろうか。
 つい、先程まで自分と濃密な時を過ごしておいて、他の女に会わせろという。
 しかもその女は自分の主人であり、来月には東宮の元へと入内すると公に決まっている。
「そんな大それたこと、とんでもありませんわ」
「・・・そうかな。そなたならば…と思っていっていたのだが」
 男はゆっくりと唇をうなじから耳へと這わせた。
「私ならば?」
「恋上手として名高いそなたならば、そつなくやってくれるだろうと・・・」
「・・・!」
 耳を噛まれて、三条は背筋を震わせた。
 ソナタナラバ、ソツナク・・・。
 何人もの男と浮名を流すような女ならば、何を言っても笑ってくれると思っているのだろうか。
 どの男でも受け入れて、どの男も深追いしない、その上色事の共犯者にもなれる。それが男たちの理想とする恋上手というものなのかと、三条は遠い闇の先を見据えた。
 居心地が良いと思いはじめていたぬくもりにしらじらとしたものを感じ、息をつく。
 いま抱きしめられているこの手を払い除けて男を詰るには、自分の誇りは高すぎた。
「・・・本当に、芳子姫にお会いになりたいのね?」
 三条はゆっくりと首をめぐらせ、男の瞳を見つめた。
「お側近くに仕えているのだから、確かに手引きはできるでしょう。でも、私ができるのはそこまで。お側仕えたちが騒いだら、一巻の終わりということはよくよく考えたうえでおっしゃるの?」
「ああ、そうだとも」
 彼の瞳は、少しも揺るぎがなかった。
 不安も、憂いも、ためらいも、そして最悪感も、姫宮を想う心の前には無きに等しい。
 元服して十年は経とうかというこの男の中に隠れていた、頑なさに三条は瞠目した。
 末子とはいえ、今をときめく内大臣の子息であり、数年前に宮中で甥の左近中将と青海波を舞って以来、女房たちがひそかに海王と呼び憧れる四位左近少将。公卿の家に生まれながらも武芸を好むせいかすらりと伸びた体躯に程よく肉が付き、きりりと濃い眉と幾分鋭い眼差しを武神が現世に現れたようだともっぱら評判であるのに、それを良い事に浮名を流していると聞かなかったのは、恋に関しては少年のように一本気なところがあるからなのかと今更ながらに思う。
 それならば、と三条はため息をついた。
「・・・三日後に乳母が宿下がりされるわ。彼女の娘がそろそろ出産だから」
「三日後?長月最後の夜か・・・」
「ええ。乳母が不在だといくらか姫君の身辺は手薄になるから、その時しかないでしょう」
 言葉を聞くなり、少将の瞳に鮮やかな色が浮かぶ。
「・・・やはり、そなたは頼りになる・・・」
 三条は面をあげ、目を閉じる。
秋の風の中に、どこか、わずかではあるけれど土と水の匂いを感じるような気がした。
「・・・雨がくるのかしら・・・」

雨が降るというならばならば降ればいい、風が吹くというならば、存分に吹くがいい。
そして、嵐がくると言うならば、くればいいのだ・・・。


 ごうごうと音を立てて風が吹き荒れていた。
風に煽られて邸内の木々はざわめき、竹はぶつかり合ってぶーんと低いうなり声を上げる。
邸内のあちこちで警護のものがかがり火を焚いたりもしているが、風に吹かれて今にも消えそうだ。
 光と闇の間を縫いながらいつもの道をたどって局の戸を叩くと、待ちわびていたのか三条がするりと少将の手を取り、中へ導いた。
「お気持ちは、変わりませんか?」
 隙間風が入ってきているのか、またたく灯火の下で互いを探るように見詰め合う。
「揺らぐような決心なら、最初から口にしたりはしないさ」
「・・・そうですわね」
ゆるりと少将の手をといて微笑んだ。
「予定通り、乳母は宿下がりしています。どうやら難産のようなので、今宵は戻らないでしょう」
すっと背を伸ばして三条は立ちあがる。
「まいりましょうか」
 遠くで雷鳴が鳴り響いた。


  『神渡し』-3-へ続く。





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