『みなづき。-前編-』(『よる』シリーズ) 

2017, 04. 05 (Wed) 18:59

 もうすっかり春ですね。
 我が家のベランダの花が、自分で言うのもなんですが、それはもう見事に咲き誇っております。

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 だがしかし。
 夫が寝込んでおりまして。
 病院へ行って処方されたロキソニンが激効きしたのを治ったと思い込み、私が止めるのも聞かずに月曜日に強行出勤したらそのツケが夜から来たらしく…。
 大変気の毒な状況になっています。
 ロキソニン、恐ろしい。
 そして、たった数日ですが、看病疲れが出ています。
 あー。
 もうね。
 月曜日、あれほど行くなと言ったのに~。

 で、私の中では今週はがんがんブログをアップする予定だったわけです。
 お勧めしたいBL漫画があったのですが、彼がいつ私の傍へやってくるかわからないので、おとなしくしておりました。
 文章を書いているのは昨年ちょっとネットコラムに手を伸ばして以来、ばれているので大丈夫・・・ということで、BLでもRでもない、アラフィフの話を書きました。
 しかも、ノーマル。
 ええと、私の書く話は異性間同性間年齢、いろいろありますので・・・。
 アラフィフののほほんとした話をお好きでない方はどうぞスルーされてくださいね。

 長くなりそうだったので、前後編に分けました。
 吉央たちのこれからにもちょっと関わる吉央母・良子の話。
 楽しんでいただければ幸いです。


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  現在は、『睦み月』で『シゲルとミケ』シリーズです。
  飲んだくれ猟師と化け猫の話。
  楽しんで頂けたら幸いです。

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『水無月-前編-』


 今日は朝からなかなかの上天気だ。
 前日の夜中に降った雨で庭の草木は潤い、義母が植えたヤマアジサイの葉が朝日に照らされて艶やかに光る。そして小さな空間にこまごまと植えられた初夏の花がいっせいに蕾を膨らませ、彩を添えた。
 ガラス戸を下げて網戸の状態にした勝手口から、薔薇を思わせる華やかな芳香が流れてくる。
「・・・咲いたのね。いい香り」
 花の姿を思い浮かべながら、台所仕事にとりかかった。
 ボールの中にあけた葛粉と白玉粉と砂糖の塊を指で探って、ゆっくりと潰す。
 幼い頃、指先で粉の塊をつぶす作業が好きだった。
 軽く力を加えると塊がふいに砕け、さらりさらりと粉たちの仲間になってく。
 ゆっくりゆっくりと器の中を細かい粒子の世界で満たす心と時間の空白は、一つの快感でもある。
 ただの白い粉から、何かが作り上げられるという達成感と、誰かの笑みを見ることができるかもしれない期待も相まって、下ごしらえを楽しいと思っていた。
 今でも、それは変わらない。
 真っ白な粉の中に少量の水を落とすと、水滴が粉を纏ってころころと転がっていく。
 『お母さん、きれいね。まるで、宝石がはねてるみたい』
 傍らで作業を見守っていたまだ幼い奈津美の、はしゃいだ声を思い出す。
 少しずつ、少しずつ加えた水と粉がまじりあったところで、今度は別のボールに用意していた薄力粉とグラニュー糖の中にゆっくりと投入し、とろりとなるまで泡だて器で混ぜ合わせた。
 水で濡らしておいた型に六割の生地を網で腰ながら流しいれ、火にかけておいた蒸し器の中にそっと置く。強火で蒸しているうちに、茹でておいた小豆の支度にとりかかった。
 義母のレシピでは甘納豆を使うが、少なめの砂糖で煮た小豆を使ってみたところ、こちらの方が好きだと奈津美が言ったので、以来、それが私の中で定番になった。
 蒸し器に入れて二十分ほど経った生地を取り出して、表面の水分をペーパータオルに吸い取らせる。一呼吸置いたところで小豆を散らし、その上から取り分けていた四割の生地を静かに流し込む。小豆の散らばり具合を体裁よく整えてからもう一度蒸し器に戻し、そこから十分ほど強火にかけて表面が固まったら出来上がりだ。
「そろそろかしらね」
 蓋を開けて確認し、型ごと中から取り出したところで門の呼び鈴が聞こえてきた。
 居間の柱に設置されたセキュリティ画面を見ると、見知った顔が写る。
 家族と懇意にしている医師の清水氏だった。
 清水家は代々医師の家系で、今は先代と姉弟の五人で個人病院を経営していて、地域の信頼も厚い。

「こんにちは。午前中の往診の予定がひとつ空いてしまって。ご迷惑かと思いましたが寄らせていただきました」
 居間に通すと、彼はカバンの中から袱紗を取り出した。
「お姑さんの一周忌を終えられたそうですね。僕も挨拶がしたくて・・・」
 ゆっくりと開いた江戸紫の絹から香典袋を差し出して、微笑んだ。
「心ばかりですが、どうぞお供えください」
「・・・ありがとうございます」
 義母が突然息を引き取った朝、電話一つですぐに駆けつけてくれたのが清水医師だった。
 動揺する私たちに親身になってくれ、何かと助けてくれた。
「それと、こちらは良子さんに」
 出されたのはプラスチックのケースに詰まったさくらんぼ。
「あら」
 つやつやと光る果実が、甘酸っぱい味を思い起こさせる。
「お好きですよね、くだもの。お姑さんがよくおっしゃってました」
 どうやら、二週間おきに診察に行くたびに家族のことを医師に話していたらしい。
「ご丁寧にありがとうございます。あの・・・。確かにそうではあるのですが、私と言うより・・・」
「・・・え?」
「奈津美です。あの子が、果物を食べている所があまりにも可愛いので、つい」
「ああ・・・。そうだった。良子さんはそんな人ですよね・・・」
「そんな?」
「はい。奈津美さんが大好きで、吉央君が大切で・・・」
 私の世界は、子供たちで出来ている。
 あの子たちがいなければ、きっと・・・。
「そうですね。私の、核みたいなものなのだと思います」
 そこでふと台所で冷ましている菓子を思い出した。
「清水先生、和菓子を召し上がりませんか?」
「はい?」
「今日の夕方のお稽古のために作ったものが、ちょうどいま先ほど出来上がったところなんです。お口に合うかわかりませんが」
「それはぜひ。・・・もしかして、僕は良いころあいに訪ねたことになるのかな」
 清水医師が目を輝かせ、ソファから身を乗り出すものだから、ついつい頬がほころんでしまう。
「少しお待ちくださいね」
 居間にお客様を残して席を立つ。
 足取りが軽くなるほどに、心が浮き立つのはどれぐらいぶりだろう。


   -つづく-

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