「神渡し」-1- 

2010, 08. 20 (Fri) 20:24


 暑いですね。
 溶けそうです…。

 頭がなかなか小説モードにならないので、そんな時のために取っておいた平安物を出します。

 このカードを切ったら、本当にストックなくなるわ…。

 元ネタは、ずいぶん前に発表されていた平安物漫画のパロディなのですが、これも私の脳内で変化させ過ぎて別物になっているのでもういいかと・・・。
 
 そろそろ、『雨』の征司視点と『甘い口唇』の再開を考えていますが、とにかく、頭の中が「わたし、きいちゃん。しまもようのすてきなおんなのこ。このだんちのあいどるなの」とかいう文章がぐるっぐる回っておりまして…。
 萌えの神様退散状態です(笑)。
 いや、どちらも萌えから遠い文章を書かねばならないのですが。

 文章を書きたくてブログを始めたのですから、そろそろやらねば、ですね(笑)。

 「わたし、きいちゃん、コドモもオババもわたしにめろめろなの。だから、みんなごはんをたくさんもってきてくれるの。びじんってつらいわ・・・」

 ・・・って、ちがうって!!



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  現在は、『睦み月』で『シゲルとミケ』シリーズです。
  飲んだくれ猟師と化け猫の話。
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『神渡し』

  西風、それもかなり強い、嵐のような風。
  長月晦日の夜より始まる諸国の神々の出雲へ旅を護り届ける風のことを言う。
  そして、翌朝から出雲以外の国々は神無月となる。



「・・・風が出てきたな」

 四位少将藤原家長は馬上から空を見上げた。
「どうせなら、もう少し手荒な調子で吹いてほしいのだが・・・」
「お役目中に、何をのんきなことを・・・」
 馬を並べて進む左近中将が苦笑する。
 彼らは、葵祭の斎宮代の禊に付き従う行列の中にいた。
 行列の通り道となる一条大路は斎宮代と供奉する選りすぐりの公達を見ようと、見物の女車が立ち並び、庶民はその間を塗っておしあいへしあいの有様。
 そして、普段邸内に閉じこもりがちな良家の子女たちはこの時とばかりに衣装に贅を凝らし、化粧も念入りに施す。車の御簾の外にはとりどりの出衣がこぼれ、道中はどこもかしこも色の洪水である。
 更に、そんな女たちをひとめ見ようと、男たちもどっと群がるのだった。
 行列に加わる少将達も例外ではない。新調の衣に身を包み、背筋をのばして斎宮代の後につづいて入るものの神事ゆえに何ら危険なことはなく、警護という名目上刀を帯びてはいるが、列に乱れを見せさえしなければ気楽な役目である。むしろ、馬上から人垣を見下ろす形になり、居並ぶ女車をじっくり検分でき、幸運だと言える。
「あの網代車は・・・?」
 いくぶん先の方にいくつかの車を従わせた網代車が目に付いた。新調したばかりであろう綺羅綺羅しい周囲の車に比べたら昼の光の中いささか古びて見えるが、調度の取合わせがしっとりと落ち着いていて、逆に月日と手間をかけて磨き上げた床を見るような良さがあった。
「ああ、あれは式部卿宮家の姫君だろう。芳子女王と言ったか・・・」
「芳子女王?何故そんなに簡単に解る?」
「東宮御所にちょっと馴染みの女房がいてね。万事控えめな方で表になかなか現れないと聞いていたが、珍しく出てきたのだな。おおかた女房たちにねだられたのだろうが・・・。すったもんだでやっと秋に入内だそうだ」
「ああ、副臥を宮家の姫君が務めたといっていたが、式部卿宮家だったのか」
「お前、ちょっと世情に疎くないか?次期帝の女だというのに」
 恋でも仕事でも先輩にあたる中将は、いささか無頓着な叔父を顧みて笑う。
「宮家にまで俺は足を伸ばしていないからな・・・」
 一緒に左近衛省務める朋輩だが、現内大臣自身がかなり歳をとってから受領階級の女に産ませた末子の四位少将と、その内大臣の嫡子の更に三番目の息子である三位中将は、叔父と甥の関係でありながら、歳が近いうえに、兄達が病で亡くなるか余程の手柄をあげないかぎり栄達の道はあまりない身の上というのが似通っているからか、仲が良い。
「春風の君とか、曙の君。そう女房たちは言っているらしい」
 頼みもしないのに、気をきかせてそんな情報まで耳に入れてくれるほどに。
「女房ってのは何かと主人思いだから、些細なことも誇張して褒めちぎるから困ったものだ・・・」
 生まれ月の関係でわずかに年上の甥の世話焼きぶりを笑って軽く受け流しながらも、少将は網代車から目を離せないでいた。
 ゆっくり歩を進めているが、もう少しで近くを通り過ぎることができる。
 御簾からのぞく出し衣も美しい網代車の女主人は、いったいどういう姿をしているのか・・・。
 そう考えながら、馬の手綱を引き気味にしたその時。
 女たちの悲鳴と共に、前方から物凄い勢いの突風が吹いてきた。
「危ない!!」
 中将と共に手綱を一気に引き寄せ、馬を止める。
 そして、砂埃の舞い散る中、尚も網代車に目を向けると・・・。
 薄もやの向こうに、二人の女がいた。
 網代車の御簾が風にはねあげられて、袖口に顔を伏せる女たちの姿がはっきり見える。
 一人は萌黄を基調とした衣装の女、もう一人は白地に紫の文様の唐渡りと見える衣を着た女。
そして、唐渡りの衣に身を包む女が面を上げた。
乳白色でやわらかい輪郭を描く小さな顔が、栗色に波打ち暖かい光を放つ豊かな髪の中にひっそりと包まれていた。
年の頃は東宮よりいくらか年上でどちらかと言うと20半ばの自分に近いと聞いていたが、高貴な衣装に身を包むそのさまは少女めいて見えた。
 一瞬、自分を見つめる少将に驚いたように黒目がちの瞳を見開いた後、いたずらが見つかった子供のように少し困った表情を残して、口元を袖で隠す。そして、隣に座っていた女が素早く御簾を手に留め、引き降ろしてしまった。
「あ・・・」
 そして更に事態に慌てた警護の者達が取り囲んでしまったので、網代車の中の様子すら解らなくなった。
「三条が芳子女王に仕えているとは聞いていたが、相変わらず壮絶な美人だな」
 やはり、砂塵をものともせずに女たちの動向を眺めていた中将は、感に堪えないといった面持ちで息をつく。
「・・・あの、萌黄の衣の女か?」
「ああ。麗景殿女御が数年前に差し出したらしい。なんといっても当代きっての恋歌を詠む女房だからな。数年前に一度手合せ願ったが、あっという間にかわされたよ」
 袖にされたことを告白しながらも、中将の語り口は生き生きとしていた。
「なるほど、歌上手の女房は恋上手というわけか」
 いつのまにか収まった風に前方からの再出発の号令を聞き、二人は馬の脚を進める。
 そして、中将と始終軽口をたたきあいながらも、少将は頭のなかで袖口に隠れるようにしながらも自分を見上げた黒い瞳を何度も反芻していた。



 帝の次の弟君である式部卿宮は風流を好み、邸内の隅々までそのしつらえに気を配る。
 調度品も古いものを大切に扱いつつ、唐渡りの楽器などもいち早く入手して飾り、そのとりあわせが式部卿宮の趣味の良さをうかがわせた。庭の植え込みに至っては、四季折々の花々がどの部屋にいても楽しめるように手入れするよう下人に言いつけている。
「いつ来ても、この屋敷は花盛りだね」
 桜の花が咲いた後は花の季節の移り変わりは瞬く間である。
 暖かい日の光と豊かな雨の中、すべてが競うように花開く。
 桜、石楠花、芍薬、牡丹、藤、そして・・・。
 縹の直衣に身を包んだ訪問客は、池に青々と草むらを作り、風にそよぐ菖蒲の葉を眺める。
「父上に言わせれば、一番の道楽だそうです」
 首を傾けた拍子に、白地に紫の花の文様を織り込んだ唐渡りの衣の上を少し色素の薄い髪がふわりと滑り落ちた。
「・・・葵祭の時もその衣装だったね。小侍従たちにねだられて一条大路まで出たようだったけれど、たまには祭見物も気晴らしに良かったのではないかな?」
「ええ、とても楽しかったです。町中に葵の葉がそれぞれ思うように飾ってあったのがとても綺麗だったし、子供たちまではしゃいでせいいっぱい装っているのも可愛いくて・・・」
 ほのぼのと笑う姫君の髪をひと房手に取り、口付ける。
「斎宮代の行列もなかなかそうそうたるものだったね。今年担当の者たちがはりきって準備して見栄えのある公達ばかり取り揃えたらしいし、それを聞きつけて御所では女房達が大騒ぎしていたよ」
「そうでしたか。おかげで、牛飼い童達が場所を取るのに難儀したと後でこぼしておりました」
祭の混雑ぶりを思い出し、二人は笑みを交わす。
「そういえば、あの時に突風が吹いて悲鳴があちこちから聞こえたけれど、大丈夫だったのかな?」
突風が吹き御簾を取り去った瞬間、砂塵の向こうに人がいた。
射るような瞳が怖いと思ったけれども・・・。
「・・・ええ、三条たちが側におりましたから」
 薄もやに消えていった行列を瞼の下で追いかける。
「姫が風にさらわれたら、どうしようかと思ったよ」
そして、男は更に手を伸ばして姫君をゆっくり抱きしめた。
「・・・東宮さま?」
「姫がそばにいるときが、一番ゆっくりできる・・・」
 肩口に顔をうずめられ、まだ少年の名残りのあるしなやかな背中に静かに手をのばす。
「・・・東宮さま・・・」
 ぬくもりにそっと頬を寄せて目を閉じた。



  『神渡し』-2-へ続く。




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