『秘密の花園』-月の草-2- 

2016, 10. 05 (Wed) 20:06

 今日、イベント会場から送り返した荷物が届きました。
 実はその中に戦利品も突っ込んでいた私。
 ・・・待ち遠しかったです。
 さらに告白しますと、帰りの飛行機で富士山を見て疲れが吹っ飛んだ私は、師匠の戦利品を取り出してむさぼり読みました。
 左脳さんの小説、めっちゃ面白い…。
 今まで知らなかったことが不思議です。
 いつかこの件について熱く語りたい。

 あ。
 台風は大したことなかったです。
 風になぶられるよりかはと切り花したアマリリスが、部屋の真ん中に鎮座しています。
 明日は洗濯三昧…のつもりだけど、夕方になってトラブルが発覚したのでまた先の見えない事態になりつつあります…。
 年配者の独り暮らしは、ほんと、気が抜けません…。電話口では、話が分からないし。
 明日、様子見に行って、場合によっては病院へ連れて行かねば…なるまいな。

 とりあえず、上げられるうちに上げとこう。
 『月の草』第二話。
 父と次男対決。
 相関図でお分かりいただけるでしょうけれど、清乃が二番目の子供なので、憲二は第三子にあたります。
 これから、秘密の花園シリーズを載せるときは、この相関図貼っといた方が良いような気がしてきました…。

真神家相関図12

 本当は色っぽい話満載のはずだった『月の草』。
 なぜか、憲二の子供がえり話になっています。
 ・・・まあ、往々にしてそんなもんです、私の作る話。
 運転手の佐川にしても、金庫番の金子にしても、私の付ける名前はいい加減…。
 ですが、そこも含めて楽しんでいただけたら嬉しいです。



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  現在は、『睦み月』で『シゲルとミケ』シリーズです。
  飲んだくれ猟師と化け猫の話。
  楽しんで頂けたら幸いです。

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『秘密の花園』―月草― -2-



「お待ちください、憲二さん!!」
 青の静寂が、突然途切れた。
 目を開くと太陽は高く上がり、濃紺の麻のジャケットを軽く着こなした青年が目の前に立っていた。
「起きてください。話があります」
「・・・随分と、久しいな」
 生まれた瞬間から踏みつけにし続けた、三番目の子。
「憲二。お前が私を訪ねてくるとはな」
 琥珀色の瞳が強い光を帯びる。
「俺の方も、こうしてあなたを訪ねることになるとは、驚きですよ」
 あなた、と、憲二は自分を呼ぶ。
 父と、呼ばれたのはいつが最後だったか。
 呼ばせたことすらなかったかもしれない。
 それなのに、不思議なことに自分の瞳の色を受け継いだのは、この憲二だった。
 幼いころはどんな色なのか、目元なのか解らなかった。
 無いものとして無視していたせいもある。
 しかし、彼もまた、こうして自分を見つめることはなかった。
 それが少しずつ変わってきたのは・・・。
「ああ、そうか」
「・・・なにがですか」
 ふっと笑うと、憲二の表情はますます険しくなった。
「いや。自分の中で、ようやく合点したことがあっただけだ。気にするな」
「気にするなとは・・・」
 話がそれつつあることに、気が付いたのだろう。
 ぐっと、悔し気に何かを飲み込んだ。
 もう十分大人で、社会的地位も信頼も得ているにもかかわらず、優美に整った目元に何故か幼さが残る。
 こんなに、表情豊かな子だったのだ。
 それが解っただけでも、ここまで生きた価値はあるだろう。
「それで。・・・何をしにここまで来たのだ、憲二?」
 目の端に、青の花びらが映る。
 お前は。
 お前たちは、どうしたい?
 また、静かな海へ戻る前に。
「話を聞こう。そこに座りなさい」
 残された時間は、そう、多くない。


「長くは、時間を取らせません。まずは、これを見てください」
 並べられた紅茶や軽食に口をつけることなく、憲二はいくつかの書類をテーブルに広げた。
「・・・これは?」
 いくつかのの国とその地方名、そしてけた外れの金額が多く書き込まれた表にざっと目を通してから問う。
「隠し財産です。俊一の」
 俊一。
 十年以上前に亡くなった長男の名前をここで聞くことになるとは思わず、さすがに驚く。
「・・・どういうことだ」
「所謂、タックスヘイブンと呼ばれる所を利用して、俊一は生前錬金していたんですよ。金庫番を一人置いてね。ご存じなかったのですか?」
 知らない。
 誰よりも可愛がった長男だったが、何一つ知らなかった。
 何を考え、何を愛しているかなんて、必要ないと思った。
 その頃、自分は俊一に跡を継がせるための強固な権力を作り上げることだけに心血を注いでいたのだから。輝かしい未来さえ手に入れれば、幸福なんて後でついてくると思っていた。
「しかし、これはあれが亡くなる前のものだな。なぜ今になってこれを?」
「そうです。俊一と峰岸が一緒に亡くなった時、金庫番が欲に目がくらんで横領して逃げたと俺が気付いたのが・・・。二年後だったかな。妙な日本人が羽目を外しているとラスベガスで話題になって、顔を見たら見覚えのあるヤツだった。金庫番の金子。昔、一度だけ俊一に紹介されたけど、すっかり忘れてました。なんせ当時は高校生だったもので」
「そんなことが・・・」
 俊一が事故死して、すぐに留学中の清乃を呼び戻して政治家に向いていると見込んだ勇仁と結婚させた。しかしそれがもとで清乃は心を病み、極限の状態で春彦が生まれた。思い出すこともできないほど、色々な事が真神家に降りかかり混乱しつづけた。
 そのさなか、憲二は大学を休学して突然アメリカへ留学した。母親や勝巳にすら告げることなく、ふらりと近所へ散歩に行くかのように、軽く手を振って。
「まさか、お前がラスベガスなんぞに行くとはな」
「話を聞いて思うところは、そこですか?」
「ああ。私はお前の留学時代のことは全く知らないからな。まあ、こうして職に就いているということは、そこそこ有意義だったのだろうなとは思っていたが」
「え?」
「なんだ?私がお前のことを考えていると、そんなに驚くことか?」
「そりゃ・・・」
 身を乗り出しかけて、憲二が我に返った。
「・・・ああ、もう、そうじゃなくて。とにかく、俺がようやく金子の部屋へ乗り込んだ時には、ちょうど死のうとしているところで・・・」
 金子は俊一の大学時代の同級生で、10年に及ぶ金庫番を極秘で務めるほどには有能で、誰にも仕事内容を漏らさずにいられるほど真面目で、善良だった。
 ただ、魔がさしたとしか言いようがない。
 誰にも知られない、極秘の宝物庫。
 なら、自分が持ち逃げした所で、誰にもわからないのではないか。
 横領を始めて一年くらいは周囲を警戒して、小さなリゾート地を渡り歩く程度だった。
 しかし一年経っても真神家に動きはなく、誰も俊一の隠し財産に気が付いていないと断定した途端、たがが外れた。
 いち個人では到底目にすることのない、莫大な金。
 当時が好景気だったせいもあり、それはまるで魔法のように増え続けることを辞めなかった。
 とにかく、使って使って、使いまくった。
 全身を上等なもので身を固め、生粋の金持ちのふりをした。
 不思議なことに、出まかせの嘘を誰もがそれを信じ、すり寄ってくる。
 金さえあればどの国も人々も必ず相好を崩し、しびれるほどの優越感を味わった。
 金で買えるものは世の中にはいくらでもあった。
 車も、家も、船も、女も、手に入らないものはない。
 だけど。
 賭けでどんなに負けたとしても、なぜか次の賭けで倍額になって入ってきてしまう。
 大きな買い物をしたとしても、それは手に入れた瞬間、屑同然に変わった。
 出口の見えない、金の洞窟。
 かき出してもかき出しても、金に囲まれていた。
 自分が飲んでいるものは水であって、水にあらず。
 抱き寄せた女は、人であって、人にあらず。
 金子は、気が狂う寸前だった。
「結果、奴の一年あまりの豪遊でも十分の一にも満たない使い込みにしかなりませんでした。俊一たちが職人のようにコツコツと世界各国に仕込んだ金は、どこの国が傾いても困ることのないよう運営されていたので」
「なるほど。そんな才能が俊一にあったとはな」
「俊一、というより峰岸ですね。金子と密に連絡を取っていたのはあいつだったようなので」
「そうか・・・」
 峰岸覚。
 先代の愛人の連れ子。
 そして、俊一を壊した男。
 その名を聞くと、殺しても、殺したりないくらいだと思っていた。
 ・・・しかし、今は。




                  -つづく。-



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