『秘密の花園』-月の草-1 

2016, 10. 04 (Tue) 20:50

 J庭41にて無料配布したコピー本を、早々に公開したいと思います。
 ただ、駆け足で書いた部分を少し加筆修正するので、全く同じと言うわけにはいきませんが・・・。

 イベント前日に籠っている間、USBメモリーに突っ込んでいた過去作品をざっと読み返し、色々修正したい気持ちと戦いながら先に進みました。エロの所とか、自分で読み返すとぎゃーってなります。何度も、ぎゃーと叫びながら、頑張りました。
 次回はもっときちんとした形でお届けするよう努力します。

 ところで、「ちゃんとやってますか。作らないと意味ないですよ」と、仕事場ですれ違うたびにぼそりと叱ってくれた後輩Eちゃん、そして同じく道場の師匠、そして、「読みたい」と何度も励ましてくれたM月さんに感謝します。
 そして、Twitterで励ましてくださった方々も。
 皆さんのおかげで、なんとかまとめることができました。
 書きたいことは、まだまだあるので頑張ります。

 ちなみに、今回のコピー本にこれを付けました。
 金曜日にネットカフェに籠った時にワードで作ったんですよ…。
 誠に申し訳ありませんが人間関係が入り乱れているので、役立てていただければ・・・。

真神家相関図12


 ではでは、かなりぐるぐるしている『月の草』。
 少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。




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  現在は、『睦み月』で『シゲルとミケ』シリーズです。
  飲んだくれ猟師と化け猫の話。
  楽しんで頂けたら幸いです。

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『秘密の花園』―月草― -1-



 月草の借れる命にある人をいかに知りてか後も逢はむと言ふ
  (月草之 借有命 在人乎 何知而鹿 後毛将相<云>)
              作者不詳 万葉集 巻十一-二七五六


 幸せな、夢を見た。
 まだ大人になりきれず中性的な面影を残した俊一がふっくらとした赤ん坊を腕に抱いて歩き、そばには彼の上着の裾を固く握って離さない幼い憲二と、お転婆に飛び跳ねてくるくると回る清乃。
 三人は異国の歌をとりどりに口ずさんでは笑っている。
「あれは、マザーグースよ」
 母、絹の、聞いたことのない嬉しそうな声。
 風が、木々を揺らして木漏れ日もちらちらと揺れる。
 白い光に包まれた中、夏の薔薇が咲き乱れる花壇の向こうからゆっくりこちらへやってくる女性が見えた。
 くちなしの花弁のようななめらかで白い肌、黒目がちで涼やかな瞳、薄く色づいた小さな口元。
 目が合った瞬間、ほほ笑んだ彼女の唇に命が灯る。
「あなた」


「・・・っ」
 指先が、空を掴んで目を開いた。
 サンルームでとりどりの書類を読みこんでいるうちに、いつの間に深く眠ってしまったようだ。
 今はまだ夜明けから少し経ったばかりで、朝露の匂いが清々しい。
 ふと身体に目をやると着せかけてあったのは、覚えのあるキルト毛布。
 ゆっくりとした足音に顔を上げると、コーヒーと朝食を載せた盆を運ぶ家政婦の姿が見えた。
「・・・これは、勝巳か?」
 軽く毛布を持ち上げると、住み込みで働いて久しい家政婦はほろりと表情を崩した。
「はい。それはもう、旦那様を心配なさって」
 もう七十に近いであろう彼女にとって、幼児の頃から面倒を見てきた勝巳が可愛くて仕方ないようだ。
「その露草も、勝巳さんが夜明け前に摘んで、生けてらしたようです」
 大きめのテーブルの中心には、色鮮やかな青い花をつけた露草が数本、ガラスの花器に生けられていた。
 当の勝巳は、庭を少し世話したあと朝食も取らずに東京へ戻ったという。おそらく、医師としての仕事が待っているのだろう。
 駅へ向かうタクシーに乗り込む寸前、ふと思い出したように勝巳は見送りの家政婦たちに生けた花のことを言付けたらしい。
「きっと、旦那様が露草を目にされることは、なかなかないだろうからと」
「なるほど・・・な」
 数年前に政界から身を引き、清乃の夫で婿養子の勇仁に全てを委ねた。
 しかし、古参の支援者とのやりとりなど、根回しにあたる一部の業務はいまだに自分と専属の秘書たちの仕事だ。
 心身ともに万全と言えない娘の清乃が政治家の妻としての務めを果たせない以上、出来るだけのことをやろうと思っているが、ここのところ年のせいか疲れやすくなった。
 気が付いたら自分ももう、八十も目前だ。
 いささか長く生き過ぎた。
 しかし自ら壊した世界をなんとか修復したくて、今もこうしてあがいている。
「あれは、花をよく知ってるものだな」
「・・・ええ。庭の隅々までご存知です」
 何もかも心得ている家政婦は多くを語らず僅かな笑みを返すのみで、手早くテーブルの上を整えて静かに辞した。

『夏になったとはいえ、この辺りは風通しが良すぎるから、どうかお気を付けください』

 勝巳。
 お前の、深く、柔らかな声が聞こえてくるようだ。
 私が殺そうとした、四番目の子供。
 なのに今、誰よりも近くにいるのは、なぜだろう。
 
 濃い青に染まった二枚の花びらと細く垂れさがる繊細な雄蕊が、窓からの風を感じてかふるりと揺れた。
 夜明け前に目覚め、昼の光の強さにしおれる花。
 こんなにも濃く標すのに、長くとどまれない青の色。
 数日で散る桜を、人は儚いと言っては命を語る時によく用いるが、もっと儚く、美しい花は他にいくらでもあるのだと、この庭のかたわらで過ごすようになって知った。
 いや。
 それを教えてくれたのは、ひとりの人。
 押しつけがましいことは一切なく。
 寄り添うように。
 そこに根差す草木のように。
 ただ、ただ、静かに存在する。

「勝巳」

 なぜ、と問うのは愚かなことだ。
 自ら知ろうとしなかった日々の重みが、今、ずしりと身体に覆いかぶさる。
 私はお前に、何ができるだろう。


 僅かに露を残した露草の、瑠璃のような青。
 音もなく通り抜ける、草の香り。
 眺めているうちに、ざわめいていた心が青の世界へと沈んでいく。
 夢をまた見ている、と、どこか冷静な意識が自らに語りかける。
 夢の中では、誰もが自由で。
 潜ったことなどないのに、深い海の底を目指してゆっくりと自分は降りて行った。
 海は恐ろしいほど青く美しく、酸素と思われる小さな白い泡がどこからか沸き上がる静寂の中、見上げた天には煌々とした光。
「月草、と言ったか・・・」
 露草の、古代につけられた名を思い出す。
「月草の・・」
 
 借れる命にある人を・・・。
 
 逢いたいと、思った。
 許されるなら、もう一度。
 夢の海で見つけた、真実。



                  -つづく。-



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