『野分』-9-(刀剣乱舞二次創作) 

2016, 09. 07 (Wed) 19:14

 気が付いたら、刀剣シリーズで一番長い話になってしまった、『野分』。
 まさか、『小夜風』の文字数を軽く超えてしまうとは…。

 そしてようやく、今までちょっと影が薄かった燭台切光忠のターンです。
 みっちゃんごめん、あなたこの話のメインディッシュなのに(←笑)!!
 みなさんお気づきと思いますが、三日月宗近と石切丸にかるーくはしに追いやられた感のある燭台切が、今話のキモです。
 今から活躍するんです、今、ここから。
 これからの巻き返しを、楽しんでいただけたら…と言うか、私自身がどう回収するのか、生暖かく見守っていただけたら幸いです。

 明日さらに10話を更新できるよう、頑張ります。




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  現在は、『睦み月』で『シゲルとミケ』シリーズです。
  飲んだくれ猟師と化け猫の話。
  楽しんで頂けたら幸いです。

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  『野分』-9-



 どんな時も平常心を失わない男と、言われてきた。
 人付き合いもあしらいも上手く、集団のまとめ役になくてはならない存在。
 懐が深いとか、心が広いとか。
 多くの賛辞を受けたが、それはあくまでも表面的なことと解っていた。
 本当の自分はそんな男ではない。
 見栄っ張りで、色々取り繕ううちになんとなくそう見えるように振る舞えただけだ。
 そもそも山姥切国広が降臨したのは、自分が近侍を務めて刀鍛冶を行った時だった。

 『山姥切国広だ。……なんだその目は。写しだというのが気になると?』

 喧嘩を売る気満々な台詞を耳にした瞬間、「面倒なのを引き当ててしまったな」とまず思った。
 自分を含め、どの付喪神たちもいくつかの辛い過去を引きずり、囚われている。
 それは、刀剣である限り当たり前のことだ。
 しかしこの男は初対面からこじらせぶりを前面に出し過ぎていて、厄介だ。
 どうしてよりによって。
 審神者と大喧嘩して出奔した山姥切と因縁の深い、しかも写しとか言うのが来るかな。
 自分の貧乏くじの引きっぷりに、天を仰いだ。
 しかし、『写し』と言うのに、本科の山姥切と彼は体格以外重なるところが全くなかった。
 『本科』は、艶やかな黒髪を綺麗に整え、高価な装束に身を包んでいた。
 指先一つまで丹念に磨き上げられた、誇り高き刀剣。
 それに比べて、『写し』の姿は異様ともいうべきものだった。
 身につけている服の全てがいかにも着古していて、スラックスの裾は何かのしみに染まり、膝には裂けた後がそのままになっており、まるでたった今戦闘から戻ったといわんばかりの風体。
 数多くいる刀剣たちでそのような者はいない。
 皆、最低限の身なりには気を付けている。

『いっつも薄汚れた格好して、見るなーとか威嚇してきやがるけど、逆に悪目立ちしてみてしまうっつーの』

 先日、加州清光が酒席でそうぼやいていたが、ほとんどの者が同じ思いだっただろう。
 かたくなで、ひねくれていて、見るからに変人。
 新入りだからと身の回りの世話を任された数日間は憂鬱で、誰か変わってくれる奇特な奴が現れないかと内心いらだっていた。
 しかしそれもすぐに終わりを告げた。
『よく来たな、兄弟!!拙僧は山伏国広。お主の兄貴分に当たる!!仲良くしようぞ!!』
 無駄に元気で、と言う点で少し浮き気味の山伏国広は遠征から戻るなり、山姥切国広に駆け寄り、カカカと笑いながら太い腕で抱き寄せた。
 山伏の暑苦しい歓迎ぶりに、当然山姥切は反発するだろうと思い、またひと悶着起きるのかと居合わせた自分を含め皆慌てたが、意外や意外、新入りは捕らえられた腕の中で身を固くしながらも、小さくうなずいた。

 『よ、よろしく頼む、き、兄弟…』

 たどたどしい言葉から、それが彼の精一杯なのだと、ようやく理解した。
 そして、山伏に肩を抱き寄せられたまま歩きだした山姥切の横顔に、どこか安堵の色が浮かんでいた。
 彼は、降臨してから今まで、ずっと緊張して空回りしていただけではないかと気が付いたのはそれからさらに数日後。人懐っこい乱藤四郎が山伏と山姥切の仲間に加わり、何かと世話を焼くようになった。

 『山姥切はね。不器用と言うより、ぶきっちょかな。・・・面白いよね。戦闘中はあんなにすごいのに』

 聞いたところによると、日常生活に関することがてんで駄目らしい。駄目と言うより、知らないと言う方が正しいと、後から追って訂正が入ったが。
 縫物、洗濯、料理の作り方まで乱は根気強く教え、山姥切国広は素直に学んだ。
 そして、言葉少ない彼から乱と山伏がわずかに聞き出したのは、彼は主君及び同僚の運がない事だった。
 少なくとも、前回の任地では放逐の憂き目に遭っていた。
 執拗に言いがかりをつけて絡んでくる同僚との揉め事から相手に傷を負わせてしまい、もともと覚えめでたくない主君の怒りを買い、追放されたのだと言う。

 『コドモかっての』

 乱がせせら笑い、続けた。

 『本当は、山姥切に振り向いてほしかったんだよね、ソイツ』

 好きな子にボロ負けして、プライドズタズタだったんだねと、まるで見てきたかのように言う。

 『実際、強いからね。山姥切は。強くて、綺麗。あと、可愛い』

 綺麗?と思わず聞き返すと、乱は声をあげて笑った。

 『え?燭台切も知らないの?めちゃめちゃ綺麗だよ、山姥切』

 どんなに考えても思い出せるのは、彼のまとう襤褸。

 『本科が嫉妬して呪いをかけたって噂を聞いたことがあったんだけど、さもありなん、だよ』

 意味ありげな笑みに、ちょっと好奇心がくすぐられた。
 綺麗?
 可愛い?
 彼のどこが?
 それまでは正直、乱がもっと服装を改めてやればいいのにと思っていた。
 戦闘中は確かに使えるけれど、それも自分が将の時は彼の無鉄砲な戦いぶりに肝を冷やすことが多い。厄介な刀剣であることには変わりがなく、綺麗とかどうでもよかった。
 乱の言葉がようやく飲み込めたのは、審神者の誕生日会の時だった。
 無礼講をうたう宴会の席だったが、山姥切に限り、審神者たっての願いで装いを改めさせられていた。
 審神者の要望をある程度把握した乱が万屋で調達してきたのは、上品な青色のニットとジーンズを合わせただけの軽装だった。しかしいつもは体のほとんどを隠してしまっていた覆い布を外して顔をあらわにするだけで、誰もが驚くほどの別人になった。
 金色の髪は絹糸のようにさらさらと風に流れ、細くて長い首筋と白い頬はまるで白磁のように滑らかで、そして藍銅鉱を切り取ったような瞳。
 本科より美しい、本科よりも高貴な刀剣、と、最初の主が誉めそやしたのも、幼い審神者が『王子様みたい』と見惚れたのも、頷ける。
 しかし、当の本人は周囲に注目されるのが恥ずかしくてたまらなかったらしく、慣れない酒を水のように一気に飲みほして、あっという間に酔いつぶれて退席した。
 山伏に背負われる時、頬を染めたぼんやりとした表情のまま「あにじゃ、兄者」とあどけなくさえずる山姥切の姿は、まるで幼子のようで、なぜか胸がずきりと痛んだ。
 それから、急に彼から目が離せなくなった。
 自分のこととなると必ずひねくれた物言いになるが、それ以外ならばまっすぐで公平な見方をすることができること。
 実はかなり真面目すぎる部分もあり、畑仕事の時に根を詰めすぎて、倒れたこと。
 山伏の影響なのか動物が結構好きで、馬たちにかなり好かれていること。
 たまに笑みを浮かべる唇の色が、桜の花びらのように薄く色づいていること。
 時折、熱田神宮の宝刀と謳われる太郎太刀を、磁石で引き寄せられるように眺めてしまうこと。
 周囲で彼の視線に気が付く者は自分だけではなかった。
 ああ、またこっそり見ているな、と微笑ましく思い、王の風格と神聖さを併せ持つ太郎太刀を、ただただ崇拝しているのだろうと認識していた。
 そしてまさか当の太郎太刀がそれに気づき、山姥切を好ましく思い、是が非でも手に入れたいと画策することになろうとは、誰が想像しただろうか。
 ある日突然、太郎太刀は負傷の手当てを名目に山姥切を監禁し、言葉を尽くして篭絡した。
 まさか。
 まさか、そんな急な展開があろうとは、思わなかったのだ。
 たとえ三日三晩かけたとしても、あの山姥切国広の、心を預けられる男がいようとは。
 そして、あの日。
 太郎太刀と自分の任務の依頼が直前で入れ替わり、本来なら戦場で共に戦っていたのは自分だったはずなのだと言うことが、どうしても頭の隅から離れない。






             -つづく-



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